第十三話 「応酬のリボルバー」
「確か……塔にはあの階段を上れば行けたはずだ」
ローリーは一階、吹き抜け脇の少し大きめのドアを指さす。
普段は一般に開放され、物好きな観光客が街の眺めをフレームに収めるらしい。
僅かにドアを開けてその中を確認するが、アジフライはいなかった。
「よし、行くぞ」
そっと扉を閉めた三人は陰を縫うように塔に忍び込む。
「この上でアルバートがアジフライに指示を飛ばしているはずだ」
見上げると、吸い込んでしまいそうな螺旋階段がずっと上まで続いていた。そこそこの年季が感じられる。
一つひとつの石段を足音を立てないように上っていった。隠密の任務はブラインドホークには回ってこないが、基礎はできている。それはローリーも同じだったようだ。
神経を尖らせて歩いていたせいか、木製の扉が現れるまでが非常に長く感じられた。実際、数分はかかったことだろう。
テッドが一息ついたとき、下の方から物音が聞こえた。三人は身構える。
戸が開く音、引きずる音。三人が音を立てていないだけあり、よくよく状況が理解できる。
理解に並行して焦りも増え始めた。
――挟まれた。
下にいるのはアジフライだろう。音だけでもその数が多いものだと分かる。
三人はハンドサインを送りまくった。この状況を打破せねば、アルバートは殺せないし生きて帰れもしない。
いくら意見をぶつけてみても画期的なアイデアは生まれてこない。
しかもそれが、ハンドサインで繰り広げられている議論なわけだから、まさに『会議は踊る、されど進まず』の様相を呈している。
諦めた二人が、同時にテッドの顔を見た。
再び彼は二者択一の問いに迫られた。俯いて考え始めるも、アジフライにも迫られているため時間はない。
常識的に考えて10分先の生存率が高いアルバートの方を選んだ。
三人はそっと扉に近づく。中からは数回だけ足音が聞こえたが、アジフライ特有の引きずる音はない。
テッドは囁き声で、「いっせーのーで」の掛け声を出し、ドアにタックルをかました。
木製のドアが外れ、三人は埃を巻き上げ、なだれ込むように部屋に突撃する。
しかし、部屋の中の彼は微動だにせず、じっとウェブリーリボルバーを三人に向けていた。待ち構えていたかのように。
「――なッ!?」
――そんな馬鹿なッ!?
「三人もいれば当たるよなぁ。んっふっふぅ」
今度は躊躇わなかった。甲高い金属の銃声、閃光。
直撃したのはローリーの胸だった。
それを確認することなく、テッドは迷わずアルバートに殴りかかった。リボルバーを構える腕を払い除け、勢いで回し蹴りを脇腹に命中させる。
アルバートは簡単に倒れ、音を立ててリボルバーが床を転がった。
「ローリーさん!」
テッドはアフロ隊員の声で振り返る。彼は倒れゆくローリーを支えていた。
だらしなく口から血が漏れている。目がかっぴらいている。
情けなく、惨めに思えた。ローリーもアルバートも……テッド自身も。
背後からアルバートが話しかけた。
「ふっふぅん。テッド、もうアジフライは飛ばしたんだぜぇ?」
挑発するような口振り。これがアルバートの本性だったのか。
黙れ、テッドはそうとだけ小さく呟いた。アルバートの耳に聞こえたかも定かではない。
「早く俺を殺して逃げることだな。アジフライに食われちまうぜ?」
テッドは顔を向けることなく口を開く。
「貴様がアジフライを操っていたんじゃないのか?」
「んー? いつ俺がそんなことを言ったよ。仮にそうだとしたら、一尾くらいは隣に控えさせとくよな? え、違うか?」
テッドは瞼を閉じた。意識の外から隊長、と呼ぶ声がする。
深く息を吸い込み、大きく溜め息をついた。。
「…………リボルバー、俺のリボルバーはどこにやったよ」
「ははっ! ゴホッ、こ、ここさぁ……欲しいのか?」
アルバートはポケットからリボルバーを取り出した。テッドには布が擦れる音しか聞こえない。彼の声など……鼓膜にすら響かない。
アルバートはテッドに向かってリボルバーを投げた。
「ほらよっ! そいつで撃てよ! リチャードの銃でよォ!!」
ゆっくりと振り返ったテッドはそれを拾い上げ、アルバートの頭を狙った。
「この銃で撃ち殺されることは名誉なことだ。感謝しろ」
アルバートが笑みを浮かべて、テッドを見つめている。やってみろ、という顔だ。
――――気が変わった。クソが。
テッドは銃口を握りリボルバーを持ち替えた。両腕を振り上げ、出せる力の限りで振り下ろす。銃床がアルバートの頭を直撃し、その首が直角に曲がった。即死だった。
「クソが……師匠に面目立たねえぜ」
師匠の顔が脳裏に浮かんだ。あの人は友人を殺した俺を許してくれるだろうか。
「――――長! 隊長!!」
頭に上っていた血が一斉に引いた。一気に血が引くものだから、立ちくらみを起こしてしまう。
さっきからテッドを呼びまくるアフロ隊員の方を向いた。
テッドの目に映ったのはアフロ隊員、ローリー、そして数十尾のアジフライたちだった。
再び目眩に襲われたテッドは尻もちをつき、天井を仰いだ。
「疲れた……」




