161羽:聖女たちの帰還
(・・・ん?)
金色の眩しい光が“獅子姫”の瞼に差し込んでくる。
(何だ、この力強くそれでいて暖かい日の光は・・・そうか、私は『魔獣喰い』に斬られて死んだのだったな・・・なら、此処は森の戦士が誇りある戦いの死後に辿り着けるという“戦神の宮殿”であろうか・・・ふむ、死してまたこの剣が振るえるとは私も運がいいのじゃ・・・)
そう思いながら“獅子姫”は半目を開け自分の右手を見つめる。そこには前世で彼女が愛用し、最近は彼に預けていた愛剣が握られていた。この剣で斬られ命を失ってなお愛着がある物である。だが、その握りには違和感があった。
・・・そう死んでもなお手に違和感がある事自体が有り得ない事だった。
「そういう事か・・・ふふふ・・・迎えに来るのが遅いぞ・・・『魔獣喰い』」
“獅子姫”は明るい光に慣れてきた瞳を開け、倒れていた自分を支えている正面の人物にそう小さく呟く。
「遅くなって本当にごめん。あれ、“獅子姫”ちゃん、オレの事がちゃんと分かるの?」
“獅子姫”を支えてくれている男は謝りながらそう問い掛けてくる。
「あたりまえじゃ。私を誰だと思っているのだ。だが、お主が思いっ切り打ち込んでくれたお蔭で頭がまだフラフラするぞ・・・さあ、立ち上がるから肩を貸すのじゃ」
言葉は相変わらずの強気だが、その口元には柔らかい笑みが浮かぶ。“獅子姫”は『魔獣喰い』の肩を借りゆっくり立ち上がる。前は同じくらいの身長だったが、今は完全に抜かれていた。
「獅子姫様、大丈夫ですか・・・」
もう一方の腕を聖女エレナが手を貸し支える。
「おお、エレナ・・・それに、“清い水”、マデレーンにセリーナまで」
目を向けると自分の周りには心配そうな顔をした王女マデレーン、精霊神官“清い水”、聖女エレナと研究軍師セリーナと、この“魔穴”に永らく囚われていた四人の仲間たちがいつの間にか勢揃いしていた。
「あなたとマジウスの一騎打ちを見ていたら、最後はまるで恋仲の二人の様に語り合いながら見つめ合っちゃって・・・抜け駆けは禁止だってあの時に皆で約束したでしょう!」
あの時とは大村で女子だけで朝まで飲み語りあった時だろう。少し頬を膨らませながら王女マデレーンは“獅子姫”を軽くつねる。
「“獅子姫”様、どうやら私達はこの世の理から外されて、『魔獣喰い』の記憶と存在を無くされていたようです・・・」
精霊神官“清い水”は獅子姫の怪我の様子を確認し、精霊術で治療しながらそう報告をする。成る程それならば催眠や状態異常で回復が出来なかった訳だ。
「つまりなのだ、あそこにいる“奴”が我々を騙し『魔獣喰い』と相争わせ、尚且つこの“魔穴”を広げこの大陸を混沌に呑み込ませようとした悪の元凶という事なのだ!」
皇国の皇女であり森の民の研究軍師セリーナは小振りな胸を張り、遠い所でこちらの様子を観察していた一人の男を指さす。彼女自身は直接の戦闘能力は無いが、その洞察力と作戦立案能力に数多く助けられてきた。
「あやつが謀ってこの地に我々を拘束し、『魔獣喰い』と私を殺し合いさせた張本人か!」
精霊神官からの治療を終えた“獅子姫”は右手に持つ剣を構え、今にも飛びかかりそうな勢いで叫ぶ。他の四人の仲間たちもその声に反応しその“男”に対して構え警戒する。
立場は先程までと逆転し一対六で圧倒的にこちら側有利だ。だが、“男”はその事を気にした様子もなく、こちら側のやり取りの様子をつまらなそうに静かに観察している。
「ちっ、能面な気に食わん相手じゃ」
“獅子姫”は舌打ちをし、仲間に視線を送り斬り掛かるタイミングを図る。だが、その行く先に手を出し抑える者がいた。
「“獅子姫”ちゃん・・・みんな、あいつはオレに任せて欲しい・・・」
それまで沈黙を守っていた『魔獣喰い』は皆の逸る気持ちを抑えそう懇願する。
「でも、マジウス・・・あいつはどう見ても普通の相手じゃないわ。あんた一人だけだなんて・・・」
王女マデレーンは得体の知れない相手の雰囲気に呑まれそうになりながらも、相手を警戒しつつ『魔獣喰い』マジウスの提案に異を唱える。
「分かっている・・・でもあいつは・・・アイツとオレの事は自分たち自身で解決ないといけない事なんだ・・・」
心配する仲間を落ち着かせる様に『魔獣喰い』は穏やかな表情でそう語り掛ける。
「“自分たち”とは一体・・・分かったのじゃ。だが、今度は一人で抱え込んで無茶な事は絶対にするではないぞ!早くこれを解決して・・・その・・・アレじゃ・・・約束を守ってもらうからの・・・」
“獅子姫”は最期の方は赤面し言葉を濁しながら『魔獣喰い』の背中を目一杯叩き、彼女なりの気合い入れを行う。
「ああ、みんなありがとう・・・必ずここに帰って来るよ!」
『魔獣喰い』は皆の顔を見ながら最後にそう呟きゆっくりと一人歩き出す。静かに一歩一歩、大地の力強さとこの森の空気、全てを感じ確かめ感じ様に力強く“相手”に向かい進む。
「・・・セリーナ、何か違和感があったら指示を出すのじゃ。“清い水”とマデレーンも術を解かずに準備しておけ。エレナもいつでもその大剣を抜ける様に準備しておくのじゃ・・・」
『魔獣喰い』が無茶無謀な男なのではここにいる全員が知っている事だった。そんな彼を信じつつ、だが万が一の時には自分たちの命を課しても守る覚悟も全員持っていた。
「『魔獣喰い』・・・死ぬなよ・・・」
いつの間にか手の届かない位に大きく成長していた想い人の背中に、そう語り掛ける様に“獅子姫”は一人呟くのであった。




