竹垣に囲まれた隣家のクロ
竹垣に囲まれた古風な隣の家にクロという犬がいた。
幼稚園で友達の出来なかった佐弓には貴重な『友達』だった。
その名の通り真っ黒のミックスで、通りかかる人に吠えるうるさい番犬だったが佐弓には一度も吠えたことがなかった。
幼稚園から帰ると絶対にクロのところにいって頭を撫でた。隣のおばさんに頼まれて散歩に連れていくことも多かった。
(お母さんに内緒で残した弁当、よく食べてもらったよねー。)
佐弓は思い出すだけで顔が笑顔になった。
嫌いなおかずや、食べきれなかったおにぎりを残して帰ると、いつもは優しい母が烈火のごとく怒るのだ。
だから佐弓はそれを幼稚園から帰ると急いでクロのところにもっていき、食べてもらう。
(可愛かったなぁ。クロ。)
散歩中に幼稚園で佐弓をいじめていた男の子に遭っても、クロがいれば平気だった。
クロが彼らに吠えて威嚇してくれた。なんなら一度佐弓をからかって小突いた男の子に噛みついたことすらある。
(噛みついてくれてのはいつだっけー?あれはやり過ぎだったけど…でも嬉しかった…)
佐弓にとってクロはヒロインのピンチを救うヒーローのように映っていたに違いない。
「クロ、大好き!」
その時佐弓はクロを抱き締めてそう言った記憶があった。
(あれ?でもクロは…いついなくなったんだろう。)
その先の記憶がない。
そういえば、その日からあとのいじめっ子の記憶もない。
(んー。)