僕が……王子……?
「僕が……王子……?」
急に一国の王子と言われても、ピンと来ないし、そもそも名前が全く違う。
利央ではあるが、リオではないし、その後にそんな外国人みたいな名前は続かない。
「そんなわけない……!」
という台詞を言おうとしていたのだが、その前にリリーの口からその言葉が出てきた。
「間違えました。これは、リオさんのセリフでした」
先ほど、まだ彼女の家があった時に、同じようなセリフを聞いた気がするが、それは特殊能力か何かなのか?
「安心してください。リオさんは、ちゃんと王子ですよ! かっこいい服着てます!」
王子である根拠がかっこいい服を着ているから、と言われても、これはただの学校の制服である。
「分かった! 分かったから、早くリオ王子と一緒に、一刻も早く、この場から逃げてくれ!」
「なんでですか?」
「だから! 俺のパートナーがこの近くに――――」
「――――誰が近くにいるって?」
それは野太い声で、サムという男の声でも、リリーの声でも、僕の声でもなかった。
サムの後ろに、大男が佇んでいた。たぶん、この男の声であろう。
赤い眼で赤い髪の男。体は縦にも横にも大きく、サムも振り返って、男を見上げた。
この男がさっきから逃げてと連呼していた原因なのか。確かに、見た目はすごい威圧感だが、その本当の脅威をまだ僕は知らない。
「おいサム。お前は、俺と何しにここに来たんだ?」
「……警備及び探索です」
「そうだ。よく分かってるな」
男はサムの頭を左手で撫でる。それはまるでペットにでも接しているようだった。
しかし、悪い事をしたならば、ちゃんと叱らないと、ペットは良い事をしたと思ってしまう。
男はちゃんとした躾の仕方を分かっていた。
「だが――――」
付け足した言葉と共に左手でがっちりと頭を鷲掴みにすると、残った右拳をサムの腹目掛けて、勢いよく振るった。
「――分かってないな」
魔法陣のようなものが、大男の拳の周りに発生し、その瞬間、大量の赤い血が背中から噴き出した。
目の前で起きてる事が、現実なのか否かの判別がつかない。だって、仲間じゃないのか。仲間を殺したのか。
「そんな……サムさん……」
目に涙を浮かべながら、口を塞ぐリリー。
彼女を見下ろしながら、大男はサムを地面に放り投げた。
「またお前か、コリンズ。サムがよくお前の事を見逃しているのは、俺の耳にも何回か入ってきていた。確か、お前は予言する者として有名だったはずだが、この国が終わると予言して、国外追放となったのではなかったか? 何故、まだここにいる? サムがこうなることを予言できなかったか?」
「わたしは、この国をはなれたくないです……妹がまだ……」
「そうか。だったら、俺がこれからどうなるのか、予言してみせろ。それ次第では、今回は見逃してやる」
「……言ってもいいんですか?」
彼女の尋ねかけに男は何もしない。首も縦に振らず、口も開かず、ただじっと、彼女を睨みつけていた。その眼は言っていた。言葉を違えば、殺す、と。
彼女もその事は重々、承知だろう。だから、無難な発言をすればいいだけだった。
「あなたは死にます」
「……? どうして……?」
思わず声を出してしまった。
だって、そんな発言をしたら、殺されるに決まってるじゃないか。嘘でもいいから、良い未来を言えば良かったじゃないか。
「大丈夫です。リオさんは、強い人です」
彼女が僕の手をぎゅっと両手で握り締める。暖かかったが、震えていた。
彼女は笑って、いった。
「どんなことがあっても乗り越えられます――――」
その刹那、目の前が赤く染まった。
彼女が倒れていくのを必死に抱きかかえて、止めようとする。
両手で握っていた彼女の手が離れていこうとするのを必死に掴む。
自分でも訳が分からない言葉を叫んでいる気がした。彼女を繋ぎ止めようと、目を閉じたその顔に向けて。
段々と、冷たくなるその手を、冷まさないように握り締めた。
「良かったよ。俺は、この国の人間でも赤い者だけが、国いるべきだと、思っているからな。お前のような人間は、死んでくれた方が良い」




