二つ目の地獄を越えて
二人の教師が教室を出て行ったあと、堰が切れたように
生徒たちが近くの生徒と試験の内容について和気あいあいと話し出した。
「ふぁ~」
そんな余裕そうな生徒たちとは対照的にユーシャは力なく机の上に突っ伏した。
「あんた、大丈夫?」
「今の俺を見て大丈夫だと思うか? 皮肉のつもりならぶっ潰すぞ」
相変わらず喧嘩腰なセリフだが何の凄みもなく言うユーシャに、
声をかけた隣の席の女子生徒、神野シャルロットはため息を漏らした。
ちなみに姓が同じ神野であるのは兄弟とか双子とかでも偶然同じだったわけでも無い。
ただの第一婦人(暫定)だからである。
「今回のテストにそんなに難しい問題ってあった?」
「逆にお前ら、何でそんなに余裕なんだよ。
腱鞘炎になるくれえ痛いだろ。
実はお前らだけマーク式だったってオチはねえよな?」
京を最後にこの一週間、ユーシャの受けていた試験は
どれも試験時間が一時間半もあり、その間に見開き八~十五ページの問題冊子を読み、
問いに適した文章を書いていくのであった。
ちなみに今さっき受けていた科目は国語の現代文である。
「大問5の小問4『(1)傍線部ウのように書かれた理由を五十文字以内で書きなさい。
(2)さらに、このような表現方法によってどういう効果を読者に与えるか
二十文字以内で書きなさい』は分かるぞ?
大問8の最後、小問6、何だアレ!
『この評論文から筆者が伝えたいことを考慮し、
それを肯定した内容の続きを
二百文字以内で書きなさい』?
知るかボケ! そもそも何が言いてえのかなんか理解できるか!」
「あ~、あれね。出来ない頃はかなり難しく感じるけど、
解き方さえ把握してればサービス問題よ」
「どこが!? 何だよ続きを書けって、作家になれってか。
あの問題を解けることが将来何の役に立つんだよ、意味わかんねえ」
「あれは読解力というより表現力と論理力かしら。
少し前から最近の若者の語彙力と表現力が乏しいからって
追加された新しい形式の問題ね」
「表現力と語彙力って。やっぱり作家になれって奴じゃねえか。
将来の仕事先に吟遊詩人なんて職業名でもあるのかよ」
いや、別に作家に限らずどの仕事でも表現力というものは
必要だという事を説明する前にユーシャはまた机に突っ伏してしまった。
「能力がどう将来に役に立つかより、
どうせあんたにとっては赤点を取らないかどうかの方が大切なんでしょ?
そっちの方はどうなの?」
「ん~、ビミョー。前半はほぼ解けたけど、後半は自信が無え。
後半の記述は部分点狙いだったから、完全な正解はあまりないと思う。
さっき言った『続きを書け』問題も時間切れで書ききれなかったし。
物凄く良くて8割、良くてボーダーギリギリ7割。
悪くて6割だろうな。と言ってもラインを越えてないなら、
何点だろうと補習させられるんだろうけど。
あの人間としての権利とか尊厳とかを全部奪われる補習をよ」
普段から罵倒しあい、部屋も同じせいで顔を見ずに
過ごすこともできない
流石に気の毒に感じてきた。
「まぁ、大丈夫なんじゃない?
一応、夜遅くまで勉強はしてたわけだし。
そのせいでこっちは寝不足になりがちなんだけど」
「そりゃどうも。でも残念。いくら努力しようと
世の中、結果が全てなんだよなぁ」
「あんたねぇ、珍しくこの私が励ましてやってるのに
自分からネガティブにならないでよ。
なんかあんたの成績なのにこっちまで
心配になってきた。ちょっと大丈夫?
夏休み前の校外学習があるのに
補修で来られなくなったってなったら、
私のこの睡眠不足の甲斐がないじゃない」
「……何? 今、何て言った?」
聞き逃せない何かを訪ねたところで、
担任のソフィア先生が教室に入ってきて、
その話はそこで切られてしまった。




