表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖学少女探偵舎 ~Web Novel Edition~  作者: 永河 光
第二部・幾星霜、流る涯 Once Upon A Long Ago
69/272

第十二話 閻獄峡ノ急『黒墨の帳に』(前編・その34)



・証言 市川たまえ 



「ん? なんか他に知らんか、ゆわれてもねー。うちもよーわからんし」

「ですよねえ」


 歩きながら、何か他に気付いた点はないかと尋ねてみても、まあだいたい返答は予想通りだった。

 第一発見者は藍田さん。私たちが毘沙門塔を調べていたくらいの時刻に、粂さんにお食事を運んで、そこで返答が何もなかったことに不審に思い、奥まで入って死体を発見したらしい。

 それと、やっぱりお手伝いさんたちも、家の中には幾つか「立ち入り禁止」を命ぜられている場所があるとか。……う~ん。


「そういった点からも、以前のその、馳夫さんのお友達に気づけなかったのでしょうか。侵入不可とか迂回必須な場所があっては、目に入らない所も多かったと思いますし」

「さー。その頃はウチおらんかったし。どっちにしろ近づいてなかったかもねぇ。こちらのお坊ちゃん、なんかキモいし」

「お気持ちはわかりますけど、失礼ですよ」


 にこやかにそう相槌をうつ福子さんにも、ちょっとその。えーと。


「失礼、たまえさんは、方言からすると出身はO県ではなく、H県の方ですわよね?」

「あ、うんー。ようわかってじゃね。お嬢ちゃんら標準語じゃのに」


 部長のその言葉に嬉しそうに答えるたまえさん。ああ、確かにそこは私も少々気になっていた所。

 なまじ「近い」方言だけに、微妙なニュアンスの差はネイティブでないとわかり難い。


「カナエちゃんとうちはH市のほーなんよ、出身。こっちの方におってのお爺ちゃんの口利きで、紹介して貰ぉてねェ。ノゾミちゃんはたしか、F市のほーかねぇ、備後の」

「むしろ、ここよりもうちの学校に近いですわね。H市といえば……巴さんもでしょ?」

「あ、はい」

「わー、同郷なん?」


 なんで巴さんには方言がないのよ、と部長にはすかさず突っ込まれた。

 ともかく、お手伝いさん三人とも、余所から来た上に、勤続一年と経ってはいないらしいことが、市川さんの話からうかがえた。


「つまり……めぼしい話は殆ど得られそうにないってわけね。この家に関しても」

「過去の事件に関しても、まして村の歴史とか、そんな話もだろうね」


 小声で部長とカレンさんが、背後でぼそぼそと話す。とりわけ勤続半年、この三ヶ月ならまるっきり、粂さんの姿を目にしなかったという市川さんから、何かを聞けるわけもない。時折、週に一、二度ほど、防護服で背中を丸めて蜂箱の世話をする粂さんの後ろ姿は目にしていたという。


「話しかけはしませんでしたの?」

「……それが、こわーてよー話しかけられんかったんよ。粂さま、最初うちがこのお屋敷に来たときから、も~えっらい怒鳴られて、怒られて。ご老人なのにえらい勝ち気で、元気な人じゃしね、背格好もウチらと変わらんし、たぶん腕相撲とかやっても負けるよ、ウチ。ほいで、お前らの世話にはならんわ! ゆうて……わァもう、やれんよーねーって思おたら、綺羅さんが取りなしてくれて。粂さまは気難しいから、ゆうて」

「計画的ね!」


 ふむ、と部長はしたり顔で腕を組む。

 なるほど、ミイラ化して小さくなっていなければ、身体的にもそれなりに大柄なご老人だったのか。防護服ごしでも、背格好で入れ替わりに気づけなかったのだろうか……? と疑問に思っていたけど。お手伝いさんたちは皆さん160以上の背丈はある。むしろ、目測150前後の綺羅さんの方が小さい……。

 逆に考えれば、シークレットブーツのようなもので背丈を誤魔化していたなら、中に綺羅さんが入っていたとは思いもしなかった事に納得もいく。……って、いや、この場合他のどの女性陣でも犯人になり得るのだけど! 決めつけは良くない、うん! ……う~ん。


「あ、カナエちゃん! こっちこっち!」


 市川さんが手を振って、もう一人のお手伝いさんに近づく。





・証言 安原かなえ 



「……え、ああ。黒い皮ツナギの人ね? ん~とねー。どーゆーたらえーんかねー」


 もう一人のお手伝いさん……つまり、例の不審人物を目撃した、という人。


「昨晩じゃったかねぇ、なんか、お屋敷の周りをぐーるぐるぐーるぐる、バイクでゆっくり走っての人がおったんよね」

「バイク……ねぇ」


 杉峰楼じたいは結構なお客さんがいるし、車やバイクのお客さんが居てもおかしくはないけど、村まで来るのはどうなんだろう。

 それに、この事件と直接関係があるかどうかは、今の段階では判断つかない。


「だからそんな、必然性もナシに突如現れた『謎の怪人物・χ』の犯行なんて、絶対にあり得ないし駄目なのよ!」

「いや部長、そーゆーわけにもいきませんし」


 逆にいうと、その「不審人物の存在」のお陰で、警察沙汰……かどうかはまだ不明だけど、少なくとも事態が動く切っ掛けにもなったのかも。ただの偶然で通りがかった無関係者と考えるのも、まだ早急かも知れないし。


「どこから来た人なのか、ナンバープレートで確認はできませんでしたの?」

「いや、そこまで見とらんかったんよ」


 まあ、普通はそうですよねぇ。

 夜中で、黒い皮ツナギにヘルメットでは、確かに他には何もわからないと思うし。


 安原さんは勤続九ヶ月ほど。同じく、粂さんからはこっぴどくやりこめられて、母屋の方の常勤を主としていたらしい。

 市川さんと同じ程度に、「本人かどうか確認できないレベル」で、粂さんを秋以降も目撃している。


「本当に周到だわ!」


 いや部長、まだ計画的かどうかわかりませんって。それに……それを「周到に」するなら、まず確実に「犯行の協力者が粂さん」という前提まで必要になる。

 そうなると、ますます「自然死」の可能性も低くなってくるので、ちょっと困る。







※一応画像も用意していたのですが、ノベルゲームならともかく小説形式ですと、チョイ役とはいえあからさまなパロディキャラっぽい登場人物の似顔絵が出てくるとなんか「うわ、しょうもな!」な気分になるなぁ、と冷静になりましたので(笑)使用人に関しては後ほど、キャラ表みたいな物を出すときにまとめて貼ることにしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ