プロローグ
「ここはどこですか?」
可愛い女の子の声が聞こえた。
声だけが聞こえて、その姿は見えない。目の前は真っ暗である。
暗いのは、目を瞑っているからで、目を開ければ、視界は明るくなるだろう。
そう思って、重い瞼を開くが、映ったのは薄暗く、ボロボロになった、木材でできた天井だった。
照明はなく、部屋を照らし出すのは、天井や壁の隙間から零れた、外からの光だけだ。
「間違えました……これは、あなたのセリフでした」
落ち込んだ声色で、意味の分からない言葉を吐いている。
僕の台詞だ、と言ったのは、「ここはどこですか?」という台詞のことなのだろうか。
確かに、今、僕がいる場所は、記憶の中には一片も存在しない。
間違えて、人の台詞を言ってしまう女の子。彼女は一体、何者なのだ。
気になって彼女の顔を見ようと、上体を起こす。
すると、声の主は目の前にいて、目と目が合った。
薄い青い色で肩を隠すくらいに長い髪の毛で、眼の色も青い。茶色でぼろい布切れを、一枚だけ羽織っている。真っ白で綺麗な肌は、所々、黒く汚れていた。
完全に日本人ではない、その容姿に、僕は驚いた。聞こえてた言葉は、確かに日本語だったからだ。
だが、考えてもみろ。このご時世、国際化が叫ばれる中、国際結婚も珍しくない。彼女が、ハーフである可能性は大いにある。
何故、そんな彼女が、今目の前に膝を抱えて座り込んでいる?
気になる事は、山ほどある。
そこで、一つだけ試しに、彼女に向けて、尋ねてみることにした。
「ここは……どこですか?」
これが、彼女と僕のファーストコンタクトだった。