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Blond's and X  作者: 川咲弐号
2章  “奇妙な”解決の仕方をする
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3

「やほー。いらっしゃったよー」

「げっ、恐怖の大王…………」


 キールが苦虫を噛み潰したような顔で、机に上体を脱力させる。

 独特の口調で挨拶し、返事も待たずにズカズカと入って来たのは、キールやジェーンより幾らか年上に見える女性。セミショートの髪は赤みがかった茶色。ボディラインが出る服を着ているせいでなくとも、体のあちらこちらの主張が強い。

 同じ女性であるジェーンでも思わず胸に目がいく。だがすぐに慌てて顔の方に視線を移すが、そこで何か驚いたように目を見開く。


「あっ! あなた! 相談所の事を教えてくれた、親切なお姉さん!」

「やーやー、娘さん。ちゃんと依頼受けて貰えたんだね。良かったねー」


 女性はひらひらと手を振って、人懐こい笑顔をジェーンに向けた。

 キールのいる机の前まで来た女性を、所長たるキールは頬杖をついた状態で迎える。


「『いらっしゃったよー』って、それを言うなら俺が『いらっしゃい』なんじゃ?」

「っていうけど、言ってはくれないじゃーん。歓迎ムードじゃない感じかな?」

「まさか! ちゃんとお茶まで用意してるぐらいだけど?」

「その割に、さっき会いたくないような事言ってたように聞こえたよー?」

「早耳っていうか地獄耳だったか……」


 空笑いするキールの横で、ジェーンがキールと女性を見比べていた。


「ええっと……察するに、この人が例の運び屋? いやいや、でもこの親切なお姉さんは、私が会った時は警察署で受付嬢してたわよ……!?」


 混乱するジェーンに、女性は大口を開けてケラケラと笑う。


「不思議に思うのも無理ないかもねー。改めまして、アトラント市警で事務職員やらせて貰ってます。レイ・チェスロックですー」

「あ、ジェーン・オベールです! その節はお世話になりました!」

「――っていうのが、表向きの肩書なんだけどー」


 姿勢を正すジェーンに、レイは笑顔のまま話を続ける。


「なんかキールから話を聞いてるのかな? 裏では運び屋やってますー。物も運ぶし、情報も運ぶよ。娘さんの時もそうだし、今日もねー」

「ヘイヘイ、レイさんよ~。それで思い出したけど、ジェーンだけじゃなくクィルターさんを差し向けたのも君なんじゃ? 依頼が来るのは助かるけど、度々押しつけるように仕事回してくるの止めてくれないかな~って」

「止ーめない。警察も手一杯なの知ってるでしょー? 人助けと思って受けてあげてよね。アイアンズ警部なんて、ここ最近ろくに家に帰ってないんだよー?」

「あ~、神隠し事件でか……。そんな様子じゃいつも以上に不機嫌だろうし、アイアンズさんに話聞くのは難しいかな?」

「……そう言っておいて、結局は神経逆撫でするような事口走るくせに」


 アトリがぼそりと言う。ティーセットを持ってキールの分は机の上に、他の人の分は白いクロスの掛かったテーブルの上に並べる。


「わーい、アトりんの用意したアフタヌーンティーだー」

「でも時間もお金も掛けてない、簡易的な物で赤面の至り……」

「いやー、充分だよ。キールが用意するのと違って、本当に美味しいんだよね」

「失礼な! 俺だって頑張れば――って、さてはそれ目当てでこの時間選んで来たな!」


 キールの言葉を無視して、嬉々として席について早速紅茶を貰うレイを見て、ジェーンは呆気に取られている。


「ねぇ、キール。あのお姉さん――レイさんって結局どういう人なの? 警察で運び屋ってだけでも凄い肩書だけど、性格も……その、なんか変わってる……?」

「そりゃ、そんな普通の職業じゃない人が、変わった人じゃないはずがないって。見た目だけなら、ただの陽気でおっぱい大きいお姉さんなんだけどね~。ああ見えて結構、無茶苦茶する人だから……俺は内々で『恐怖の大王』って呼んでる」

「それはまた、随分と仰々しいわね……」


 ジェーンは小馬鹿にしたように「ふん」と笑う。紅茶と一緒に出されたサンドウィッチを実に美味しそうに頬張るレイが、そんな異名で呼ばれる事が想像出来ないようだった。

 一方キールは、その反応は想定内だったのか、眉間に僅かに皺を寄せただけであまり表情を変えない。腕を組み、じっとレイの方に目を向ける。


「いやな~。レイの事、あんま侮んない方がいいんじゃないか? 肩書がどうこうよりも、情報通ってのは思っている以上に恐ろしいもんなんだって」


 キールは革張りの椅子を座り直し、組んだ腕をそのまま机の上に乗せる。


「ジェーンは留学生でアヴァル人じゃないけど、この国のトップは知ってるか?」

「あまり詳しくはないけど、リリアン――友達から聞いて風変りなのは知っているわよ? 一応形としては、アヴァル王国は立憲君主制で、国王はアヴァルを支援している国が選んだ人を初代国王にしているんでしょ? でもその国王が誰なのか、顔も名前もアヴァル国民は知らない、という話なのよね。普通じゃありえないわよ」

「アヴァル島発見から十五年、それからアヴァル王国建国が五年後だから、改めて考えると十年間も未知の人物を国王としているのか。当然、統治するには王だけじゃなく周囲にも人はいるわけだけど、その誰もがカーテン越しにしか会った事がないっていうし、本当に皆が素顔を知らないってわけだ。確かに普通じゃないな~」

「異国の歴史文化で、高貴な人物と御簾越しに謁見というのを見た事があるけど、そんな感じなんでしょうね。それでも大抵の場合、側近ぐらいは普通に顔を合わせるものよ。余程の恥ずかしがり屋なのか醜い顔の持ち主なのか……真意は分からないけど、『アヴァルを海上に浮上させた神の使い』とか訳分からない理由で、『神聖な御仁だから明かさない』なんて言われて、よくアヴァル国民は何も言わないわよねぇ」

「俺が言うのもなんだけど、アヴァル人は楽観的なところがあるかもな~。そもそもアヴァルの第一国民って、理想郷を求めて移住を希望したような人が殆どだから、実際ここに来て平和ボケしてるっていうか。国王に関しても、形式的にトップを立ててるだけって、特に生活に不満もないから気にもしてないんだろうね」

「平和ボケねぇ。それは留学して実際住んでみて、少し感じなくはないわね」


 今目の前にいる二人――アトリとレイも、浮かべている表情は正反対と言ってもいいぐらいだが、どちらも楽しそうな空気を醸し出している。近頃ジェーンが感じている不安感とは無縁の、仄かに香ってくる紅茶と菓子とジャムの匂いと、温かい食卓の風景にホッと自然に息を漏らす。

 キールが「それでだけど――」と話を続けようとして、ゆるい空気感の中ぼんやり見つめていたジェーンは、ハッと我に返る。


「――レイは唯一、その国王の正体を知ってるんだとさ」

「はあぁ!? え、なんで!? いやいや、いくらなんでもデマか冗談じゃないの? だってその情報が合っているかなんて、誰も確認しようがないじゃない」

「さてね。ただ運び屋のレイの独自の輸入ルートを国が認めてるのは、その件と関係してるんだと俺は思ってる」

「なるほどね……。そんな国家機密を握っているなら許可しないわけにもいかないと、そういう事ね」

「な、恐いだろ~? 情報は最大の武器とはよく言ったもんだよ」


 キールがげんなりとした表情で、アトリと喋っているレイを見る。

 レイが四つある椅子の上座側に座っているので、部屋の奥に位置する机からだと、斜め前の壁際に置かれたテーブルにつくレイは後ろ姿になる。ただ椅子に座らず立ったままいるアトリと会話する際に、レイの横顔がちらちらと見える。

 その本来の目的をすっかり忘れていそうな気の抜けた顔に、キールはカチンときた様子で声を掛ける。


「おーい、レイ。それで相談所に来たのは、アフタヌーンティーの為じゃないんじゃ?」

「えー、お茶ぐらいゆっくりさせてよー。催促すると教えてあげないよ? さっきの会話だって聞こえない振りしてあげてたのに、そんな態度でいいのかなー?」

「ぐっ……」


 キールが言い返せず、レイは満足そうにニコニコ笑う。レイは紅茶の続きを飲もうとする――が、その手をアトリが掴んで止める。


「キールが正しい。喫したからには食い逃げは許さない。クィルターさんを差し向けたのなら尚の事、しかと責務を果たすべき」


 アトリに睨まれて、レイは手にしていたティーカップをそっとソーサーに戻す。


「アトりんに言われちゃ仕方ないなー。キールの事だから、アタシが来た理由は分かってるんでしょ?」

「神隠し事件の詳細について? アヴァルの新聞って、どうも情報不足気味なんだよな~。やっぱ携帯電話がないのがいけないのかな。ノートパソコンとかボイスレコーダーとかも、テクノロジーコントロールに引っかかって輸入出来ないし記者も大変なんだろうけど。精度は問題ないとしても情報量がな~」

「そんなお困りのキールに、警察が得た情報をお裾分けー」


 レイは体ごと振り返り、椅子の背もたれに掴まる。行儀は悪いが何故かレイには合っている格好にも思える。

 そのままの体勢で、レイは資料も何も見ないまま諳んじる。

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