重傷って何だ?
「お見舞いですか?
ではこちらにサインをお願いします。
はい。では面会時間は午後六時までとなっております。D病棟の4階、432番までどうぞ」
二人は見舞いに来た友人という体で受付にエクスマの部屋号室を聞き、
エレベーターのボタンを押した。
「ここもデカいな。学校と同じくらいあんじゃねえの?」
「ここもあそこと同じくらい色んな種族の患者が運ばれるからね。
病棟でそれぞれの種族に分けているんだよ。たしかD棟は悪魔・準悪魔だったね」
電気式のエレベーターのくせに古式な鐘が鳴り、ずずずと扉が横に開いた。
「それにしても分かってる?」
「何のことだ」
「いや、お見舞いだよ?
どういう人にするものか分かってる?」
「ん?」
二人を乗せたエレベーターは扉がゆっくり閉まった後、
ゆるやかに速度を出して上がっていった。
「先輩。昨日ぶりですね。あと、先生も」
「お、おう」
『あと』扱いされたことも含めてラヴはエクスマの姿に
そう返すことしかできなかった。
病室の入り口から見て頭を左に仰向けで寝ていたエクスマの横を
敢えて回って彼女の左側に立った。
その理由は話しやすかったからである。
体の右半分を失い、残った部分も全てミイラのように
包帯で巻かれていたエクスマにとって。
「わざわざ来てくれて、ホント嬉しいです」
屈託のない笑顔で感謝の意を示すエクスマの顔は
大半を包帯で隠され、ほんの少しだけはみ出た部分からは
焼きただれて熟れたトマトのような赤くぐじゅぐじゅとした皮が見えていた。
気丈に笑うその顔が逆に痛々しさを感じさせ、
事件の悲惨さを物語っている。
「当たり前だろ。俺は(美少女には)優しい奴なんだぞ?
見舞いくらい来てやるよ」
そんなことなんか梅雨とも思わないユーシャは
何の気遣いもなく、エクスマに自分の怪我を
意識させる側のベっドに座って言った。
「そんな嬉しいことを言ってくれるなんて
たまには大けがをするのもいいかもしれないですね。
…………
で。それだけじゃないでしょう?」
「ああ。そうだ」
【スキップ】発動 →エクスマは完治した
この学園に入学する前に持たされた秘薬【α・ΩトリプルZ】を
エクスマの小さな口にねじ込んだ。
この薬は服用者の粘液に触れた瞬間に分解・吸収。
細胞を活性化しありえない速度で怪我と疲労を回復させる。
その効能はたとえ親指一本しかこの世に残っていなかったとしても
その指に汗さえついていればそこから元の姿に復元されるほどだ。
そんなものを使われたエクスマはとんでもない苦さと
薬の強さに体が一度跳ね、細かい痙攣を起こした。
だが異変はそれだけに収まらず巻かれた包帯を引き裂かれ、
失った右半身がありえない速度で蘇った】
「これは」
エクスマは自身の回復に訳が分からないまま回復した、いや新しく生えた右半身に驚いたが、
それを覆う服がなかったことに気付き、シーツの中に隠れてしまった。
一瞬、恥じらう美少女から布団を剥いで辱めたいという衝動にかられたが、
冷静になって本来の目的を達成しようとする。
「今の状況は分かってんだよな? シャルロットは今や
犯罪者のレッテルが貼られちまった、てめえのせいでな」
剣呑な雰囲気を出して問い詰めるユーシャに対して、
エクスマは真剣に沈黙で答えた。
肯定の返事が来たわけではないが、
もし身に覚えがないならこの場でそういった反応を取ることが当たり前である。
つまり、エクスマはユーシャの言葉を認めているのだ。
「話せよ。あいつがやらかす前に、お前がやったこと全部だ」
三分前まで重傷だった女子を相手に容赦なくユーシャは尋問をかけたのであった。




