98羽:二人の黒騎士
本日2本目のUPです
ご注意ください
小高い丘に敷かれたイスラマ神聖皇国の本陣から、黒い鎧をまとった一人の騎士を先頭にした集団が駆け抜けて行く
草原に降り敵対する敵軍に突撃する
対するベール王国側は材木で組んだ柵を前にしてそれを迎えうつ
(あの数でこの防御柵を抜こうとは気でも狂ったのか!)
守る側の指揮官は部下の弓矢隊に声をかけ迎撃の態勢につく
先頭が目視できる距離になり敵の姿が分かるとその指揮官は驚愕する
(あれは先日一騎駆けをして谷間の要所を抜いた『黒騎士』とやらか!?こしゃくな!)
どんなに武勇を誇る騎士であろうが、集団の武に適うはずはない
「弓矢隊、撃て!撃ちまくれ!勘違いをしている先頭の騎士に戦の現実を見せてやれ!」
単騎での一騎駆けなど、戦場でよくある誇張した話しだと信じていた指揮官は、その黒騎士をハリネズミにするべく部下に指示を出す
ビュン、ビュン、ビュン
長弓から繰り出された矢は、勢いよく天に弧を描き敵の騎兵に突き刺さる
連射が利き放物線を描く長弓矢の利点を使った見本のような矢の雨だ
これだけでよく訓練された正規兵であると同時にその驚異度が分かる
どんな重装備の騎兵だろうが、この矢の雨の攻撃を受けたなら無事では済まない
先頭の犠牲を覚悟しながら、兵数を使い距離を詰め接近戦に臨むしかない
(だが、そんな少ない数ならこちらには届かないだろう)
ベテランの指揮官はその無謀な敵の突撃を、絶妙な指揮で返り討ちにしたと手応え感じた
しかし
矢を雨の様に受けたその黒騎士は、何事もなかったように直進して来る
盾で一応は防いてはいるが騎士にも軍馬にも大量の矢が突き刺さっていた
「ほ、本当に不死身の化け物なのか・・・・」
兵士の誰かが呟く
こちらの弓矢隊はその異様な光景に冷静さを失い、黒騎士の後方の普通の騎兵には目もくれず先頭の不死身の騎士を狙い撃とうとする
(こいつを打ち取ればこの戦の英雄だ)
興奮した兵士達は指揮官の声も聞かず、闇雲に矢を射る
一兵卒がたった一騎の騎士に対して、そこまで正確な射撃もなかなか出来るものでない
気付くと自分たちの目の前に迫った黒騎士は、木の柵をもろともせずに一撃のもとに突破して来る
「急げ、敵の侵入を許すな!」
守る指揮官の叫びも虚しく、その穴から敵の騎兵が次々と侵入して来た
見ると中に侵入した黒騎士は、大きな戟でこちらの味方の命を次々と奪っている
(くそっ、こんな人外の相手にどうしろというんだ!)
守る指揮官は被害を最小限に抑えようと努力しながら、上に愚痴をこぼす
☆
一方こちらの目の前にも黒騎士がいた
オレたちは皇国軍のマリオ法皇子との裏取引をして、森の戦士団と共に皇国の最高司令官である教皇の首を獲りに来た
何とか要所を越え敵の裏をかき、盾となってくれている仲間の支えも有りながら何とか教皇のいる本陣まで到達する事が出来た
教皇を倒す為の一番の難関と思われていた『不死身の黒騎士』は、この丘からも見えている様にベール王国に向かい突撃してここにはいないはずだった
だが現実には『黒騎士』は目の前いて、腕利きの先方隊をたった一人で惨殺していた
(マリオが裏切ったのか?それとも他の何かカラクリがあるのか!?)
森の戦士『魔獣喰い』は部下に指示を出し、迫り来る周囲の敵近衛兵を抑えるように指示を出す
(どっちにしろ、教皇がこの場にいないのならこの作戦は失敗だ。被害が大きくなる前に撤退の指示を出さないと・・・・)
突然のオレたちの突入で混乱状態の皇国本陣だが、冷静に観察した感じだと教皇の姿はそこにはなかった
もしもこの場にいたのなら、近衛兵が必死で盾になり教皇を逃そうとする動きがあるのだがそれがなかったのだ
それどころか教皇を探そうと敵兵も混乱していように見えた
「教皇陛下をお探しになるんだ!急げ!」
「先ほどまで陣幕のテント内に居たはずですが姿が見えません!」
混乱しているのか、こちらにお構いなく声を荒げながら向こうも教皇を探していた
(もう既に密かに脱出しているのか!?どっちにしてもここには用はない)
オレは退却の決断をして部下に指示を出す
自分も弓矢を使い牽制し煙幕代わりの大蛾の粉玉の準備をする
しかしその中で、一人だけ退却命令に従わずにその「黒騎士」にゆっくり近づいて行く男がいた
大矛と大盾を持った重装備の偉丈夫の戦士・・・・森の戦士『岩の矛』だった
(クソッ、またいつもの悪い癖が出たのか!?)
戦場で強者を見ると血が湧きたぎるのがこの男だ
「『岩の矛』退却だ!聞こえなかったのか!」
オレは仲間であり、幼い頃からの友でもある男の横に並び、肩をつかみ止めようとする
(こ、こいつ・・・)
その横顔を見て驚く
『岩の矛』は悪い癖はあるものの、戦士として指揮官としては冷静で有能な男だ
だが今のその顔は、目を血走らせ明らかに冷静さを失った顔をしていた
更に興奮のあまり体を震わせ、闘気とも怒気とも取れるオーラが滲み出ている
「オヤジ!!何でこんな所にいるんだ!!?」
そして、『黒騎士』に向かってその口から出てきた言葉は、オレも驚きを隠せない一言だった
☆
戦士『岩の盾』・・・
オレのいた大森林の辺境の小さな村に住んでいた歴戦の戦士のオジサン。オレがまだ小さい頃に戦士『流れる風』オサッンと共に同じ狩り組にいたオレの教育係りで、無口でよくゲンコツで叱られた記憶がある。子供好きでよく村の子供達はこの人に遊んでもらっていた。
後から知った事だが実は、20年位前に大森林を『流れる風』のオッサンと共に出て、大陸中を仲間達と旅した冒険者の一人で、その後に起きた大森林崩壊の危機を救った英雄の一人だったという。
そして、ここにいる『岩の矛』の実の父親でもある・・・
「オヤジ、そんな鎧を着ていてもオレには分かるんだぞ!」
自分の父親に対して叫び、体を震わせている『岩の矛』は今にも目の前の男に噛みつく勢いだ
(何で『岩の盾』のオジサンがこんな所に!?というか黒騎士の正体がオジサン?数年前から旅に出て村に帰っていないとは聞いていたけど・・・・)
突然の咆哮に敵味方が足を止めてその場を注目する
《・・・懐かしい名だ。だが、戦士は言葉でなくここで語れといつも言っていただろう》
そう小さな声で語りかけてくると共に、大戟を振り上げた『黒騎士』は動き出す
(まずい!)
オレは弓を構え直し黒騎士に向かって矢を射る
ビュン、カン
速射で敵の意表をついたつもりだが、黒騎士の持つ大盾によって矢は防がれてしまった
(くそっ、本当に『岩の盾』のオジサンだとしたらこの防御力を抜くのは難しいぞ)
何しろ重量戦士でありながら、凄まじい反射神経と膂力で森の獣や魔獣の一撃すら一人で受け止める強者だ
「おい、『岩の矛』!目を覚ませ!殺られるぞ!」
まだ、現実を直視できないのか、その場で立ち尽くす『岩の矛』にオレは声をかける
「オヤジさんを言葉で説得できないなら、『ここで』ぶん殴って説得するんだよ!」
オレは自分より背が高い『岩の矛』の顔を素手で殴り語り掛ける
そうしている間に『黒騎士』の大戟がオレに襲い掛かって来る
(くそっ、何でオレの方に・・・・避けないと・・・)
ガギン
オレの目の前まで迫っていた大戟が大きな盾で防がれていた
(ハッハッハ、目を覚ますのがギリギリなんだよ)
オレの後ろにいた『岩の矛』がその手に持つ大盾によって防いでくれたのだ
そのまま大盾を突き出し黒騎士を吹き飛ばす
「まさかお前に気合入れをしてもらうとは思わなかったぜ」
先程まで我を失っていた『岩の矛』は、いつも通りに大胆不敵な笑みを浮かべて横にいるオレに語り掛けてくる
「ああ、これで前に助けてもらった貸し借りは無しだな。それより出来るかどうか分からないが、これからお前のオヤジさんの目を覚まさせるぞ」
さっきまで退却の判断をしていたオレだったが、この場をどうにかしたい想いで作戦を変更する
(そうは言ったものの、本当に目を覚まさせる事が出来るのか・・・)
オレは目の前にいる圧倒的な威圧感を出す『黒騎士』を見ながら、相変わらずの無作戦な自分が嫌になる
この章は登場人物がいつもより多いので簡単な人物紹介も行います
【森の戦士団】
魔獣喰い:(下界名:マジウス)
主人公?17歳で森林弓兵の小隊長。他人の見えない何かを感じたり見たりすることができる。新たな転生者の出現に、維新復活のために張り切る。敵であるマリオに親近感を感じている。今回の作戦は教皇の首を獲る先頭部隊を指揮する。ミスター無策無謀。
研究軍師セリーナ:
下界人で森に住む女の子天才軍師。実はイスラマ神聖皇国の皇女。グラニス軍でも影の軍師として采配をふるう。ブラコン。剣の腕は微妙だが走るなどの体力はかなりある。マリオを追いかけて決戦の地に到着した。いつもはマッドサイエンス軍師だが今回もシリアスモード。岩場を登れないので留守番中。みんなの無事を祈る
精霊神官『清い水』(下界名:レティーナ)
森の戦士『魔獣喰い』の専属精霊神官。彼に着いてきて決戦の地に到着した。岩場を登れないので留守番中。みんなに精霊の加護を届ける。
イケメン剣士:(下界名:セバスチャン)
魔獣喰いのかつての仲間。結構な剣の腕前で指揮能力もあり万能選手。未だに魔獣喰いの事を班長と前の呼び方で呼ぶ。魔獣喰いたちと教皇の首を狙う。退却と思わせて『黒騎士』と戦うという作戦変更に「やれやれ班長といると色々と楽しめそうだ」とグチる
牛さん:(下界名:不明)
魔獣喰いのかつての仲間。無口な重量戦士。魔獣喰いたちと教皇の首を狙う。退却と思わせて『黒騎士』と戦うという作戦変更に「・・・・やるか」とグチる
坊ちゃん:(下界:不明)
魔獣喰いのかつての仲間。金の計算と弓が得意。魔獣喰いたちと教皇の首を狙う。退却と思わせて『黒騎士』と戦うという作戦変更に「早く退却しようよ」とグチる
黒豹の爪:(下界名:クラウディア)
大砦の大剣女剣士で大隊長。統率力、個人戦闘力が高く軍略にも長けている。日焼け野獣系巨乳なので走って移動する時は目のやり場に困る。魔獣喰いたちを先に行かせる為に壁役となっている。黒騎士の所までは届かない。
鬼軍曹:大村の城の戦斧筋肉戦士団長。大戦斧と盾を使い獅子奮迅の活躍。魔獣喰いたちを先に行かせる為に壁役となっている。黒騎士の所までは届かない。
魔獣喰い小隊の副官:三人いるが全員が経験豊かで有能。よく職場放棄する小隊長の代わりに隊を指揮する。地味に有能。指揮官の作戦変更には後でグチる
獅子姫:(下界名:シシリーナ、『孔雀騎士』)
結構前からベール王都に残り剣匠のジイイさんから武術を習っていた。色々活躍した結果、何時の間にベール王国軍でも指揮官として腕を振るう。今回も荒くれ者を集めた兵団(通称:獅子姫隊)を指揮し皇国軍を恐怖のどん底に陥れている。
護衛のオジサン(下界名:不明)
幼い頃から獅子姫の護衛をしていた腕利き戦士。姫と一緒に修業をしつつ他国の情報収集などもこなしていた。戦時は姫の背中を守る。
【グラニス軍】
青年騎士レオンハルト副伯爵:たくましく大きくなった成長率No1の騎士。元々イケメンだったので左ホオに傷跡が残っても絵になる。下界と森のハーフ。自信家。皇国軍相手に奮戦中。
女騎士スザンナ:レオンハルトの護衛騎士で今はグラニス軍の近衛騎士を率いる。剣の腕間の他に統率力や内政力などの各種能力が成長。プライベートは真面目なドジっ子。金髪碧眼で着やせタイプで周囲から人気が高い。剣と盾を上手く使い、受け流しからのカウンターを得意とする。夜の方は不明。皇国軍相手に奮戦中。
ベテラン騎士:昔からグラニス家に仕える騎士。耐える守備力に定評がある。十代半ばの可愛い娘がいる。傭兵隊と共になんとか前線で踏ん張った影の功労者。傭兵隊長と共にグラニス領に残ってとある任務を遂行中
傭兵隊長:グラニス軍のお抱え傭兵隊を率いる。才能よりも経験値が物を言う歴戦の戦士。大陸中の噂話に通じる。ベテラン騎士と共にグラニス領に残ってとある任務を遂行中
序盤の砦の守備隊長
あの戦いから無事に逃げ切り第五軍を率いていた。しかし、謎の黒騎士の突撃を止められずにまたもや撤退。獅子姫軍団と合流し編入された。
柵の中にいた指揮官
部下を指揮し何とか退却の途中。集団戦闘を信じる
【イスラマ神聖皇国 第三軍】
第二法皇子マリオ:(殲滅皇子)(好色皇子)
神聖皇国の皇子で小さい頃から変わり者の奇人皇子。父親にも煙たがれていた。成人してから西部の辺境前線に飛ばされて連戦連勝。女の子好き。研究軍師セリーナお兄ちゃん。現代からの転生者。軍略マニアで化学も得意な天才である意味もう主人公。弱兵の皇国兵を現世の歴史から引用し長槍隊や石弓隊、工作兵を抱える。七色煙幕や火炎矢は彼の特性兵器。策を巡らせ撤退して北へ向かった。シスコン。父親殺しを画策する。時期教皇候補。偽装でゆっくりベール王国軍に進軍している。
女官騎士エマ:マリオ殿下の幼い頃からの教育係りの女騎士。能力に弱点がない騎士で体型も無駄がないスレンダー型。通称『秘書騎士』。マリオが転生者だという事には気付いていない。冷静な女性だが実は熱いハートの持ち主らしい。剣の腕もかなり
聖女エレナ様:身長はそんなに大きくない童顔の少女。天の声を聞き勇気を出し前線に出る仮初めの聖女。顔は小動物系。実は戦闘で変身してしまう。ここ数年は正規流派の剣も学び意外と頭はいい。大剣モードから2刀流モードに別れる特殊剣を使用する。魔獣喰いの洗脳波を浴びてしまうが仲間であるマリオの元にとりあえずは戻る。今回はマリオと共に一緒にはいない。
『黒影衆』:マリオ法皇子お抱えの諜報活動衆。孤児を集め訓練していた。敵のかく乱や情報収集などが得意で戦闘能力も高いい(忍者)。皇都にも残して来ていた。
皇都に残してきたマリオ側近:信用のおけるかなりの人物。直観力に優れる
エリオス兄様とシリアナ姉様:マリオの兄と妹。生贄にされて亡くなっていた
謎の黒騎士 その1.
大盾と大戟で武装した重騎士。矢が一杯刺さっても死なない。普通の者は近くにいるだけ恐怖を感じる。確かに出撃したはずだが・・・
謎の黒騎士 その2.(岩の盾?)
本陣のいた二人目の黒騎士。その動きや雰囲気で森の戦士『岩の盾』のオジサンだと看破される。意識はあるようだが言葉は『敵』の《 》口調。
教皇
マリオとセリーナの父親でイスラマ神聖皇国の最高権力者。何者かに操られている可能性大。行方不明。




