発言権なんてなかった
ラヴはまるでサプライズパーティーを企画するような陽気さで、
殺伐とした単語を言った。
(ンなもん要らねえんだよ。どっかのダークファンタジーの世界にでも捨ててこい!
俺は胸揉んだり裸見れりゃそれでいいんだ! なにより)
ユーシャはちらりとシャルロットの顔色を窺ってみる。
そこにあったものは予想通り憑き物が落ちたようなさっぱりとした顔だった。
(うわぁ。かなり……嬉しそうだな…… (´ー`;))
唯一、その顔が今までで一番かわいい顔だったことが予想に反していたが、
特に嬉しくは思えなかった。
「(とにかく、なんとしてでも止めねえと。)
おいおい、今てめえが言ったこと、もう忘れたのかよ!
殺しは――」
「あ゛あ゛?」
「ダメだとおもいましたがシャルロットさんがよろしいのならばよろしいです。
(嘘だろ!? この俺が小娘にビビっちまった!)」
抗議しようとしたところ、鬼の形相でにらまれてしまいユーシャは言葉を下げられてしまった。
「まぁまぁ。そう殺気立たないでよ。殺し合いっていうのはただの表現だよ。
殺してしまうくらい本気で一対一の決闘をするんだ。体育の授業の延長としてね。
本当に殺しちゃダメだよ?」
「え?」
「『え』じゃ――ないことないですよねー。ハイ」
この会話にユーシャの発言権はなかった。
「じゃあ、話はまとまったみたいだし。君たち、二年H組だったよね?
明日の四時限目は体育だろ? その時に闘技場でやろう」
「分かりました!」
(ラヴ、俺には確認を取らなかったな?)
「それじゃ、さすがに今は気が立っているみたいだし、
今晩はこっちで神野くんを預かるよ。
通常通り、出席させるけどその時まで暴れないでね?」
「はい! 分かりました!」
「うん。良い返事だ。また明日。おやすみなさい」
「ちょっ、おまっ」
別れを済ませると、ユーシャを抱きあげて割れた空間に足を踏み入れ、
陽炎のように輪郭がぼやけて部屋から消えていった。
一瞬で騒がしさが消え去り、静寂が訪れた部屋で一人、つぶやいた。
「神はまだ、私たちを見捨ててはいなかったようです。お父様」
誰へ聞かせるわけでもない呟きには、ユーシャへの恨みでも殺す大義名分を得た喜びでもなく、
純粋な幸福感が込められていた。
割れた空間から足を踏み入れた先は事務員の部屋の中だった。
抱えたユーシャを長椅子に寝転がらせると、ラヴは気の毒そうに言った。
「面倒なことになったねえ」
「ああ。そうだな」
応えたユーシャは腕をラヴの股の間に伸ばす。
そして、思いっきり強く握った!
「ひんにゃああさsdヴぁおいjごいああうえhfg;szじょ」
握られた部位を両手で押さえ、白目をむいて悶絶するラヴを起き上がったユーシャは
襟元、ではなく首の気道に近い部分を直接つかんだ。
「おーい、天子様~? 発動しなかったんだけどチート能力。
不良品ですか? それとも幸せを運ぶ壺的なアレですか?
クーリングオフって効きますかね? 宛先になんて書けばいいのかな?」
ラヴは言葉の代わりに泡を口から出し、何かが外れる嫌な音を出すと
脇に投げ捨てられた。
「ったく。戦闘なんて久しぶりだから腕なまってんじゃねえかな、俺」
「君に負ける気がないなら、誰も倒せないよ」
首がおかしな方に曲がっているラヴは何事もなく立ち上がり、
棚に乗せる感覚で頭を両肩の真ん中に置いた。
「ゾンビかよ」
「君の方がもっと性質が悪いよ」
頭の位置が元に戻ったラヴは肩をすくめてそう答えた。
「ま、これも神野ユーシャっていう青年のすごさをアピールするための
チュートリアルとでも思えばいいんじゃない?
主人公が覚醒するのはいつだって死に際だろ?」
「随分なスパルタだな、おい」
ユーシャはラヴの能天気さに呆れてため息をついた。
「でも……そうだな。たまには運動も悪くねえか。だが今は風呂に入りてえ。
嫌な汗、いっぱい掻いたからな」
「あー、風呂ならその奥の部屋に温泉があるよ」
「なんで事務室に温泉があるんだよ!?」
「掘ったら湧いた。大天使だからね? 幸運スキル半端ないの」
「ふざけんな!」
本気で殺しに来る相手との決闘前夜に、
ユーシャは余力を感じさせるはしゃぎっぷりを見せるのだった。




