別れの挨拶
「はい。皆さん、期末テストお疲れ様でした。
今日で新学期が始まるまで学校に入ることは出来ませんので、
忘れ物のないように気をつけてくださいね。
では。お待ちかねの校外学習のお知らせです」
ソフィア先生は教卓の上に積んであった冊子の山を
両腕を使って大きく投げ上げた。
無造作に放り投げられた察しの群だったが、
重力にのっとって速度がゼロになった途端、
不自然な弧を描いて生徒全員に一冊ずつ届くように
急降下した。
「皆さんへのしおりは今夜午後6時に手元に届くようになっています。
今渡したその書類には臨海学校における大まかな注意事項。身分証。
特別戦役免除状。迎賓優待。遺言等々、大事なことが書いてありますので
しっかり目を通して必要な場所に記入をしてください。
何か質問はありますか?」
そう生徒たちに問いかけると数人の手がまっすぐ伸びた。
「先生、校外学習に行っている間に例えば内乱が起きるようなことがあって、
帰る国が無くなった場合はどうなるのでしょうか?」
「個人の国や星に強い干渉をするつもりはありませんが、
極力皆さんが出かけえる前と同じ状態に治めます。
今言った場合だと、内乱の発生に干渉はしませんが
情勢が大きく変わらないように表と裏から学校全体で手を貸します」
「私の家はこの時期にいくつか重要な儀式があります。
急にそれをやらなければならなくなった時は、
校外学習の途中でも帰ってもよろしいでしょうか?」
「儀式というのが魔術・魔道的なものではなく儀礼的なものなら、
諦めてください。ただ、お亡くなりになったなどの
不幸があった際はそれぞれのご親族に限り帰宅を認めます」
それぞれ思いついた質問をソフィアに聞いていき、
その答えをもらっていた。
質問の多くは家族や国家といった大切にしているものの安全に
関するものだった。
確かに重要なものではある。だが、ユーシャにとって重要なものは
そういったものではなかった。
「先生!」
「はい、何ですか。神野くん」
「テストの成績が悪かった生徒でも校外学習に行けますか?」
その時、あまりの質問のレベルの落差に沈黙が流れた。
「う~ん。成績が悪いっていうのはどの程度の事?
クラスで一番総合成績が悪いということなら、大丈夫ですよ?」
「各教科で七十点以下の成績を取った奴です。
そういう奴は補習のせいで校外学習にいけなくなるってことがあるんですか?」
「そうですねぇ。よく分かりません。だいたい七十点以下の成績を取った生徒なんて
この学園には今まで一人も……あっ! うん、そうね(察し)」
「あっ! じゃねえよ。可哀想な目でこっち見んな!」
「ちょっとあんた、先生に向かってその言葉遣い!」
思わず突っ込んでしまったせいでユーシャはシャルロットから叱られてしまった。
(それはまぁ、てめえにとっちゃそれが当然なのかもしれねえが、
こっちにとっちゃ大事な事なんだよ。
なにせ攻略イベントが発生するかしないかの死活問題なんだぞ。
口が悪くなるのも当然だろうが)
しかし、ここでそれをシャルロットに言えばいつもの口喧嘩が起きて
収拾がつかなくなりそうだと考えたユーシャは口をつぐんだ。
「えっと、そうですね。今までそういうことが無かったから
はっきりと言えないですけど、それでも送られてくると思います。
色々な機関とキャンセルが効かない手続きをしてしまっているので、
今から人員の変更をするのは少し無理があると思うから」
「はぁ、そうっすか。良かった」
断言できないとは言われたが、とりあえずイベントが発生するだろうという
安心感を得たユーシャはだらりと椅子にもたれた。
「……」
横からじとっとした目で見られているのは、気にしない。
「それでは皆さん、校外学習で会うかもしれませんが、
会えない人は新学期までお別れです。
夏だからといって冷房で体調を崩すようなことが無いよう、
しっかりと体調管理をして有意義な夏休みを送ってください。
では、号令を」
「起立! 気を付け! 礼」
「「ありがとうございました」」
ユーシャの二年生から始まった高校生活の初めの学期が終わった。
だが、すぐに夏休みとはいかない。
気候はすでに完成されているが、活力にあふれる夏が始まるにはまだ早い。




