40.何してんの!?
【 そして、明朝五時 】
寝室で眠りについていたルリアだったが、外から聴こえてくる"謎の雑音"に目が覚める。
「……んんっ」
朝日が零れるカーテンの隙間から、窓を越えて響く"ザッザッ"という不思議な音。
どうやら怪音は一定のリズムを刻み、庭先から聴こえているようだ。
(何の音だ。何かを掘り返しているような……)
体を起こし、大きく欠伸する。
跳ね上がった銀色の髪の毛を直しながら、窓際に近づき、カーテンを開いてみた。
すると、そこで見た光景に、ルリアは唖然とした。
何故なら、庭先には、額にタオルを巻いた泥まみれのラファエルが両手にクワを持ち、倉庫前の一帯を"耕して"いたからだ。
「ん……? 」
寝ぼけているのかと目を疑い、擦り、改めて確認してみる。
しかし、気のせいなどではなく、確かにラファエルは満面の笑みで地面をザッザッ、と掘り起こしていた。
「な、何をしているんだ……! 」
ルリアは窓の鍵を回し、押し開く。
ラファエル!
と、声を高々にして彼を呼んだ。
「……あっ、お姉さん。おはよう! 」
「おはよう……って、そうじゃないだろ。一体、キミは何をしているんだ」
「見ての通り、畑をつくろうかなって思って」
「畑……」
待て。
一体どうして、何が、何を言っているのか。
「は、畑を作っているとは、こんな朝早くから、キミ一人でか」
「うん。昨日ね、お母さんの話をしていたら、むかし庭先で野菜を作ってたのを思い出したんだ」
「そ、そういうことか。しかしだな、キミにはまだ休んでおけと……」
「昨日たくさん寝たから、筋肉痛も取れたし魔法も使えそう! 」
ラファエルは腕を振り回したり、人差し指の先端に炎をボッ、と具現化させた。どうやら、彼の言うことは本当らしい。
「……早いな」
これが若さ、というやつか。
自分も充分に若いと思っていたつもりなのだが、最もらしいフレッシュさを前にすると、太陽を見つめるように目が眩む。
「まあ……元気なのは良い事だ。それにしても、こんな朝早くから耕す必要はないだろう」
「普段からお姉さんにはお世話になってるし、迷惑かけずに畑を作りたかったんだ」
「むっ。私のためか。それは嬉しい言葉だな」
「そしたら喜んでくれるかなって。でも、バレちゃったね。静かにやってるつもりだったんだけどなあ」
ラファエルはクワを地面に突き刺すと、額から流れ出る汗をタオルで拭いた。
「いやいや、気持ちだけでも嬉しいぞ。ところで、どこまで耕すつもりだったんだ? 」
「一応、川の付近まで耕そうかなって」
「倉庫前から、川付近まで? 結構広いじゃないか。そんなに広い畑があったのか」
「うん。前に大雨で流されちゃってからやらなかったんだけど、季節ごとに色々な野菜をつくってたよ」
「……なるほど。もしかするとだが、あのアカノミの樹も」
「うん。昔、お母さんが植えたやつ」
道理で。自宅前に、不自然にも天然のアカノミが生る大樹があったわけだ。
「しかし、畑を作るといっても……簡単な話じゃないぞ。生きた土を作らねばならないのでは無いだろうか」
「えっ。普通に耕すだけじゃダメなの? 」
「あ~、むかし同じ騎士団に農家出身のネーブルというヤツが居てな。そいつに聞いた事がある」
まだ団員として現役だった二千年前、ネーブルと同じ食卓を囲んだ日の事だ。
最前線の臨時基地に、地元の農民から新鮮な野菜や果物が差し入れられ、それを見たネーブルの奴が口にした言葉を、今も鮮明に覚えている。
”「こいつは良い野菜だなあ! 生きた土を使わないと野菜は美味しく出来ねえんだぜ、覚えとけ。こんなにみずみずしくて輝いた野菜が最前線で拝めるなんて思ってもみなかったぞ。……なあ、絶対に、この土地を守らないといけねえぜ! 」”
―――と。
「……だから、その生きた土が必要になると思うぞ。しかし、それがどういうモノなのか私には分からん」
「ええっ! ここまでやって意味なかったのかなあ……」
落ち込んだラファエルが言う通り、既に倉庫前から広範囲を掘り返していた。
これが無駄になるのは、少々しのびない。




