15.何でもしますから
【 明朝、朝六時 】
「……すまん。本当にすまない。私は愚か者だった、ラファエル」
朝、ラファエルが起床したタイミングを見計らい、リビングの床で。
ルリアは、折れた鉄剣と、その隣で深々と土下座し、ラファエルを迎えた。
「お、お姉さん。頭を上げて、別にボクは何とも思ってないよ! 」
ラファエルは話を聞いたが、怒ることはなく、慌てて頭を上げるよう言う。
しかしルリアは頭を下げたまま動かずに真摯に謝罪した。
「いいや、許される事ではない。騎士として、他人から譲り受けた大事な魂の剣を折ってしまうなど在ってはならぬことだ! 」
「そんなに深く考えなくてもいいってば! それより、お化け蟹と戦ってお姉さんが無事だっていうだけで充分だよ! 」
「……優しいな、キミは。だが、それでも罰は受けねばならない。だから! 」
ルリアは顔を上げると、低い姿勢のままラファエルに近寄り、両肩を掴んで見上げ、懇願した。
「な、何か罰を与えてくれ。謝罪と誠意を込めて、何でもする。そうでなければ、気が済まぬのだ! 」
本気で反省しているのだろう、瞳は薄っすらと涙を浮かべて頬は赤い。
「お姉さん……って、ちょ、ちょっと!? 」
彼女はラファエルに詰め寄り、密着した。そのせいで、彼女の大きな胸の谷間が、自らの胸同士に触れ合い、彼女の香りと柔らかさを全身で感じ得た。
「お姉さん、近い……っ」
「ん、どうした? 」
「なんでもない! それより、別に良いってば、もう気にしないでよ! 」
「駄目だ、ケジメが必要だ。そうしなければ、私は私自身を許すことは出来ない! 」
「だ、だからって……。そんなに罰が欲しいの……? 」
チラリ、チラリと、迫りに迫り過ぎて触れ合った彼女の顔と胸を見る。
どうにも、そんなことを言われれば、幼いとはいえ思春期も近い男子の心には悪魔が囁く。
(……って、違う違う、ボクが考えているのは、そうじゃないってば! )
首をブンブンと左右に振り、自我を保つ。
そして、罰を求める彼女に、ある機転を思いつき、それを伝えた。
「分かった、分かったよ! じゃあ、罰を与えるから、一旦離れてよぉ! 」
「本当か。私は何でもするぞ、遠慮なく言ってくれ! 」
「う、うん。それじゃあ、一緒にカニパーティして。朝ごはん、カルキノスのバーベキューを準備して! 」
「……なに? 」
ルリアはキョトンとした。
「それだけで良いのか。もっと非道な罰でも甘んじて受けるつもりだったが」
「ボクってそんな悪魔に見えるの!? 」
「いや、そんな事はない。そうか、それで許されるなら、すぐにでも準備を始めさせて貰う! 」
「うんっ。それで充分だよ。だからもう罰を受けたいとか、土下座とかしないでね」
「そうだな、ありがとう。ラファエルは優しいな」
「……う、うん」
そっと目を逸らす。
危うく、彼女の魅力の前に、悪魔に飲まれかかったことは秘密にしておこう。
「では、早速準備に取り掛かろう。朝から豪華なバーベキューといこうか! 」
「おーっ! 」
………
…




