81羽:美味そうに飯を食うヤツに悪い奴はいない
いつもと同じにぎやか喧騒の中、その酒場の客席は普段より混んでいた
天気がよく暑い一日だったので、汗をかいた分みな飲みたくなったのだろう
酒場の奥にある大きな厨房では、ひっきりなしに入る注文に料理人たちは威勢よく掛け声をあげながら次々と調理をこなしている
魚と野菜のオイル漬け、豆と肉の煮込み料理、根野菜のサラダ、細麺の盛り合わせなど、よくもこんなに手際よく作れるもだと感心する
しかも安くて美味い
それを給仕する女将さんも、沢山いる給仕の女の子に指示を出しながら、混雑した店内をまるで指揮者のようにコントロールし回している
注文がはいる度に名物である麦酒や蒲萄酒をテーブルやカウンターまで運び、お尻を触ろうと常連の客相手に冗談をかまし盛り上げている
その様子にまた店内がドッと盛り上がる
オレはその店内の様子を、酒の肴にして見ながら気持ちよく飲んでいた
「若、そんなに飲まれては体に毒ですぞ」
丸テーブルの右側にいた少し大柄の男が、オレの空いたジョッキの数を見ながら注意してくる
オレはその言葉を聞いていない振りをして、近くにいた馴染の給仕の女の子にお替わりを注文する
「まあ、そう言うなよ。帝都の市民のこんな嬉しそうな顔を見たら、飲まずにはいられないというものだ」
お替わりの麦酒が手元に届き、オレはそれを飲みながらテーブルにある香辛料効いたいい匂いがする肉詰めを頬張る
「しかしですな、酒を飲み過ぎると、このようにダメな大人になってしまいますぞ」
その大柄の護衛の男は、オレの左側でテーブルにうつ伏せになり酒に潰れている者を指さし語る
(相変わらず師匠は酒に弱すぎるな・・・たった二杯しか飲んでいないのにもう酔っぱらって寝ている)
オレは自分の師匠に誘われてこの酒場に来たが、誘っておいていつもオレより先に寝てしまう師匠にため息をつく
(それでも、酒場での美味い酒を飲んで、熱々の料理を食べることが出来るのもこの師匠のお蔭だしな)
そんな事を思いつつ、オレは再び酒を飲み酒場の雰囲気を楽しむ
(ん?向こうの方がなんか盛り上がっているな)
大きな酒場のホールの奥の客席の方が、いつもに増して盛り上がっていた
オレは口うるさい護衛のから、離れ厠に行くついでにそちらを覗きに行く
・・・・そのテーブルの上は、今までこの酒場で見た事がないような光景が広がっていた
料理人たちが手際よく作る料理を次々と空にして、更にお替わりをして空皿が積み重ねられている
その量はまさに天空にそびえる塔のようだ
しかもそれを食べているのは『たったの四人』だ
(まるで宮廷で行われる大人数の宴会の量だ)
その四人の中で、特に旅の巡礼者風の女の子と、旅人風の影の薄い男の食べる速度と量が半端ではない
給仕係に持って行った瞬間に、料理がその胃袋に消えると言っても過言ではないだろう
その二人と同席している傭兵風の見事な巨漢の男や、もう一人のお嬢様風の女の子もよく食べてはいるが、その二人が異常すぎて普通に見える
(酒も気持ちいいくらい、よく飲んでいる)
酒はこれまた影の薄い男と、お嬢様風の女の子がまるで水を飲むように酒を空けている
麦酒の空きジョッキや蒲萄酒の空きビンが、そのテーブルから溢れ床下までに置かれている
女将を始めとする給仕の女の子たちは、見事な連携を組みながらもそのテーブルの給仕をこなしている
この酒場では注文時に料金を支払うのだが、料金も気前よく払っているようで上客の登場に女将の顔もにこやかだ
テーブルの上には大銀貨も見える
「おお、もう少しで全メニュー制覇だぞ・・・」
そのテーブルの近くにいた常連の口からそんな驚きの声が漏れていた
(おいおい、全メニューって、この店に一体何十種類のメニューがあると思っているんだ・・・)
しかし、その言葉と通りに4人組は、見事この酒場にある料理を完食してしまった
その瞬間店内の客たちから歓声があがり称えられるその四人組
その見ていても気持ちがいい位の食べっぷりに店内も盛り上がり、各テーブルでは次つぎと自分達の料理を追加していた
(ハッハッハ、本当に全種類制覇しちゃったよ。それにしても見ない顔の連中だけど旅人かな?)
全種類をして満足したのか、その4人組は最後の会計を済ませコソコソと酒場を出て行った
オレは自分の席に戻り気持ちいい連中に満足した
ふと店内の出口付近を見る
この辺でも危険なゴロツキと噂の男たちが、さっきの大食い四人組について行くように出て行く
その口元には極上の獲物を見つけた獣のように、薄汚い笑みを浮かべていた
(マズイなあいつらは・・・・)
オレはそう思い、床に置いていた愛用の短槍を握りしめ会計を済ませる
「ドルトン、お前は師匠を連れて帰ってくれ。オレは用事を思い出したから先に帰る」
ドルトンと呼ばれた大男の静止の声も聞かずに、オレも店を飛び出し後を追う
(くそっ、どっちに行ったんだ?)
小さい頃から慣れ親しんだ、迷路のような裏路地をオレは進んで行った
☆
精霊神官ちゃんと病院へ行く用事を済ませたオレは、用意されていた帝都の屋敷にこっそり戻って来た
いつもは無表情な神官ちゃんだが、今日ばかりか終始笑顔だ
(あの病室にいた寝たきりの男性とは知り合いだったのだろうか・・・・)
何か精霊術をかけていたような雰囲気だったけど
いや、そもそもこの帝都に来るのは、オレを含めて大森林の民は始めてだから、神官ちゃんに知り合いがいるはずはない
一体ダレだったんだろう
(でも、神官ちゃんの今日の笑顔を見ていたら、そんな小さな事もどうでもいいかな・・・・)
そんな訳で屋敷に戻り、大人しく過ごす
皇帝に面会する予定日まであと数日
連日、帝国側と事前交渉を重ね、毎日疲れて帰ってくるマデレーン王女に呼び出された
「聞いた話では、私が忙しく頑張っている時に、帝都に出かけて遊んでいるらしいじゃない。今日は私も連れて行きなさい!」
と大分ストレスが溜まっていたのか、イライラながらに命令してきた
(王女が街に出かけて大丈夫かな・・・でも、この街では誰も顔を知らないはずだから大丈夫かな)
そう判断して、また例によって変装して夕方の帝都に繰り出す
今回のメンバーはマデレーン王女、精霊神官ちゃん、そしてコッソリ出かけるが見つかり「面白いことが起きそうだから」という事でついて来た戦士『岩の矛』と、オレの四人で行くことになった
街に繰り出し、下界の商店街の買い物や広場の大道芸などを各々楽しむ
マデレーン王女や神官ちゃんは装飾品や民芸品を買い、岩の矛の奴は武器屋で洗練された業物を購入していた
帝国の硬貨は今回も、オレの秘蔵の魔獣宝石を売り払い軍資金にしていたので豊富にある
買い物や観光で腹が減り、今日の夕飯は露店のオヤジから聞いた店に行くことにした
なんでも店は古いが料理がこの下町で一番美味いと大評判の酒場兼食堂だ
そこは確かにお世辞にも、変装した王女様が行くようなキレイな酒場ではなかったが、冒険と庶民の生活に憧れるマデレーン王女は嬉しそうにその店に先に入って行く
満席に近い状態だったが、何とか四人用のテーブルが空いていたので、そこで飲み喰いする事にする
店内は人口密度が高く活気がある
皆で飲み物を注文し、乾杯して料理をほお張る
(う、美味い!)
露店のオヤジを信用していなかった訳ではないが、この価格でこの味は信じられない完成度だ
(これならこんなに繁盛しているのも頷ける)
オレは食べながらも、次々と追加注文して食べ続ける
目の前にはオレと同じように、ひたすら食べる巡礼者の変装している精霊神官ちゃんがいる
(酒は飲まないけど相変わらず神官ちゃんはよく食べるな・・・よし、オレも負けてられないぞ)
オレは麦酒を水代わりに皿ごと料理を口に入れる
横を見ると町娘の変装していたマデレーン王女が、葡萄酒のビンを一人で更に空けていた
(マデレーンちゃんはそんなに食べないけど、とにかく飲むな・・・・ああ、また1本空いていくし・・・)
酒の味がよく分からないオレだが、マデレーン王女はとにかく美味しそうに酒を飲む
「噂には聞いていたけど、流石にヴェルネア帝国の赤葡萄酒は美味いわね」
(この若さで他国の酒の噂話を聞いているんだ・・・)
もしかしたら、先祖に伝説の酒豪がいるのかもしれない・・・・今度聞いてみよう
そんなよく食べてよく飲むオレたち三人を、呆れた顔で見ながらマイペースに食べているのは巨漢の戦士で傭兵に変装している『岩の矛』だ
「『魔獣喰い』よ・・・お前は昔からだけど本当によく食うな。それに水のように酒も飲んで・・・・少しは姫さんを見習って有難く飲んだらどうだ」
呆れてものも言えないのか、そう言って後は黙々と静かに食べている
・・・・いつの間にか全種類制覇したようだ
何とも言えない満足感と達成感に満たされる
食べ終わると周りのお客さんや従業から、拍手と歓声がオレたちに飛んで来る
いつの間にかオレ達は店内の注目浴びて食べていたようだ
変装をしてのお忍び食事だったのに注目を浴びてしまった
(ハッハッハ・・・こんなに注目を浴びちゃって。こりゃマズイな・・・・早く退散しないとな)
そう思ったオレは最後の会計を済ませ、逃げるように店を出て行く
☆
酒場を出て近道の裏路地を使い帰ろうとしてオレ達だが、気付くと前後を何者かに挟まれていた
(近くまで来るまで気付かなかった。やっぱり人の多い街中だと勘が狂うのかな・・・)
その男達の手には汚い剣が握られていて、薄気味悪い笑い声でオレ達に近づいてくる
「へっへっへ、悪いがその財布に入っている有り金と、女を置いて行きな!そうしたら命までは取らねえよ!」
多勢に無勢の余裕なのかその男達はどんどん近づいて来る
(うわー隙だらけで間合いに入ってくるし)
巨漢傭兵風な大男が一人、影の薄い旅人風のオレ、巡礼者風な神官ちゃんと町娘風なマデレーン王女の組み合わせを見て、ちょうどいいカモだと思ったのだろう
明らかにオレ達の事を舐めている雰囲気を
危険が迫っているのに、『岩の矛』の奴は明らかに嬉しそうな顔をしている
(こいつらも可愛そうに・・・見た感じの強さだと岩の矛一人にでも瞬殺されそうな典型的な追い剥ぎか・・・)
オレは一応腰に隠しておいた短剣を確かめながら、獲物を見間違えた相手に同情する
(神官ちゃんも護身術なら結構出来るし、前に見たマデレーン王女の剣の稽古の腕ならこの程度のゴロツキなら問題はないだろうな)
そうでなかれば今回も変装して外出はしていない
それでもこの二人の女の子には危ない目には合わせられない
オレは二人を庇うように前に進む
「へっへっへ。なんだやる気かよ。それでもこっちは構わないぜ。おい、お前ら、女は大事な商品だ、傷はつけるなよ。男の方は殺せ!」
そう、下品な笑みを浮かべていた男は部下に指示を出す
その指示に従い、獲物に掛かって来る男たち
「うぎゃ!」
オレの後ろでは早速一人目のごろつきが岩の矛の奴に斬られていた
オレはその男の剣を拾い、反対側から来るゴロツキたちを相手する
「女の子たちはオレの後ろで待機を!」
オレは神官ちゃんとマデレーン王女に指示を出し前方に集中する
目の前からは雑な大振りの剣が襲ってくる
オレはそれを余裕でかわし反撃で相手を倒す
そして、更に襲い掛かってきた相手の剣を受け流し、急所を切り裂く
(うわー。使い慣れない安物のこの剣に、狭い路地だと戦いづらいな・・・しかも相手も数が結構いて面倒だな)
まさか帝都の下町で、こんなゴロツキ共に襲われると思わなかったオレは、得意の弓矢や手斧を置いてきたのを後悔しながら相手を倒していく
・・・・その時だった
「待て、お前たち!この帝都で狼藉は許さないぞ!」
そう言いながらオレの囲まれている方から一人の青年が現れ、そのゴロツキ共に向かって行く
その手にはよく使い込まれた短槍が握られている
(恰好からして旅人か冒険者風だけど・・・・あっ!)
その短槍を持ち助けに来た青年は、向ってきたゴロツキ共を一瞬で数人串刺しにする
更に襲い掛かって来てゴロツキもの斬撃も、その槍の不思議な技で防ぎ切り、反撃で刺し殺している
「くそっ、やべえな。おい退くぞ!」
リーダーらしい男は仲間達に声をかけ脱兎のごとく逃げて行く
「ふう・・・」
オレは周囲を警戒しながら一息つく
後には残されたのは、ゴロツキたちの死体とオレたち四人、そしてその短槍使い
「警備の兵士が来ると色々と面倒です。こちらに来てください!」
その槍使いを信用した訳ではないが、この帝都の裏路地にうといオレたちはその男の後を着いて行くことにした
オレの不幸体質が原因なのか、それともこの世界が事件だらけなのか・・・
・・・・こうして帝都でもオレは事件に巻き込まれていくのである
いつもご愛読ありがとうございます。
以下の新作もスタートしました。
マタギとはまた一味違った感じ書いております。
どうぞよろしくお願い致します。
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特攻のコウタ! 【はったりヤンキー異世界へ行く】
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