休憩なんてなかった
「ほわぁ~、癒される~」
ラブは昨日、シャルロットを保健室に連れて行った後、
ユーシャの勝利によって生じた案件の対応のために徹夜で働いていた。
それが、ちょうど今一段落がついてお茶をすすっているのであった。
「ムッ!? 何か悪寒が。なんちゃって。まだ授業時間だし大丈夫だよね」
ユーシャからの理不尽な暴力はすでに日常茶飯事としてなり、
おおよそユーシャがまた癇癪を起こしただけだろう、と動じることすら無かった。
(ここに来るのは放課後の事だし、今は一息入れさせてもらおう)
ラヴは積み上げた書類の山を奥に追いやり、
脇においていた来賓客からの菓子折りを目の前に持ち出した。
(おお、これはなかなか良い逸品だ。生徒が必死に勉強してる間に
お菓子を食べられるのって贅沢だね。さて、いただきまーす)
と、菓子折りの包みを破った瞬間、横から吹く爆炎が事務室ごと飲み込んだ。
「お~い、クソ天使。生きてるよな? 死んでくれてねえんだよな?」
ユーシャはどこからか連れてきた火竜の頭から降り、瓦礫と化した事務室跡の地に踏み込んだ。
セメントが砕け、鉄の芯が溶けている瓦礫の山の中、ススだらけではあるがなぜか無傷の
教材の梱包用の段ボール箱が異彩を放っていた。
「ちっ。やっぱり無事か」
「ふっ……。ふふふ……無事なんかじゃないさ」
謎の防御力の高さを持つ段ボール箱から現れたラヴは元は紙だった炭を手に見つめていた。
「見てよ、これ。昨日の夜、五時間かけて作った二か月後の学校見学の企画書だよ?
ねぇ、普通の人間がこれ一つ用意するだけでどれだけの労力が必要か知ってる?」
「知らね。つーか、それ分かっててやった。どうせ殺しても死なねえんだし、
そういうのぶっ壊して仕事の邪魔してやろうと思った」
「君は鬼かっ! 返せ! 僕の睡眠時間と疲労とわずかな安息の時間を返せ!」
「ンなことどうでもいい」
「どうでもいいってなんだ!」
号泣し、だみ声でラヴは訴えるが、ユーシャは全くそれに心を痛めずに言う。
「転校ってどういうことだ! てめえまさか、俺がアレ狙ってること知ってるくせに
余計なことしたんじゃねえだろうな!」
ユーシャの知人関係の中で最後に会った人間はラヴだ。
しかも転校ともなれば生徒数がどうので事務課に話が回ってくるはずだろう。
そんな推測から授業をボイコットし、事情を知っていそうなラヴの元まで来たのだった。
そして、どうやらその考えは間違っていなかったようである。
「え? あー、それか」
ユーシャに質問されると、ラヴは涙を拭いケロッとした顔で言う。
「んー、割と長い話になるけど良い? 政治的な問題もかかわってるし」
「却下。どうせ聞いても分かんねえし俺のイチャラブには関係ねえんだろ?
大まかに今の状況を言え」
「ふむふむ。となると……」
ラヴは顎に手を当ててしばらくうなっていると、ひらめいたように相槌を打った。
「上流貴族アズロン家令嬢のシャルロットは五日後に結婚式を控え、
学生から新妻へジョブチェンジすることになったのでした、まる」
子供の日記を読み上げるような口調で言われ、若干イラッとしたが、
それ以上に気になる言葉があった。
「結婚……だと…………」




