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ジェーン達が美大に行っている頃、キールもまた外に出掛けていた。
真面目に捜査しているのかというと――
「『アイリスはいじめられてるんだ』」
「『みんな、アイリスの目が怖いんだ』」
子どもの賑やかな声が、その場を満たしている。
キールは、セント・ティルナ孤児院に来ていた。また遊びに来るという、子ども達との約束を果たす為だ。
今日も孤児院の庭に三人でいる。子ども達――ジャックとクリスは、座るキールの前で芝居を見せている。
演じ終わり二人がお辞儀をしたので、キール一人の拍手がその場に鳴る。
「兄ちゃん! どうだった?」
「ん~、なんかよく分からなかったけど、ちゃんと台詞は言えてたし良かったんじゃない」
「お兄さん、もしかして『ティアーズ・オブ・ラブ』知らないの?」
「人気の舞台劇だってのは知ってるけど、観た事ないし詳しくはないかな。分かるのも題名と簡単なあらすじと、あとはヒューマンドラマって事ぐらいで」
「兄ちゃん、そんな事も知らないのかよぉー」
「いやはや、面目ない……」
キールが頬を掻いて苦笑するのを見て、ジャックは鼻高々と言わんばかりに胸を張り、クリスは「こほん」と可愛らしくもわざとらしい咳払いをする。
「いい? お兄さん。『ティアーズ・オブ・ラブ』っていうのは、メインキャラはクインス先生とお世話係のヴィオレッタ、それと三姉妹のホリーとアイリスとシーダ。ボクとジャックは、次女アイリスのクラスメイト役」
「本当は脇役じゃなくて、クインス先生役が良かったんだけどなぁー。でもジャンケンで負けちゃったし、決まったからには今の役を全力でやる!」
「おおぉ、なんか男らしいな! なかなか感心な心掛けじゃん」
キールが手を叩くと、ジャックが「へっへ~ん」と鼻を擦る。
だがクリスの方は表情を暗くする。
「……と思ってたんだけど、本当に劇をやるか分からないんだよ」
「なんで? さっきは教会で劇を披露するから練習見てくれって話だったから、俺の前で演じてみせたんじゃ?」
「そうなんだけど。まだ中止にするとはマザーにも言われてないし、だからボク達もやるつもりで練習を続けてるんだ。……だけど、アイリス役がいなくなっちゃったから」
「それもこれも、神隠しのせいだっ!」
ジャックは大声を上げ、腹立たしげに地面を蹴った。
キールは膝に肘を置き頬杖をついて、トントンと指を動かし頬を叩く。
「それって、キャサリンって子?」
「そう! あいつがいないと、折角みんなで頑張った劇なのに意味ないじゃん!」
「まぁ、あの子が孤児院を出る前の、最後の出し物だもんね。演目を『ティアーズ・オブ・ラブ』にしたのはマザーが好きだったのもあるけど、あの子にアイリスを演じて自信をつけて欲しかったみたいなんだ」
「あいつの事みんなは大事に思ってるって、あいつはもっと思い知るべきなんだっ!」
ジャックが力強く拳を振り上げるのに、クリスも笑顔で頷く。
「ふーん。男女分け隔てなく仲良いんだ~。二人もキャサリンと友達なんだ?」
キールはそう言って微笑ましげに見ていたが、ジャックとクリスはきょとんとして互いの顔を見る。
「友達とは違うよなぁ?」
「そうだね。友達とは思ってないね。だってボク達、家族だもんね」
「それもそっか。なるほど、家族ね~……――」
――と、キールは頷いていたのだが、はたと動きを止めて目を見開く。
「友達じゃない……。孤児院の子じゃない……」
「お兄さん?」
頬杖の掌の中で何事か呟くキールに、不思議そうにクリスが声を掛けた直後――
「あああああぁぁぁああぁぁッッッ!?」
叫び声と共に立ち上がった。
頭を抱え驚愕の表情のキールは、誰に言うともなく声を荒げる。
「シット! アトリの言う通りだ! 俺の推理、間違ってたんじゃん! 俺、勘違いしてたってわけか! そういえば、ジェーンの友達も……それで気づくべきだった!」
子ども二人が仰天と心配の目で見守る中、キールは一頻り思いの限りを吐き出すと、途端に静かになる。それから元の調子に戻り、子ども達に向き直り訊ねる。
「あのさ、もしかしてキャサリンって子――――」
キールは子ども達と顔を寄せ合う。
キールの話に耳を傾けていた二人は、同時に首を縦に振る。
「そう。だからあいつがアイリス役なんじゃん」
「それと普段は皆、あだ名で呼び合ってたりする?」
「うん。シスター達は普通に呼ぶけど、子ども同士はあだ名も多いよ」
「そのあだ名って、ひょっとすると――――」
キールが言った事に、二人は確かに頷いた。
それがキールの確信を強固なものにした。
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