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九番街。とある新築マンションの最上階。
キールがここを訪れるのは二回目だ。
キールと、キールについて来たケイトは、そのマンションの一室の前にいた。
「俺の相棒に頼めば強引に侵入する事も出来なくはないんだけど、俺の勘なんて曖昧な理由で建物を破壊するわけにもいかないからさ。――でも、ケイト。君なら開けられるんじゃ?」
玄関扉に手をつき、キールはケイトを振り返る。
ケイトは鞄の中を漁り一本の鍵を取り出すと、いとも簡単に解錠してみせた。
「やっぱね~。君は持ってると思ってたんだ」
「それで?」
問われて、キールは口の前で指を立て、しーっとジェスチャーをする。キールの方が五月蝿いぐらいなのだが、ケイトが指摘する事はなかった。
遠慮なく部屋の中にあがり込むキールの後を、ケイトも黙ってついて行く。
「家主が外出中なのは確認済みだから心配しなくていいから。でもまぁ、隣近所に侵入した事がバレるのは困るんで、あんま大きな音は出せないけどね」
小声で話すキールにケイトは黙って頷く。
廊下を進み、ガラスが嵌め込まれたドアを開け、抜けた先。部屋の更に奥、南東側に鍵穴のついた一つの扉がある。
「ここの鍵までは持ってません。中に何があるのか気になってはいましたが、入るのを許されてませんでしたから」
ケイトはフードの端を握る。無力な自分を責めているのか掴む力は強く、フードに深く皺を作る。
扉の前に立ち、キールはズボンの尻ポケットから革製のケースを引き抜く。ケースの中には何本かの金属の棒のようなものが並んでおり、それを取り出し鍵穴に差し込む。
「俺、こう見えて手先を使うような細かい作業が好きでさ。手に職っての? 色々出来た方が思わぬところで役に立つってもんだよ」
膝立ちになり手元を動かすキールの横を、「んなぁー」という鳴き声と共に猫が通る。猫がキールの足にちょっかいをかけ始めたので、ケイトが「邪魔しちゃ、めっ」と猫を抱き上げた。
「玄関の鍵はそう簡単に開けられないけど、こういう単純な作りのものだったら、ここをこうしてこうすると――ほれ」
カチャ、という音が鳴った。キールは満足そうな顔で、ドアノブに手を掛ける。
「さて、ご開帳~…………って、んん!?」
何度ドアノブを回し押しても引いても、扉はびくともしない。
「なんだよもー。新築のくせに建て付け悪くなってんじゃ? こうなったら――」
ドアノブから手を放したキールは、数歩下がると助走をつけ、
「あらよっと!」
そんな締りのない掛け声をつけ、勢い良く蹴破った。運動が苦手というキールだが、長身からくる無駄に長い脚は単純な力ならそれなりにある。
お陰で扉は開いたが、その際に大きな音がしたせいでケイトに溜め息を吐かれた。今度も口には出さなかったが、明らかに『静かにと言った人間のする事か』と言いたげな雰囲気だ。
キールは誤魔化すように笑うと、開かずの間だった部屋の中に足を踏み入れる。
「書斎と聞いてましたが、それにしては物が少な――」
キールに続いたケイトが、部屋の様子を見て絶句した。
部屋の中は、扉を開けた正面にポスターが一枚。歳の離れた四人の乙女達を描いたイラストは、とても写実的でいて夢のような幸せな笑顔に包まれていた。
そのポスターとは違い、寧ろそれだけが浮いており、他は殺風景と言ってもいい。
時を刻む度に針の動く音が鳴る壁掛け時計、純白の布団が掛かったシングルベッド、南向きの窓に淡い色のカーテン、そして部屋の最奥には――――
「…………ぁ」
ケイトはよろけ、サングラスが落下する。思わず腕に力が入り、抱いていた猫は窮屈さにもがくとするりと抜け出し、部屋の外へと駆けていく。
ケイトの瞳は火のようにゆらゆら揺れるが、キールの瞳は宝物でも見つけたように輝く。
そして一言、呟いた。
「いつも最後は、運は俺の味方ってね」
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