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170羽:陰の英雄たち

“三国同盟締結”及び“魔穴決戦勝利”周年記念式典


 

 その開催場所となった城塞都市フランケンは建都史上最大の賑わいを見せていた。


 大通りはもちろん裏路地の至る所にも露店が建ち並び、威勢のいい声で隣国からの客にここぞとばかりに街の名産を売り込む。式典に参加している王族皇族や貴族以外にも、そのお付きの騎士従者や関係者だけでも膨大な数の来訪者となる。


 三大国からの街道が交わる要所として大陸中の名産品が集まるこの街では、あらゆる物と人種が溢れ活気づいていた。


 式典のメイン会場では記念式典や調印式・各種セレモニーが数日間に渡り行われ、その合間を縫って各国の要人たちもお忍びでこの城塞都市の様子を視察していた。


 そんな中、式典会場前の大広場から大歓声が上がる。恐らくは式典の部が終わり、各国の代表者たちが市民に向かって挨拶をしたに違いない。三国のそれぞれの繁栄を、そしてこの大陸の平和を願い市民たちが声を上げ天に突く。


 話によるとこの後は夕方からは会場を移し、王皇族や上級貴族たちによる晩餐会が行わるという。煌びやかに着飾った紳士淑女たちが楽器隊の生演奏と共に踊り、会場の端では各国の貴族たちが密談を行い今後の情勢に暗躍する。


 各国のお抱え料理人による高級食材をふんだんに使った料理は、一般市民が一生口にする事が出来ない美味珍味が立ち並び、各国の美食家たちの舌を唸らせるだろう。


 どこからともなく流れて来たその情報に市民たち耳を傾け、晩餐会の話で盛り上がる。春の陽気も相まって、この街にいる者たちは誰もが浮かれ賑わっていた。



・・・・・・



「この香草タレに漬け込んで焼いた肉は実に美味であるな」


「“蒼竜王そうりゅうおう”、それは大陸西部の伝統的な料理よ。わらわが良かったら今度作ってあげるわ」


「いや、お主の飯は遠慮しておく・・・」


 そんな街の中にあって浮かれ様子に目もくれず、各国の屋台の料理に舌鼓を打つ不思議な五人の集団がいた。陽気な会話とは反して人気を近づけない異様な雰囲気を醸し出す。




 一人は“蒼竜王そうりゅうおう”と呼ばれた男。

 軽口を叩きながらも実に美味そうに、尚且つ上品に屋台料理を食べている。鼻の下にクルリと細いヒゲを生やし服装も煌びやかな貴族風の格好である。見るものが見たならそれは遥か昔の旧ヴェルネア帝国時代の礼服である事に気付き驚く。何故ならその旧服が使用されていたのは今から百年は昔なのである。


 その手に持たれた槍は細部まで見事に装飾された古き物で、その立ち振る舞いだけでこの男が尋常なら槍の使い手である事が察せられる。



 二人目は女・・・“紅鳳王べにほうおう

 不思議な異民族の衣装を身にまとい、その素肌が見える部分は月夜に照らされた様に白く美しい。妖艶で華奢きゃしゃな身体つきからは想像が出来ないが、その手には力自慢な男でも引く事すら出来ない真紅の剛弓を携えていた。異民族の衣装や古代語に精通した者なら、彼女がこの大陸の大山脈に住む稀少民族“天空族”の民である事に気付き驚くだろう。




「フォッホッホ・・・旧帝国の貴族にかかったら“紅鳳王べにほうおう”、お主の怪しげな料理も形無しだぞな」


「オレは“紅鳳王べにほうおう”の料理は、懐かしい味で嫌いではない」


 三人目は小柄な初老の男“黄麟こうりん

 全身を覆う様に着ているローブのお蔭で、その表情は見えないが身体は大きくはない。だがその周囲には何とも言えない怪しげな強いオーラまとわせている。



 四人目の巨大な体躯たいくの戦士『岩の盾』

 重厚な全身鎧に身を包んだ戦士で、その右手には身丈を超える鋭い大戟ハルバードを構え、脇には分厚い大盾も携えている。他の四人に比べて寡黙な分だけ不気味な威圧感がある。



「おい、お前ら。衛兵たちがこの周囲を包囲しつつあるぞ。そろそろ遊びも終いにして次に行くぞ」


 五人目は剣士『流れる風』

 緑色に輝く皮鎧に腰に一本の剣を差しているだけの軽装だがその物腰に一切の隙は無く、この者が剣士としてかなりの腕である事を想像させる。



「という訳だ“黄麟こうりん”のジイさん、例の“隠遁の術”を頼んだぞ」


「ああ分かったぞな。だがお主たちはこの街はもういいのか?式典会場には因縁浅からぬ騎士戦士たちも勢揃いしていたがの」


「そうだな・・・だが、祭りの場で騒ぎは起こさねぇ・・・それが森の部族の掟だ」


 やれやれ、その森の部族にも追われているのにも関わらず何とも生真面目な奴だ、とブツブツ独り言を言いながら“黄麟こうりん”は術を唱える。


遠巻きに取り囲んでいた衛兵は、自分たちの監視対象が突然その姿を消した事に驚愕する。“絶対にこちらから手出ししてはならない。だが、その行方を見失うな”と命令されていただけにその動揺は大きい。

 

(ご愁傷さまだ)


 その様子を横目に見ながら『流れる風』はその場を立ち去る。


 今や自分たちは各国からお尋ね者扱いである。何故なら数年前にこの仲間と共に“魔穴”のヤツに挑み返り討ちに合い、逆に不思議な術で“敵”としてヤツの手先として操られていたからだ。


 最終的には『魔獣喰い』のお蔭でその術は解け自由になってはいたが、この手で多くの罪の無い者や同胞を苦しめた事は事実だ。お縄になり下界や部族の法で裁かれても文句は無い。


(だが、ケジメは最後までつけてやる)


 “魔穴”のヤツが消滅したと言っても、そいつがばら撒いていた“魔”と混沌の種はまだまだこの大陸の各地に残存していた。未だに洗脳が解けていない者、魔獣を出現させる装置など、それをひとつずつ見つけ消して行くのは、自分たちに残された最後の使命と感じていた。


(本当に全てが終わったら、生まれ故郷のケドの村に戻ってケジメをつけるのもいいかもしれねぇな・・・)


 そう言えば『魔獣喰い』には子供が産まれていたという話だ。


(あの時に森で拾ったガキに子供が出来るとは・・・オレも歳を取ったもんだ)


 忙しいアイツに代わって幼いガキに剣を仕込んでやるのも面白いかもしれない・・・何しろ剣姫とアイツの間に出来た子もいるという話だ。才能だけなら親以上だろう


(フッ、孫が出来るっていうのはこんな気持ちなのかもしれない)



 自分らしくもない・・・『流れる風』は感傷に浸りながら祭りで浮かれるフランケンの街の後にするのであった。

 












いよいよ次羽で最終回となります。


長いエピローグとなりましたが、最後まで宜しくお願い致します。

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