後悔なんてなかった
結局、ユーシャは答えを見つけられず教室に帰っていった。
「…………」
隣が空いた長机の上を堂々と広く使い、
寝ながらもその答えを考え続ける。
「あの~、大丈夫でしょうか?」
ユーシャは顔をあげるとお姉さん系女神ことリゼルを先頭に
数人の女子が心配そうに覗きこんでいた。
「邪魔をしてしまいすみません。ですが、
どうか私たちに相談していただけませんか?」
「そうにゃ。クラスの仲間の悩みは
私たちの悩み。何でも相談するにゃ」
そう同意する猫耳を始め、他の女子たちも続いて頷く。
正直なところ、他の誰かに言って何とかなるとは思えなかったが、
愚痴を溢すくらいの気持ちで話してみた。
「なるほど。そういうことでしたか」
シャルロットが転校する理由、シャルロットが学校にいられる時間、
そして自分にならそれを止められることを女子たちに話した。
とは言えチートの事を言えば藪蛇になりそうだったから、
それが出来るほどの権力を持っているということにして説明した。
(まっ、バレたとしても記憶を消せばいいだけなんだけどな)
ユーシャがこの場で本当のことを言わなかったのは、余計な話に逸れて
今、悩んでいる問題から遠ざかりたくなかったからであった。
と、その時、リゼルに優しく抱きしめられた。
「うん!? んんん???」
頬に感じるマシュマロのような柔らかさがユーシャに安らぎではなく、
混乱を与えてくる。
「やさしいのね、神野くんは」
そして、リゼルは腕の中の青年に向けて心からの称賛の言葉をかける。
そこには決して友達が離れてしまう悲しさを埋めてあげようという優しさではなく、
心底惚れてしまったという熱が込められている。それがさらにユーシャの正気を掻き乱す。
「待てよ!」
これにはたまらず柔らかいリゼルの両肩を押し戻した。
「俺が聞きたいのは『どうすればいいか』なんだよ。
優しいなんて褒め言葉は今はいらねえ。第一、お前らはどう思ってんだよ。
あいつが転校することが嫌なら、俺に連れ戻して下さいとか言うのが普通じゃねえのか?」
実はこの時のユーシャの言う普通と一般常識的な普通では大きくかけ離れていた。
しかし、少なくともこれまでしてきたゲーム内のキャラクターたちは、
『お願い。○○を取り返して』や、『離ればなれになっちゃう何でいやだよっ』と
涙ながらに主人公へ懇願していた。
だが、目の前にいるこの現実の少女たちは不思議そうな顔で互いを見合っていた。
「いいえ。別に?」
「もう会えないわけじゃにゃいし、会おうと思えばいつでも会えるにゃよ」
と女子たちは言い、ユーシャは絶句した。
そして、リゲルは言う。
「学校は私にとってとても大切な場所。でも、絶対に必要な場所とは思えないの。
生徒として不謹慎な言葉だけど、学校に通わなくても成功した人はたくさんいる。
むしろ学校に行くことで時間を浪費されたり、視野を狭くされて失敗した人だっていたと思う。
結論を言ってしまえば、学校に通うことが私たちの人生へ与える意味なんてごく僅かなの。
大事なのはその人がどう生きていくかという意志。
だから、シャルロットさんが転校されることに不満はないわ。
この転校が今後の人生に良い結果を残すかもしれないと考えれば、
私は心から祝福してお送りするつもりよ」
「…………」
言葉もなかった。
学校に行かなくても生きていける。その考えはまさしくユーシャの人生の事を言っていた。
道徳も学力も使わず暴力一つで財産を奪って生きてきた。
夢も希望も持たずただその日の気分を満たすためにだらだらと生きていくうち、
気が付けば三十近くの年月が経っていた。
その果てにたどり着いたのは『魔王討伐』とかいうすごい功績を手にし、
全くもって幸せな目にあっている。
今の今まで『学校に行っておけばよかった』という後悔なんて一度もない。
(あれ? 連れ戻さなくても良くね?)
そのことに気付いてしまった途端、胸に刺さっていた何かが剥がれ落ち、
それによって掻き立てられていた連れ戻すことへの義務感が薄れて消えていった。




