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勇者は神様に頼んでギャルゲーの世界に転生しました  作者: 火村静
攻略ヒロイン一つ目 ツンデレ編(63928文字[空白・改行含む])
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躊躇いなんてなかった

地獄の閻魔様を前にしているように

冷や汗が滝のように溢れ出ているのを感じる。

「えっと、何時からいた?」

「あんたがそれを読み始めた辺りからよ」

「そ、そっか。

(ヤッベー! 完全に聞かれてた。好感度どころじゃねえ。

死亡フラグ立っちゃったよ!)」

とりあえずユーシャはシャルロットに正座で向き直った。

重力の感覚がなくなり、足元から空間がぐにゃぐにゃと捻れていくように感じる。

「誰が小学生ですって? 婚期の心配をしているおばさんって誰のことかしら」

「いや、それはだな」

「誤魔化さなくて良いのよ? あんたの言ったことはだいたい合ってるから。

そうよ? 私、挙式したいの」

「あ、はい。そうで存じ上げられますか。

(その開き直った態度が怖ぇーよ)」

まともに顔を見れずうつむくユーシャだったが、

シャルロットはわざわざしゃがんで視線を合わせてきた。

「ねぇ? 何の式を挙げたいと思う?」

「さ、さぁ。私にはとうてい分かりかねております」

二人きりの部屋で女子が屈んで話をしてくれるという嬉しいシチュエーションのはずなのに、

ユーシャは慣れない敬語をするのが精一杯だった。

「それはね……」

シャルロットはそっと囁く。

そして一気に金属が走る音がする。

(ヤバいッ)

全身の毛が逆立つ。

それは反応というより反射だった。

精神年齢三十過ぎの経験が場の空気から危なさを感じとり、

とっさにユーシャを後方へ飛び上がらせた。

「あなたの葬式よ」

その瞬間、どす黒い怨念がこもった風が鼻先をかする。

続いて聞こえた音はフローリングに剣が突き刺さるものだった。

床に深々と刺さる剣先に恐怖を感じていると、ユーシャのカッターシャツが切れていたらしく、

はらりと捲れた。

「じっとしてなさいよ。首、落とせないでしょ?」

(こいつ、ガチで殺す気だ)

シャルロットはフローリングの木片を巻き込みながら剣を抜くと、

幽鬼のようにゆらりと揺れて構え直す。

(やべぇ。腰が抜けた)

強いだけの騎士も、バカ(ぢから)を持った不細工なババアも、怖いだけのサイコ野郎も

皆、手をかけたり返り討ちにして身ぐるみ剥いで売り飛ばしたことはある。

だが、その全部プラス美少女がかけ合わさった目の前の女の迫力は、

それらの比ではなかった。

「冗談きついぞ。俺は女とイチャイチャしたかったからここに来たんだぞ」

「なら、良かったじゃない。私に斬られることを光栄に思いなさい」

混じりけのない殺意がこもる剣が素性から振り下ろされる。

(おい。発動しろよ、チート能力! こんなところで死ぬなんかねえぞ!)

しかし、ユーシャの願いは届かず刃が髪を切り始めた。

「はい、そこまで!」

間延びした声が聞こえたと思ったら突然、空間がガラスみたいに割れ、そこから伸びる手が切っ先をつまんで止めた。

「学園の事務員として学生の犯罪行為を見過ごすわけにはいかないね」

「ラヴ!」

便所掃除中だったのか、トイレ用のブラシを持った姿での登場はなんともしまりが悪いけれど、

ユーシャの命が守られたことに変わりはなかった。

「初めて役に立ったな! 最初で最期の見せ場じゃね?」

「『初めて』って……。君の自分勝手さ、揺らぎないねえ。

命の恩人に対して最『期』って言える口の悪さ、嫌味なしに凄いと思うよ」

至極当然なことを言ったつもりだが、なぜか肩を落とすラヴにユーシャは首をひねった。

それから、ラヴは気を取り直してシャルロットに向かって言う。

「カッとなったからって殺人は良くないよ。

あのまま、僕が止めなかったらどうなるかくらい分かるよね?」

「私はそこの男から精神的な暴行を受けました。これはそのお返しです」

「おや? 君の家では丸腰の人間への仕返しに剣を取るように習っているんだ。

ちょっと保護者と教育について話した方がいいのかなぁ?」

「くっ」

わざと嫌味たらしい言い方で忠告されると、シャルロットは苦虫をかんだ顔になる。

そして、それを見たラヴが納得したように頷くと、剣をつまむ手を放した。

「まぁ、でも男と女だ。多少の価値観の違いで喧嘩することだってあるだろう。

そこでぼくから一つ提案がある」

ラヴは人差し指を立てて二人を見合った。

「ちょっと明日、殺し合いをしてみようか」

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