出来ないって何だ
ラヴはユーシャに語る。
「起きてしまったいじめに対抗できる手段はない」
それが定義と言うばかりにラヴは断言した。
「学校に限らず、いじめという問題は社会のどこにでもあり、
人との接点を断っていない人間なら、加害者か被害者、
もしくは傍観者という立場で必ず関わるはずだ。
それくらいありふれた問題だからこそ、色んな所で取り上げられる。
こうすればいじめは起こらない。いじめられた人を助ける方法はこれだ、と
どの資料にも載っている。教師になるための授業でもその方法をいくつか
僕たちは習っている。
でも、そんなものっ! 何の意味もないっ!」
短い付き合いだがユーシャはラヴがこれほど感情を露わに怒る姿を見たことが無く、
つい面食らってしまった。
けれども、だからといってここで折れるわけにはいかない。
シャルロットから『助けるな』と言われてしまった以上、
教師たちを頼るしかないのだ。
「お前が言ういじめを取り上げる資料ってのの中には
誰かの体験談だってあるはずだ。それの内容はフィクションか?
本当は全部でたらめで書いたってのか?」
「フィクションではないと書いた人は思っているんだろう。
その人の頑張りや周囲の人間の思いやりがあれば助かると思っているんだろう。
でも、それって勝手な意見だよね!」
ラヴが一括した瞬間、事務室全体が揺れを起こし、
床につけた手から蜘蛛の巣状に亀裂が入る。
顔は下に向けているが、言葉を正面にいるユーシャへぶつけた。
「その人はいじめというものを何も分かっちゃいない。
いじめが原因で引きこもったり死んでしまった人や
その周りの一部の人たちが皆、そういうことをする努力を
してなかったとでも思っているのかい?
集団でその人を全否定する事をいじめと言うんだ。
いじめは解決することが難しい問題なんかじゃない。
解決することが出来ない問題なんだ」
「そうかい。分かった。
つまり八方塞がりってことか。だったら――」
「スキップかい?
だったら、僕はそれを止めなくちゃいけない」
「なんだと?」
「言っただろう。いじめは社会のどこにでもあると。
この先、彼女がもう一度いじめにあったらどうする。
そのたびに君が助けるのかい?
そんなことありえないだろう、自分が気に入った人間しか助けないくせに。
君という万能がいなくても耐えられる、
そんな子にしないことにはが本当の解決とは言えない。
未来で受けるかもしれないいじめのために
今、いじめへの耐性をつけさせる。それが僕たち、教育者としての貢献だ」
「ふざけんな!」
ユーシャは這いつくばるラヴの襟をつかみ上げ、
壁に背中を押し当てた。
「テメエはあいつが苦しんでることを知りながら
それを助けようともせず丸投げしてるだけだ!
何が教育者としての貢献だ! そんな筋の通らねえことがあるか!」
「筋なら通っているさ! いつか彼女が本当の一人になっても
決して間違いを起こさないように、彼女にいじめへの付き合い方を学ばせている。
生徒を守る義務がある学校組織としては間違っているけれど
生徒に安定した将来を確立させる教育者として僕らは正しいことをしている」
「今、あいつが泣く事の何が正しい! そんな理不尽なことがあるかよ!」
「それが社会だ!」
ラヴもユーシャの襟元を掴み、
力づくに回ってお互いの位置を反転させた。
今度はユーシャが壁に押し付けられた時に
壁へ伝わる衝撃で棚の中の食器が落ちて割れていった。
「理不尽な事なんて人の数ほどある。
それでも多くの人が必死に耐えながら前を向いて積み上げたものが社会だ。
たかだか小娘一人のために社会のシステムを変えるわけにはいかないんだ!」
(こいつっ)
【スキップ発動】
【このイベントはスキップできません】
例によってユーシャの能力は封じられてしまっていた。
しかし、感情が高ぶっている今なら分かる。
対抗する力があろうとそれを返せる、言うなれば『『~~返し』返し』が出来る
この力は本気になればその封印すら押しとおせる。
要はやる気の問題、アダルトサイトへの年齢認証のページと同じだ。
(けど、そういう問題じゃねえ)
力ではダメなのだ。この天使に口で勝って協力させなければならないのだ。
「クソッ」
ユーシャはラヴの手を払いのけ、無言で事務室を出て行った。
今の状態でユーシャが勝つことはできない。
ユーシャに巧みな交渉術はない上に今まで気に入らないことは
全て脅しで従わせることしかしてこなかったせいでまとも口論の仕方も知らない。
(だったら物証だ。あいつが従わざるを得ないくらい
『デカいもの』を持ってくるしかねえ)
ユーシャはそのラヴを言い負かすほどの材料を見つけるために
一度体勢を立て直しに自室へ帰っていった。




