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Blond's and X  作者: 川咲弐号
3章  本気を教えてあげようじゃないか
21/37

3

「『見かけによらず』は余計」


 流れ星に見えたそれは、金の糸を引いて着地すると、追っ手にハイキックを喰らわせた。

 小さな少女の体から繰り出された蹴りにしては見るからに威力が強く、事実相手を軽く飛ばすだけのパワーがある。


「ほら、どう見ても頼りになる」

「そこ言い張られてもね。助けてくれるのはありがたいけども」


 長い金髪の流れる背中を向けたまま話す相棒に、キールはいつも通りの苦笑を向ける。

 ジェーンはと言えば、驚きもしないキールの様子に驚き、忙しなく二人を交互に見る。


「え、アトリちゃん!? 今どこから飛び降りて……」

「それはともかく、相手まだ戦意喪失してない」


 髪を軽く払い、特に構える事なく立つアトリに、相手は立ち上がると飛びかかる。

 アトリは冷静にそれを避けると、相手の背中を蹴り飛ばそうとするが、偶然か読んでなのか体が大きく揺れ、アトリの足の軌道から逸れる。

 互いに距離を取ったところで、アトリはスカートの下に手を入れ、何かを取り出す。それを間髪を容れず、相手の足元に向かって投げる。

 直後、ボゴンッ!! と、相手の数歩前の場所で爆発が起こった。


「きゃっ!? 何あれ……手榴弾!?」


 思わず耳を塞いだジェーンに、キールが冷静に答える。


「まぁ火薬の量は抑えてると思うけどね」

「そういう問題じゃないわよ! もう何が何やら……」

「前に話したと思ったけど、アトリの護身用グッズってやつ」

「いやいや、護身用の域超えてるでしょ!」

「でも効果はあったんじゃ?」


 キールに言われて見る。

 何者かとアトリの間に砂埃が立ち――恐らく穴か焦げ跡が出来ている。暗くて見えなくとも、鼻と喉に来る物で分かる。

 爆発とその様子に、相手がたじろいでいる気配がする。じりじりと後退し、忽ち足音が遠ざかっていく。

 逃げる音を聴いても、アトリは微動だにしない。


「皆まで言わずとも、深追いはしないから。どうせ今の私達の仕事はそれじゃない、って言われるのがオチ」

「よく分かってるじゃん。俺達の仕事は、あくまでジェーンの不安を解消する事。ジェーンの安全確保が最優先。犯人確保は警察の仕事だからね。今回の事で、ジェーンの感じていた視線が気のせいじゃないって証明されたし、警察も本腰入れざるを得ないんじゃないかな」

「だふぉいいへほ」


 アトリは、いつの間にかウエハースを咥えていた。それを口の動きで上下させて遊んでいる。その様子といい、「だといいけど」と言ったのは分かったが、警察にあまり期待していないようだ。

 それに対してキールは咎める事もなく、ジェーンを振り返り話を進める。


「さっきの誰かさんは、ジェーンの家の場所を知っててこの辺りにいたんだろうから、安全が保障されるまでは家に帰らない方がいいだろうね。必要な物はアトリに取って来させるから、しばらくは相談所に泊まるのがいいかな」

「そうね……」


 色々な事があって、まだ混乱しているのだろう。ジェーンは力なく頷いた。

 大きな通りを目指して歩き始めながら、キールがジェーンに笑い掛ける。


「大丈夫だって。アトリは強いから、また来ても追い返してくれるだろうし。今回だって大人相手に一歩も引かなかったしな! ……って、相手大人だった?」


 訊ねると、アトリは「ん」と返事をして、ウエハースを租借して飲み込む。


「それは間違いないと思う。顔は見えなかったけど、接近した時に感じた手足の長さが、明らかに私よりもあった。それと爆発による熱か破片の飛散かで、どこか負傷したようだった。硝煙の臭いに混ざって、僅かに血の臭いがしたから」

「よっ、アトリさん! さっすが~!」

「キールうざい」


 そう言ってアトリが取り出したのは、先刻投げた手榴弾とそっくりの物。


「ちょい!? それは洒落にならないっての!」

「阿呆陀羅。本物を出すわけがないのに。これはダミー」

「んあ? ……ぐっ、こんなロリっ娘に騙されるとは!」


 キールは頭を抱えてオーバーリアクションをする。そんな二人のやり取りに、ジェーンが思わずといった風に僅かに笑った。二人もまた、それを見て表情を緩める。


「さて、気分転換にお腹を満たすか~。夕飯は外で食べるつもりだったけど、特別に俺が腕を振るって進ぜよう! なっはっは! ありがたがるなら今だ、君達!」

「ありがた迷惑とはこの事かと……」

「……アトリちゃん、そんなに酷いの?」

「馬鹿舌のキールの料理はゲロまず必至……。絶対阻止する」


 アトリとジェーンが苦い顔をしている横で、キールは腰に手を当てて笑っていた。それがまた二人を嘆息させた。


     ◆ ◆ ◆ ◆

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