不安なんてなかった
決闘当日
その日は朝から学園は賑やかだった。
どこから漏れたのか、通学中の生徒の間ではシャルロットVSユーシャの話で持ち切りになっていた。
通学路もまるで縁日みたいに屋台が並んでいて観戦ようのクッションや日傘が売られていた。
「実は暇なんじぇねえの、こいつら」
ややげんなりとしながら、ユーシャは背中を丸めて学校へ向かうのであった。
噂話は学園内でも聞こえてくる。
休憩時間になると、他所のクラスから野次馬が教室の入り口までやってきて対戦する二人を眺めていた。
「見て。シャルロットさんの剣、いつもより輝いて見えない?」
「肯定。昨夜、磨きなおしたと思われる痕跡を感知。精神と身体ともにコンディションはMAXです」
「そりゃそうさ! なんせ今日の試合は全世界生中継で放送されるんだぜ?
クロイツのトコなんか戦争中だったのに、一時休戦して両軍とも自分の星に帰ったんだってよ」
「学校の授業で戦争止まるとか、世界、平和だねっ!?」
十分しかない休憩時間をワーキャーと騒がしくする外野に対して、
シャルロットは慣れたように凛とした姿を見せている。
それに比べて隣の席にいるユーシャはというと
「ぁぁ~…………」
目に生気がない。死んだ魚のようだ。
そんな彼を見て外野は言う。
「神野さんは昨日、よく眠れなかったのでしょうか」
「無理、ない。シャルロット、強い。勝つ、当然、存在しない」
「そうにゃね。いくら魔王を倒したからってシャルロットを舐めるにゃんてこと、
出来るわけ無いにゃ」
(にゃーにゃーうるせいぞネココ! 高い声出すな、頭に響くんだよ!)
腕を枕に机の上で仮眠を取っていたユーシャはものすごくいらだっていた。
(何を勝手に勘違いしてやがんのか知らねえがな。
こっちは久しぶりにギャルゲーやってみたらやめられなくなって、
結局徹夜しちまっただけなんだよ!)
その状態で地獄のような授業を受ける。
万全な状態ですら追いつけないスピードが残像を生み出しているように見える。
(ああ。今日やったとこテストに出たらどうしよう……)
地獄の授業三つが終わり、四時限目―体育
「さぁて! 始まりました!
『紅蓮の聖騎士』シャルロット・ディ・アズロンVS『魔王を討ちし男』神野ユーシャ!
観客席からは早くしろとの催促の声が鳴りやみません!
放送席から実況はわたくし、『いつもあなたのそばに』でお馴染み
歌って踊れる背後霊、高校一年R組、雨野濡髪と!」
「ヴァルハラ所属フレイヤ中隊副官、三年X組、パンサー・ハントシープが解説を務めさせていただこう」
「あの~、戦いが始まる前に聞いておきたいのですが、どうして水着でいるのですか? しかも、かなり大胆なビキニですね」
「バカ者! これは正装だ! 誇りあるヴァルキリーとして神聖な姿なのだぞ」
「うそん!? 完全に痴女だと思ってました!」
「しばらく時間を取らせていただこう」
放送が切り替わってBGMが鳴る間、ユーシャは控室でラヴと話していた。
「調子はどう?」
「いいと思うか?」
目の下にクマを作るユーシャは軽い準備運動をして答えた。
「と言っても、調子が良くないから本来の力が出せないわけじゃねえ。
それに、こっちにゃ三十年分の実戦経験があるんだ。
チートなんか使わなくても勝てるかもな」
強がりではなく心底面倒そうに言うユーシャにラヴは安堵し、声をかける。
「言っておくけど、殺しちゃダメなのは君もだよ?
僕ら裏方が全力で救護をするけど、あまり無茶だけは――」
「分かってるよ。軽く捻ってくるだけだ」
盛大なラッパの音が控室まで届き、ユーシャは闘技場の中へ向かう。
「それじゃ、行ってくるわ」




