39.その日も暮れて
(そう考えると、ラファエルの才能は血筋なのかもしれないな)
彼の両親が優秀だったとしたら、元々が冒険者を輩出してきた家系だったのかもしれない。
しかし、それを花開かせるべくは努力次第。ラファエル自身の意志の強さが全てである。
「……ラファエル。キミの才能は私も羨むべきものだ。だが、決して驕るんじゃないぞ。私も私の持てる技術をキミに教えていく。共に、前に進んでいこう」
ルリアは語り掛けるように言った。
ところが返事は無く「どうしたものか」と振り向けば、彼はテーブルに伏せてスヤスヤと寝息を立てていた。
「……なんだ、寝てしまっていたのか」
疲労に加え、満腹になったことで、眠気に襲われたのだろう。
しかし、このような場所で寝ていては風邪をひいてしまう。
悪いと思いつつ、彼の背中を優しく叩く。
「ラファエル、ここで寝たら風邪をひくぞ」
「……あっ。ね、寝ちゃってた? 」
「すっかりな。寝るなら、きちんとベッドで休んだ方がいい」
「うん。じゃあ、ベッドに戻るね……」
立ち上がったラファエルは、ふらふらと寝室に戻ろうとする。
しかし、おぼつかない足取りで、床の何もない場所で足を滑らせ、転びそうになった。
「おっと、危ないぞ! 」
咄嗟にルリアはラファエルの体を支える。
その勢いでラファエルはルリアの正面に抱きつくような形になり、ぽふんっ、と大きい胸に顔を埋めた。
「おっと、大丈夫か」
「……ッ!!? 」
ルリアは自宅に戻ってから作業服の胸元を軽く開いていた。シャツ一枚のみで遮られた胸の谷間は文字通り"もち肌"のように柔らかく、一呼吸で彼女の甘い香りがいっぱいに拡がった。瞬間、眠気に満ちていた脳内と肉体が一気にドクドクと炎立つ。
(ちょっ……! )
ラファエルは慌てて彼女を突き放し、背を向け「おやすみ! 」と寝室に消えたのだった。
「……お、おやすみ? 」
一体、どうしたのだろうか。
見たこともないような慌てっぷりだと首を傾げる。
(どうにも様子が変だな。何かあったのだろうか)
心配になったルリアは、ラファエルの寝室に近づくと、ドアをコンコン、とノックした。
すると、中から「ひゃいっ!? 」と甲高い裏声の返事が聴こえた。
「どうした、大丈夫か。体調でも悪いのか? 」
「だだ、大丈夫! 何でもないから、もうボクは寝るよ! 」
「体調が悪いなら無理せずに言うんだぞ」
「本当に大丈夫だから。もう、寝るね! 」
「……そうか。それなら良いんだ。お休み」
「おやすみなさい! 」
声は元気そうだし、体調が悪いわけでは無さそうだ。
とりあえず大丈夫だと分かり、ルリアは安心してリビングのソファに腰を下ろした。
(ふう……。さすがに連日に渡って動いていた分、私も疲労がたまってきたな。少し横になって、時間を潰すか……・)
テーブルに置いてある小さなランプを点け、近くに並べていた勉学用の本を手に取ると、ソファに寝転び、それに目を通す。
タイトルと内容は"鉱山ダンジョン指南"について。
謎の洞窟は廃鉱であって欲しい、そんな期待を込め、鉱山ダンジョン攻略を目論んでいた。
(ふむ、廃鉱はやはり専門装備が必要になるのか。ヘルメット、ピッケル、作業用の安全靴、ロープ、厚手の衣服。ほう、ガスマスクに毒素判別用の反応液……とは。必要装備はかなり多いのだな。これは金が入用になりそうだ……)
揺れる淡い光の中。
本を読みふけるうち、その日は、ゆっくりと、終わっていったのだった。
(う、う~む。本を読むとつい集中し過ぎてしまう。これでは疲れも取れないというのに。ラファエルの事ばかり言えたものでは無いな……)
…………
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