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Blond's and X  作者: 川咲弐号
3章  本気を教えてあげようじゃないか
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4

     ◆ ◆ ◆ ◆


 翌日。ジェーンは、温かいベッドの中で目を覚ました。

 開き切らない瞼を軽く擦り、ゆっくりと目を開く。ぼんやりとした視界がはっきりしてきた所でようやく、眼前にあどけない寝顔のアトリがいる事に気づく。


「そっか。昨日はアトリちゃんのベッドに入れて貰ったんだっけ……」


 長い金髪に包まれるように寝ているアトリに、ジェーンはくすりと笑って、顔に掛かる邪魔そうな髪をそっと払ってやる。


「アトリ~! ジェ~ン! 朝だ~! ウェイクアッ――プ!?」


 そんな静かな朝の一時を、大声で乱入しぶち壊したキールに、カッと目を開いたアトリが枕を投げて制裁した。


「キール、あんた……デリカシーないわね。女の子が寝ている所に、ズカズカ入り込んで来るなんて」

「違うって! 悪いとは思ったけど、早く二人に支度して貰えないと店が混んじゃうからさ!」

「店? どこかへ行くの? 私も外出して大丈夫なの? 昨日話し合って、しばらく身を隠す方がいいって結論になったじゃない」

「変装は勿論して貰うけどね。近所の人に人気の隠れ家的スポットだから、犯人がご近所さんでもない限りはそうそう見つからないから。店長も口は堅いし、何より美味しいからさ!」


 キールに推されて、ジェーンは言われるままに変装して外に出た。

 三人が向かったのは、相談所のある赤煉瓦のビルの裏手。狭く入り組んだ道を進んだ先で、少しばかり開けた場所に出る。その空間に面した一軒の小さなカフェに入った。

 店主は若い男で、キールの顔を見て歓迎し、すぐにカウンター席に通された。

 店主が厨房の奥に消えたのを見計らって、ジェーンが小声で訊ねる。


「ちょっと、良かったの? 表に『準備中』の看板が掛かってたわよ?」

「あー、まぁ開店前狙って来てるんでね。マスターとは仲良いから気にしなくて大丈夫」

「へー? でもお店の名前『ブエノミラン』って、私どこかで聞いた事あるような気がするのよね」

「レイが来た時、ジェーンもその場にいたからなんじゃ? レイにあげたキャラメルチュロは、この店の物だったからさ」

「ああ、あれね」


 ジェーンが納得した所で、店主が三枚のプレートと三つのカップを持って現れた。トーストや目玉焼き、ソーセージ等が乗ったプレートを各人の前に並べながら、店主が笑う。


「まさかキールが、アトリ嬢以外の女の子連れてくるなんて驚きだな。しかも綺麗なブルネットの三つ編みおさげの眼鏡美女とは。それで眼鏡がなくて、三つ編みが二本でなく一本なら、まるで『ティアーズ・オブ・ラブ』のヴィオレッタだな。って言っても、勿論今のままでも充分魅力的だ」


 そうやって饒舌に喋りながら、変装姿のジェーンを上から下まで見ていく。その間にも手は止めず、三人のカップにエスプレッソを淹れ、アトリの分にはミルクをたっぷり注ぐ。

 店主の舐めるような視線を受けて、ジェーンは常のはきはきした風もなく、困惑した様子で愛想笑いになる。


「ええっと……ありがとうございます……?」

「――っと、初対面の女性相手に、不躾に悪かったね。俺はダスティ・ミラン。キールとは学生時代の同級生だったんだ。よろしく」


 ダスティと名乗った男は、キールと比べれば身長は低いが、所謂細マッチョと呼ばれるような体型で顔立ちも男前なので、キールなんかよりも余程女性にモテそうである。今カフェエプロンの下に来ている服は仕事着だろうが、さり気なくアクセサリーをしていたり、紫の髪色も地毛ではなく染めているようで、お洒落で気さくなら尚更だろう。

 その男に「よろしく」のタイミングでウインクをされたのだが、それでもジェーンは顔色一つ変えなかった。名乗っていいのかキールに視線で訊ね、笑顔で頷いたのを確認して、そのまま「ジェーンです」と答えた。

 そのやり取りで何か勘違いをしたらしく、ダスティはニヤニヤと意地の悪い笑いを浮かべる。


「にしても、キールも遂に好きな子の一人や二人出来るようになったかー。で、二人は付き合ってんの? それとも、まだこれから?」

「あ~、違うって。俺とジェーンはそういう関係じゃないから。俺好みの年上の奥さんじゃないし。それにジェーンにはもう恋人がいるしね」

「わっ!?」


 エスプレッソを飲もうとしていたジェーンが、危うく持っていたカップを落とし掛けたが、どうにか踏ん張って傾く前に掴み直した。


「なんだ、そうなのか? 残念だなー。折角キールをからかうネタが出来たと思ったのにな」

「ひっどいな~。今回は違うから良かったけど、友達でも色恋で茶化すなんて止めてよね」

「ま、とにかくだ。冷めない内に食べてくれよ。こっちも開店準備にもう少し掛かるもんで」


 ダスティが仕込みに戻り、キールとアトリはフォークを手に朝食を食べ始めようとするが、ジェーンだけは何故か膝に手を置いたままでいる。

 隣に座るアトリが気づき、首を傾げて訊ねる。


「ジェーン? 早くトーストにバター塗らないと溶けなくなるんじゃ?」

「うん……――その…………キール?」


 豆のトマト煮込みを口いっぱい頬張っていたキールが「ほい?」と応えると、ジェーンが落ち着かない様子で視線を彷徨わせる。


「さっきの、私に恋人がいるって……ええっと……私、言ったっけ?」

「うんにゃ? 言われてはいないけど。でも恋人なんじゃ? エリザベスって子」

「っ!!」


 ジェーンが息を飲む音が聴こえた。細く長く息を吐くと、諦めたように笑う。


「――どうして分かったの? キールはリリアンと会った事もないでしょ」

「アトリには、見聞きした事は報告させてるからね。話を聞いてて『そうかな~』って」

「そう? 私は実際見てたのに分からなかった」

「まぁ、アトリにはまだ早い話だから。特に同性のは、見る機会もそうないだろうし」

「む。子ども扱いされたのは不服……」


 不機嫌そうに頬を膨らませたアトリを、キールが「どうどう」と宥める横で、ジェーンがぽつりと呟く。


「……おかしいって思う?」

「何が? 同性同士がって話なら、別に気にならないけど? 確かにアヴァルに同性婚の法律はまだないから珍しいし、アヴァル人の中には出身国で認めてなかったから偏見ある人もいるだろうけど。でもまぁ、人それぞれってもんだよ。ジェーンも相手も納得してて、それでいいって思ってるんならそれを貫けばいいんじゃ? 俺はそういうの悪くないと思うけど」

「そっか……」


 俯き気味でいたジェーンは、本当に小さな声でお礼を言っていたが、キールとアトリの耳には聞こえなかった。それよりも食事するよう勧められ、ジェーンもようやく口をつけ始めた。

 キールも食べていた豆のトマト煮込みを口に入れ、思わず目を見開き口に手を当てる。


「美味しい……」

「だよな~。これが毎朝タダで食べられるんだから、こんな幸せな事はないよな~」

「タダ!? しかも毎朝!? いくら友達でも、お代も貰わずそんな事していたら商売にならないでしょ! キール、あんた自重しなさいよ!」

「ま、普通そう思うよなー」


 ジェーンがキールの胸倉を掴んで揺らしていると、厨房からダスティが戻ってきた。


「けどキールとアトリ嬢には、ちゃんと見返りを貰ってるんだ。味見っていう大役を」

「味見ですか?」

「アトリ嬢は随分と良い物を食べて育ってきたみたいで、これでなかなか鋭いんだ。アトリ嬢、今日の味はどうだい?」

「ハッシュドポテトは、昨日より塩加減が丁度いい。でも目玉焼き、これじゃ焼き過ぎ。ナイフを入れた瞬間、黄身が溢れ出るぐらいじゃないと。あともう少し良質の卵を使った方がいい」

「うっ、善処します……。と、こういう風にね」


 そう言って肩を竦めるダスティの額に汗が流れる。まだ話の途中なのか、手厳しいアトリは言い足りなさそうな素振りを見せている。

 ジェーンはダスティに同情の眼差しを向けつつ、助け船のつもりでキールに話を振る。

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