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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 魔の森】の章

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108/204

80羽:精霊神官と恋愛話

(ついにここまで来たわ)



ワタシはヴェルネア帝国の中央診療所の前に立ちその荘厳な建物を眺める



この中にあの方がいる・・・



そう考えただけで緊張し手が汗ばむ



会えるかどうか分からない・・・



会えたとしても計画通りにいくのか・・・



そんな不安もある



でもこの日の為に数年間努力してきたのだから大丈夫!と自分に気合を入れる



そんなワタシは魔獣喰い君を後に従え、診療所の中に入って行く



☆



ワタシの名前は精霊神官『清い水』



今は下界にいて身分を偽っているから女官レティーナかしら



下界人として変装してベール王国マデレーン王女の女官として付き添い、ここヴェルネア帝国の帝都まで来たの



名目上はワタシが精霊契約をした勇者『魔獣喰い』君に付き添いという事だけども、本当はワタシにはもっと大事な目的がある



カバンの中にある大切な2冊の本をもう一度見つめる



その大事な用事というのは、この人気恋愛小説『ロミオンとジュリエッタ』の作者様に会う事だった



この恋愛小説『ロミオンとジュリエッタ』に出会ったのはワタシがまだ小さい頃だ



大村の神官の館を訪れて来たオジ様から、ワタシが下界のお土産として貰った一巻がその出会いの始まりだった



下界の住人のよって書かれたこの小説は、立場の違いがある二人の男女のはかなくも辛く熱い恋物語。周囲の状況や偶然などの「運命」と呼ぶべきものが、両者や周囲を悲劇的結末へと導いていく物語である



その貰った一巻をワタシは忙しい神官修業の時間を見つけては、何百回も読み込んだ



下界の貴族や町の人の暮らし、恋愛や友情、親子愛の複雑に絡み合った人間関係



その全てが魅力的でもあり憧れの世界だ



(この続きはどうなるのかしら?)



最初の一巻しか持っていなかった為に、そう思いながら日々過ごしていた



二巻以降の続きの展開が気になってしょうがない



でも、この下界の本は大森林にいる限りはもう手に入らない、と諦めていた



・・・・そんなある時



何とか獅子姫様や魔獣喰い君たちと下界に出る機会が来た



下界から大森林に迷い込んで来た騎士達を送り返してあげる為だった



結局、彼らを送り返した時にグラニス伯爵領お家騒動に巻き込まれて、ドタバタしていたけど、森に帰る直前の自由時間でワタシはついに発見した



『ロミオンとジュリエッタ 第二巻』



グラニス伯爵家女騎士スザンナに案内してもらった、街の大きな本屋でそれを見つけた



丁度ベール王国硬貨も各自に支給されていたので、ワタシは迷わずその本を買った



それ以外にも色々と下界のお土産も買ったけれど、ワタシにとって何といってもその本が一番の宝物だ



森に帰り時間を見つけ早速読み干す



・・・・二巻も怒涛の息もつかせぬ展開



運命に翻弄される主人公の男女の二人



・・・そして、その結末は第三巻に続いている



(はあ、早く三巻も出ないかしら・・・出たらまた魔獣喰い君に下界に連れて行ってもうらおうかな)



ワタシの最新巻が読みたくてウキウキする



しかし、巻末のコメントに気付き驚愕した



『読者の皆様へ『ロミオンとジュリエッタ』の作者であるジェークス氏は、ただ今不治の病『夢雲病』に侵され闘病中でございます。第三巻以降の発刊は未定となっています。氏の回復を心よりお祈り申し上げます   編集部』



・・・・




そのコメントを見たワタシは絶句した



作者が不治の病にかかり意識が戻らないという



つまり、第三巻以降の発刊は絶望的なのだ



(でも、病が治るのなら可能性はある)



ワタシは師である精霊大神官様に、何気なくその病の事を訪ねてみた



『夢雲病』は何でも、魂が肉体を離れ夢の精霊世界に留まり、戻って来られなくなる病だという



この大森林では精霊がいたずらで魂を連れ去る病、とも言われている



治療方法は難しく、大森林にある『精霊の森』で厳しい修業を終えた神官のみが治せるという



暫くしてワタシは迷わずに志願した



「精霊の森に行き修業します」



・・・・修業は2年かかった



そこでの修業は辛く厳しいものだったけど、ワタシは耐え抜き終える事ができた



他の先輩神官たちは途中で挫折し断念していたけど、ワタシは最後まで諦めなかった



(必ず不治の病を治せるようになる!)



そういえば、ワタシはその修業で秘術も会得した



森と大地と空の精霊と交信する事によって、離れた場所を感じる力だ



これは森の中はもちろん、遠く離れた下界も感じる事ができる



結界や魔素が強い場所は無理だが、その特定の人や物を想う事により、その場所を探し出し特定することも出来る



精霊神官の長い歴史の中でも、数人しか会得出来なかった術だという



病気療養中の作者を探すために、その術の存在を知ったワタシは習得に挑戦し得た



修業を終えて大村に戻りまた日々の生活に戻る



時間を見つけこっそりその秘術を発動させる



(ワタシ想った)



『ロミオンとジュリエッタ』の作者であるジェークス氏の事を



大森林の精霊が大陸中の木々や植物に問かけ、水の精霊が縦横無尽流れる水から水へ人々の生活を覗く



空の精霊が空気から空気へと伝わり音を集める



・・・・そしてついに見つけた



下界にあるヴェルネアという国の王都の病院に、作者ジェークス氏は眠ったまま入院している事を



作者を見つけたものの、今度はそのヴェルネアという国に行かなくてはならない



(ワタシ一人では下界に行き遠く離れたその国に行くのは不可能だ・・・)



そんな時ワタシの頭に浮かんだのは、下界に憧れいろんな事件や冒険の中心にいつもいる『魔獣喰い』君の事だった



(彼ならきっとヴェルネア国にいつか行くかもしれない)



低い可能性だけれども、ワタシはワラをも掴む想いで大神官様に志願した



『魔獣喰い様の精霊契約神官になる』



これは自分の一生を決める大事なことだった



でも迷いはない



何故なら彼が初めてこの大村にオジ様に連れられて来た時に、彼の道を『見た』精霊神官はワタシだったのだから



(今思うと運命だったのかもしれな・・・)



普段はちょっとエッチで頼りない男の子だったけども、いざという時はりりしくたくましい



100年に一人の逸材の精霊神官と小さい頃から言われていたワタシ・・・



誰からも特別視されていたワタシに対しても、ちゃんと普通の女の子として接してくれる数少ない人で、彼と一緒にいる居心地はすごくいい



そう言えば食いしん坊な所は、ワタシたちお互い似ているかもね



ワタシの好きな恋愛小説に出て来る白馬の王子様とは少し違うけれど、もしかしたら大人になったらもっと素敵になるかもしれない



あれ、これは前にも想ったかな



そして、『真の魔素』をめぐる戦いの前にワタシは彼と契約した



☆



偶然なのか運命なのか



ヴェルネア帝国の帝都に行く機会ができた



魔獣喰い君が知己であるベール王国のマデレーン王女に呼ばれて、その帝都まで護衛として行くのだという



下界に出る為に彼と精霊契約をしたワタシは勿論同伴することになる



・・・ワタシの心はこれまでにない位に高鳴る



憧れの『ロミオンとジュリエッタ』の作者であるジェークス氏に会う事ができるのだ



しかし、油断はできない



仮にジェークス氏に会う事ができても、彼を不治の病を治さなくてはいけないのだ



大神官様に相談し準備万端にしたワタシは旅に彼の旅についていく



☆



帝都までの道中は快適だった



マデレーン王女の馬車にワタシは女官として同乗させてもらった



馬車の中でマデレーン王女や大砦にいた女の子軍師『知恵の実』セリーナとの会話は本当に楽しい



年齢も近いのもあるがマデレーン王女はワタシと同じく、小さい頃から大国の姫としての教育を受け、更には普段は淑女として振舞うように教えられ生きてきたのだ



精霊神官として清く正しく生きていくように育てられたワタシも、そんな彼女に共感する部分が沢山あった



しかも、マデレーン王女も恋愛小説や冒険小説が大好きだという



将来、親である王様が決めた相手と結婚する事を、産まれた時から決められていた王女は、普通の恋愛や市民の暮らしに憧れていた



「お城には白馬の王子様が沢山いるのではないですか?」



とワタシが尋ねてみても



「あんなのはみんな堅物で、私の事を腫れ物か政略結婚の道具として見ていないのよ」



とすました顔で教えてくれた



でも、その馬車の道中で気付いたことがある



マデレーン王女はどうやら魔獣喰い君の事を好きなのかもしれない



王女は事あるごとに彼を呼びつけて用を言い渡したり、宿泊先で一緒にご飯を食べながら他愛のない話でも盛り上がっている



魔獣喰い君もあんな感じだから、大国の王女様が相手でも普通に接している



その言葉や態度は丁寧だけれども、ちゃんと女の子として扱っているのだ



大人や貴族の男性に囲まれて育ったマデレーン王女の目には、そんな普通の彼が気の置けない初めての同年代の異性だったのだろう



馬車の中では『魔獣喰い』君の森での生活の話を聞いて嬉しそうにしている



・・・・ワタシの気持ちは少し複雑だ



魔獣喰い君はワタシにとっての運命の勇者なのかもしれない



恋愛対象かどうかは自分でも分からないけど、友達であり仲間である事は確かだ



魔獣喰い君はあんな感じで、いつも可愛い女の子に目移りする



年頃のなのでその気持ちは分かるけど、彼もあと少しで自分の伴侶を選ばなくてはいけない時期がくる



(その時、彼は一体誰を選ぶのだろうか?)



マデレーン王女もそうだけど、獅子姫様ともいつも楽しそうにしていていた



主従関係というか兄弟みたいな不思議な仲の良さがある



あまり他人を寄せ付けないタイプの獅子姫様だけれども、魔獣喰い君にだけには本当に嬉しそうな笑顔を見せていた



しかも聞いた話では、獅子姫様は自分の愛剣を今は彼に預けているという



魔獣喰い君はいまいち分かってないようだけれども、大森林の戦士が未婚の異性に剣を預けるとう事は、その剣を返しに貰いに行くときに伴侶として結ばれるという意味もある



もしかしたら、獅子姫様の方が魔獣喰い君の事を男性として、伴侶候補として見ているのかもしれない



でも、鈍感な魔獣喰い君のそんな事にも気付かずに、まるで腫れ物のようにその剣をただ預かっていたみたいだけど



あと、聞いた話では獅子姫様の姉上である『白猫姫』様も怪しいところがある



面倒くさがりで有名な白猫姫様だけど、何故か魔獣喰い君の事は目にかけている



訓練所を卒業したての彼をいきなり小隊長に任命して、何かと重要な任務を任せているらしい



更に前回の真の魔素をめぐる戦いのすぐ後に、彼の事を凄く嬉しそうに褒めていた



「魔獣喰いがまさか魔素の魔徒を退けるとはな・・・・魔獣喰いと私の間には面白い子が出来そうだな」



と、ワタシの前で独り言を言っていたのをワタシは聞き逃していない



あとは、彼は大砦の女戦士隊長『黒豹の爪』さんと長期休暇に一緒に旅行して、彼女の両親に紹介されたという話も昨日セリーナに聞いた



そのセリーナも研究対象として魔獣喰い君の事褒めている



「子を宿して研究するなら魔獣喰いとの子なのだ」と口走っている



それ以外にもワタシの知らない所でまだ女性の影があるかもしれないが、あまり気にしない事にする



(何故なら彼はワタシのとって仕えるべき勇者)



そう思うしかなかった



☆



そして、話はも戻る



帝都の診療所に着いた



お見舞い様にワタシは病院前の露店で花束を買い、病室に向かう



病気になった直後は、沢山のファンや友達がここに見舞いに来ていたに違いない



しかし、数年経ち一向に目を覚まさないジェークス氏に、今は誰も見舞いは来てないようだ



毎日仕事の合間を見つけて看病している、ジェークス氏の奥様の嬉しそうな態度がそれを物語る



「ジェークス氏の作品のファンで見舞いに来ました。是非健康と回復を祈らせてください」



とワタシは奥様にお願いをして病室に入る



ベッドに横たわるジェークス氏は顔色もよく、寝息を立てて寝ている



まるでもう少しで、元気に目を覚ましそうな雰囲気だ



しかし、大神官様によるとこの難病はこのまま一生目を覚ますことなくやがて息絶える



ワタシはベッドに横たわるジェークス氏の手を握り祈る



奥様が魔獣喰い君と世間話をして間に、小声で精霊呪文を唱えてジェークス氏の意識を呼び戻す



☆



この病室で手を握っていたのは、多分ほんの一瞬だったのだろう



しかし、ワタシの意識は従属する精霊と共に、ジェークス氏の意識がある異世界に飛んでいた



長い時間をかけて説得し、夢の世界にいた彼を下界の肉体に戻した



ワタシも現実世界に戻り目を覚ます



(怪しまれてはいけない。何事もなかったように立ち去ろう)



ワタシはどう思い、魔獣喰い君と共に病室を挨拶して出て行く



今はすぐにではないけれど、あと数刻もしない内にジェークス氏はきっと目を覚ますだろう



ワタシと夢の世界で会った記憶はないはずだ



彼の深層心理は記憶しているはず



『ロミオンとジュリエッタの最新刊を書かないと!』



ワタシの想いがそうであったように彼の深層心理もそう願っていた



何事もなかったように病院を出て、ワタシの気持ちはその目の前に広がる青空の様に晴れ渡っていた



(これできっと『ロミオンとジュリエッタ三巻』が読める)



そう思うとワタシの中の達成感が満たされた



「ぐうう」



莫大な力を使う精霊術を使ったので、ワタシのお腹が鳴ってしまった



「そうだレティーナちゃん。午後のオヤツでも食べに行こうよ」



隣にいた魔獣喰い君がお腹の音に気付いたのか、また屋台の食事に誘ってくれた



(女心は全然分かっていないけど、こういうところは気が利いているのね)



ワタシは心の中こっそりそう思い、その誘いに乗り足を進める



(午後のオヤツを食べた後は、この帝都にある本屋でいろんな本も買ってみたい)



ワタシのお腹は限りなく空いていたけど、



心の中はこれまでにない位満たされていた







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