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Blond's and X  作者: 川咲弐号
2章  “奇妙な”解決の仕方をする
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2

     ◆ ◆ ◆ ◆


 二つの依頼を同時に受け、二日目の午後。

 キールは一人、相談所のオフィス兼リビングダイニングの部屋で、革張りの椅子に足を組んで座っている。

 机に向かい、細かい作業をする時にだけ掛ける眼鏡を、不慣れな手つきでクイッと上げる。眼鏡は書類作業や本を読む時によく用いるが、今はどちらでもなく、手に握っているのは新聞。ただし普段読む大衆紙ではなく高級紙だ。


「――神隠し事件。最初に行方不明になったのは、一ヶ月程前。今までに三人の行方不明者、うち三人全てが少女。他、年齢、学校、出身地等の共通点は見られない……か」


 キールは「うぅぅ」と唸りながら、新聞を持ったまま机に突っ伏す。


「珍しく買ってみたものの……書いてある内容は大差なかったな~。世間に公表してる情報なんて、やっぱこんなもんか。概要は分かったけど、それ以上は自分の足で集めろってか……」


 実に嫌そうな顔で、机の上でぐりぐりと指を滑らせたり叩いたりを繰り返す。

 そんなキールの頭の天辺目掛け、


「独り言が多いと気持ち悪がられるわよ」


 きつい一言が浴びせられた。


「んあ? ジェーン?」


 キールは机から首を擡げて、玄関扉の方を見る。いつの間に入って来たのか、アトリとジェーンが呆れたような眼差しを向けていた。


「ちょっと、あんたね。こんな小さな子一人で働かせるなんて、一体どういう神経してるのよ! 聞いた話じゃ、アトリちゃんまだ十歳なんですって? 外に一人で出すなんて、それこそ神隠しにでも遭っちゃったらどうする気よ?」


 肩を怒らせながらズンズンと近寄って来るジェーンに、キールは頬を掻いて応対する。


「だから昨日も言ったじゃないか。アトリに任せておけば大丈夫なんだって。アトリをそこらの子どもと一緒にしたら失礼ってもんだよ。この仕事のプロなんだから」

「そうは言っても……」

「ジェーンが心配してるような事は起こらない! それにいざって時の為に、アトリには護身用グッズ持ち歩かせてるから」

「護身用グッズって、催涙スプレーみたいな?」

「まぁ似たようなもんかな?」


 キールは流れでアトリを見るが、アトリは話には混ざらず紅茶の準備をしようとしていた。


「あ、アトリ。紅茶は四人分用意してな~」

「四人? ハリソンでも来る?」

「いや、そうじゃないけど。ただ約束とかなんにもないけど、来客の予感はしてる!」

「何その自信」

「何って、だから運だよ運。勘は当たらないけど、運では当たるからね! 今回の予感も当たる感じするんだよな~」


 アトリはそれ以上相手にせず、黙って紅茶を淹れる作業を再開する。やり取りを見ていたジェーンが大袈裟に溜め息を吐く。


「なんて言うか……あんた、馬鹿よねぇ」

「ちょい! いきなり酷い言い様じゃないか!?」

「呆れもするわよ。度々『運』って言っているけど、運で全て話を済ませようとしているんじゃないの? 今のだって訳分からない事言って、アトリちゃんを困らせて……」

「でもアトリは信じたみたいだけど?」


 言われて、ジェーンは紅茶を淹れているアトリの方を振り返る。よくよく見てみれば、確かにアトリはティーカップを四つ用意していた。

 驚いた顔をしているジェーンに、キールはにんまりと自信に満ちた笑みを浮かべる。それに気づいたジェーンは、不機嫌そうに顔を逸らした。それを見て、キールは笑みを苦笑に変えた。


「――って、意地の悪い事するもんじゃないか。アトリは俺の運を信じたんじゃなくて、俺が何か根拠があって言ってるって勘が働いたんじゃないかな?」

「え? そうなの? 根拠って何よ」

「俺達相談所が神隠し事件を調べ始めた事を、耳が早い人はもう感づいてると思う。そんで、さっき見てたから分かったと思うけど、正攻法で情報を得ようとしたが、大して分からず早速行き詰まった。別ルートで情報収集する必要が出たってわけだ」

「まぁ、そうね。それで、それがどう根拠の話と繋がるのよ?」

「こういう時、人一倍耳聡くて俺達に情報提供してくる、自称『運び屋』って人がいてね」

「運び屋って……まさか薬や銃を運ぶっていうアレ……!?」


 ジェーンは顔を青くするが、キールは至って暢気な様子で手を横に振る。


「あー、違う違う。あの人が運ぶのは違法な物じゃなくて、もっと人をハッピーにする物というか。例えば、恋人へのプレゼントでアヴァルにはない物を欲しいって無理難題を言われても、その人なら独自のルートで取り寄せてくれるってわけ。環境保護やら景観保持やら経済活動の規制やらを理由に、技術を制限――所謂『テクノロジーコントロール』で輸入禁止になっている物も、その人の手でなら手に入ったりもするしね」

「その独自のルートっていうのも、充分怪しい臭いがするけど……。本当にそんな人と関わっていて大丈夫なんでしょうね?」

「ん~、少なくとも国から許可貰ってるようだし、違法ではないから問題ないんじゃ? ジェーンも国外にしかない画材とか、何か調達したければ頼んでみればいいって」

「へー? それでその運び屋が四人目で、神隠し事件の情報を持って来るわけね?」

「それこそ約束してるわけじゃないから今日来るとも限らないけど、あの情報通っぷりからして多分な~。――とはいえ、まぁ出来る事なら会いたくない相手だけど……」

「?」


 訝しがるジェーンに、キールは曖昧に笑うだけだった。

 二人が話している間にアトリは湯を沸かし終え、ポットとカップを温め始めたところに、ノックもなくドアベルを盛大に揺らして玄関扉を開ける人物がいた。

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