良い男なんていなかった
ユーシャは棚に置かれた教科書を少しだけ引き、
一番奥まで押し込んだ。
次に、さっき見ていたアルバムにも同じことをする。
そして、その二冊を取り出して大きさを比べてみた。
「やっぱりおかしいよな?」
どちらの本も奥へ押し込んだときの背表紙の位置は同じ。
しかし、明らかにアルバムの方が大きい。
(奥行きの長さが違う? あれ? もしかして)
ユーシャはその段の教科書をすべて床に下ろし、
棚の中身を調べてみた。
「あっ、こんなところに」
影になっていて見えづらいが、端に蝶番がつけられ、
その反対側には不自然な窪みがあった。
試しに窪みに指をかけて引っ張ってみると、
蝶番を軸に奥の壁が回転し、さらに奥の棚が開かれた。
「日曜大工かよ。エロ本隠すにしても手が込みすぎてるぞ」
新たに現れた空間に置かれていた者は主に雑誌らしきもので
そのうちの一冊を取り出してみた。
「結婚特集?」
表紙にはじょんぱくのドレスを着た女がブーケを持って
人生で一番幸せな瞬間を感じている写真が写されていた。
他の雑誌も手当たり次第に下ろしてみると、どれも結婚に関する内容ばかりだった。
「キャラ設定に一つ追加されたな」
将来したいこと:結婚
(結婚?)
ユーシャは普段のシャルロットを脳裏に浮かべた。
(アレのやりたいことが結婚……)
いつも刺さるような鋭い視線を送り続けてくるシャルロット。
女っぽい魅力が感じられないシャルロット。
色気のあるものはないのかと聞くと『そんなものにうつつを抜かす暇はない』、と憤慨するシャルロット。
(……。ぷっ、ははは。ははははははは)
「似合わねぇぇぇー!(o_ _)ノ彡」
抑えきれないほどの笑いに我を忘れて大声で叫んだ。
「あいつ、結婚したいのっ!? 何歳!? 小学生!?
いや、あえて逆のおばさん? 婚期逃しそうなおばさんなの? 気にしてんの!?
バカじゃね? っつーかバカじゃね?」【※注意 このセリフを言っている彼は主人公です】
落ち着くまでしばらくの間笑っていると、冷静な口調でユーシャはつぶやいた。
「まぁ、とにかくあいつの願望は分かった。攻略するなら結婚に関係する方法が良いんだな」
シャルロットは『結婚願望』という乙女チックな本性な持っていた。
しかし、彼女はそれを『女騎士』という鎧のように固い属性で必死に隠していた。
それは彼女にとって一番大切で弱い部分だからだ。
誰にもばれないように、礼儀正しく、遵法精神を高く、純潔な姿を見せ続けてきた。
「…………ぷはっ。ダメだ。何回思い出しても笑っちまう!」
一度引いた笑いの波がまた押し寄せてきてユーシャの腹をねじ切ろうとしてくる。
「そんなにおかしいかしら?」
「だって! お前、いっつも興味なさそうな顔してんじゃん!
男嫌いです、みたいな感じ出てたじゃん! それがよ?
デートとかすっ飛ばしていきなり結婚? 気ィ早すぎなんだよ!
そんなに挙式したいの? 今から独り身の心配してんの?
俺がもらってやるから安心しろよってなぁ。ハハハハハ」【※注意 しつこいですがこのセリフを言っている彼が主人公です】
「そう」
「はははは、はは。は、ははは。はぁ、あれ?」
笑いながら床をバシバシ叩くを手を止めて、ゆっくりとユーシャは顔を上げた。
そこにはオーラ的な何かを纏うシャルロットが仁王立ちしているのであった。




