43羽:直轄村ザクソン
ザクソンの宿場村がオレたち大森林の民の直轄地になったのは、次のような流れがあったらしい。
「それほどの謝礼の金はいらぬ。その代わりに“あの村”をくれぬか?」
小悪魔的な笑みを浮かべながら《獅子姫》ちゃんがグラニス卿……少年騎士レオンハルトの父親に条件を伝える。
「村だと……村といってもグラニス領内には数多の村がある。だが、その口調では目星はついているのであるか、“獅子姫”殿」
想像もしていなかった大森林の姫君の要望だった。だがグラニス伯爵は好意的な対応をする。
「“ザクソンの村”じゃ。あそこを大森林の民の直轄領にしたいと思う」
「……それは可能である」
グラニス伯爵は少し間をおき返答する。ザクソンの村の譲渡は大丈夫だと。
「しかし大森林から近いとはいえ、なぜあのような辺境の街道村を所望いたす?」
大森林の部族の真意を確かめようとグラニス伯爵公が《獅子姫》ちゃん尋ねる。
「“交易”じゃ。ザクソンを拠点に大森林の特産品とグラニスの穀物を物々交換ということじゃ」
《獅子姫》は交易を始めようとしていた。
“穀物”
大森林の部族は完全な自給自足の生活をしている。
森の中の豊富な獣を狩り木の実や山菜を採取して生活していた。
簡単な作物の栽培や小川での小規模で漁業も行っている村もある。だが大部分を狩りと採取に食料は頼っている。
正直なところそれは不安定な生活だ。
獣や山の幸は天候に左右されることが多く、森と共存するこの部族は無駄に貯蔵搾取をしない。
だから子たちはいつも腹を減らしていた。幼いころの自分のように。
育ち盛りなのに腹一杯にはならず赤子の出生率も悪い。
大森林の民は加護により強靭な身体の持ち主だが、空腹は弱いのは常人と同じである。
本来ならば保存が効き色々な料理へ応用できる穀物を、主食として欲しいところであった。
だが日照の少ない大森林は穀物の栽培に不向きだ。
『ならば交易により穀物を輸入する』
《獅子姫》はそう考えたに違いない。
グラニス領は見た感じと土壌も肥えており人々の食は豊かではあった。
下界で口にした文明の味は今でも忘れられない。
「交易と言ってもザクソンの村人が主体じゃ」
《獅子姫》ちゃんの説明によると、基本的には大森林の部族とグラニス領との貿易となるが、多くの部分はザクソンの民に委任して商人を利用するという。
ふむふむ……確かに下界の商人と売買をするのならば、この王国としても悪い話でない。
グラニスとしては商人からの税収が上がり、更には余った穀物を貨幣に変えられ一石二鳥である。
「うむ、分かった。詳しい締結内容に関しては……」
要望を受け入れたグラニス卿は笑みを浮かべる。
こうして森の民と下界のグラニス家との会談は終了し、ザクソン宿場村は正式に大森林の民の直轄地となったのだ。
◇◇ ◇
「では、ここザクソンの今後についてだが……」
そんな手続きも終わり、オレたち森の民はザクソン宿場村に戻って来た。
村長や宿屋の女将といった世話役を集め今後の説明をしている。
今後の生活の保障や交易の仕方など。
またザクソンを守るための自警団も設置した。
宿屋の女将の夫がグラニス家の退役軍人であり、剣の腕前も中々の戦士だった。
その男を中心にグラニス兵を退役した者をスカウトして、ザクソンの自警団として常駐してもらう事になった。
「大森林の皆さんにはあの時、村を救っていただいた恩があります」
「むしろ辺境を理由に、ここを見放していたグラニスよりはいい領主になりそうです」
「だな」
そんな感じでザクソンの村人たちは歓迎していた。
彼らとは税金を納める相手が変わっただけで、今までの生活に変わりはないのであろう。
むしろ話にある様に利点が多いのだという。
大森林との貴重な交易を独占する場所としてザクソンは栄えるかもしれない、と。
交易拠点は宿屋や馬屋、商店、その他雑務の仕事など、雇用と金が村に落ちてくるのだという。
また今までなかった自警団が常駐することにより治安も良くなる。
「では交代制でこのザクソンには大森林の民を派遣するのじゃ。あとはよろしく頼むぞ」
全ての段取りを済ませて《獅子姫》は満足そうな笑みを浮かべている。
「よし、では戻るとするぞ」
そして号令と共にオレたちはザクソンの宿場村を後にして戻る。
自分たちの生まれ故郷である大森林へと。




