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14.お化け蟹カルキノス(下)


 その一言を皮切りに、ルリアはこちらから仕掛け出る。

 剣を構えたまま、水辺をかき分け、カルキノスに一直線に走り出した。


「いくぞ、カルキノス! 」


 獣との戦いは、いかに相手に自分が強く()せるかが鍵となるからだ。

 こちらが弱みを見せれば相手は調子づき、逆に強気で攻めれば相手は(おのの)き隙を晒す。


「ってぁぁああッッ!!! 」


 気合の怒号は、声という音の打撃。

 獣に対して声による攻撃は意外にも有用で、目論み通りカルキノスもそれに驚き、一瞬ばかり怯んだ。

 その隙を逃さず、ルリアの鉄剣での一振りが唸る。


「その脚を、置いていけッ!! 」


 狙いは、カニ脚の付け根、関節部分。

 甲羅部分は非常に硬く、鉄剣で切り裂くことは難しい。

 故に、関節を切断し、徐々に動きを止めていくのがカルキノスを討伐する常套手段(くじょうとうしゅだん)であった。


 ―――……だが、しかし。


「うぬっ!? 」


 ギィンッ!!

 鈍い音が響き渡る。

 狙い通りの斬撃だったにも関わらず、付け根に放った斬撃は弾かれてしまったのだ。


(か、硬い!? カルキノスの脚の付け根は、錆びた銅剣でも切り落とせる程度だったハズだぞ! )


 しかも、最悪な出来事がもう一つ。

 ルリアが切り込んだ範囲は、カルキノスの攻撃範囲(ゾーン)であった。

 カルキノスは問答無用で、右のハサミでルリアに切り掛かる。


「くあっ、不味いッ! 」


 咄嗟(とっさ)に身を屈め、寸でのところで攻撃を回避するが、続いて左のハサミが襲い掛かった。


「ぐっ、な……は、早い!? 」


 左のハサミは上段に飛び(かわ)す。

 だが、そこに追撃する右ハサミ。それを回避しても左のハサミが襲う。

 止まない連撃に、ルリアは慌てて後方に大きく飛翔し、距離を置く。


(な、なんだというのだ、カルキノスの奴め。 あれほどに付け根が硬いことも、動きも早いはずが無い。何かがおかしい。よもや、強靭な肉体を持つ亜種なのか? 少なくとも二千年前のカルキノスは、あれほどまでに強くは…………んっ、待て。ということは、まさか)


 その、まさかである。

 洞察力の高いルリアは、あることに気づく。


(そうか。私が知っているのは、あくまでも二千年前のカルキノスだ。ヤツは長い時間を経て進化し、弱点を克服したんだ。道理で、なるほど……)


 ……パラリ。

 身に着けていたタオルが中心から切り裂かれ地面に落ちる。ルリアの肉体(ボディ)が再び月夜に(さら)された。

 

「完全に避けていたと思ったが、タオル一枚切られていたか。ハサミの切れ味も想定以上に抜群だな」


 自分の知る攻略法が全く持って通じないというのは、戦闘における最悪の状況だろう。

 しかし、ルリアはそれでも余裕であった。


「ふむ。たかがカニ一匹、私が翻弄(ほんろう)されるには相応しくない」


 両手で握っていた鉄剣を、右手だけで浅く持ち替える。

 そして、柄の部分を肩に乗せてトントンと叩きながら相手を(さげす)むように(にら)んだ。


「少しばかり、本気で相手しよう」


 小さく呟いた。


「もう一度だ、バケモノガニ」


 クイクイ、と手のひらを仰向けに動かす。

 すると、カルキノスはルリアに挑発されていると認識し、脚をガサガサと動かして、一気に距離を詰め寄った。


(ほう、やはり二千年前の種と比べて動きは早い、が……)


 カルキノスは、右ハサミを大振りし、文字通り命を刈り取らんと斬り掛った。


「―――しかし、私にとっては! 」


 ルリアは、それよりも早く。

 肩に乗せていた鉄剣を、右上から左下への目にも止まらぬ一閃の斬撃を繰り出した。

 爆発するような水しぶきと爆音の風を作り出し、カルキノスの肉体を中心から斬り付ける。

 硬い甲羅に傷を浴びせ、有り余る威力に、カルキノスの肉体は大きく仰け反った。


(ぬっ、まだ浅いのか。どれだけ硬いというのだお前は。しかし、仰け反った好機を(のが)すわけにはいかん! )


 カルキノスが仰け反る隙に、ルリアは脚力を込めて高々と飛翔した。

 そして、最頂点に達すると、すぐさま前宙し、鉄剣を両手で握り締め、腕力と降下を合わせた強力な一撃を繰り出した。


「はぁぁぁあああッ!! 」


 今度の斬撃は、甲羅に弾かれること無く、カルキノスの頭部から股下へと真っ二つに斬り抜く。

 カルキノスは口元からブクブクと泡を吹かし、そのまま半身になって崩れ落ちたのだった。


「まあ、こんなもんか」


 フフン、と鼻を鳴らして倒れたカルキノスを見下ろすルリア。


(さてと、倒したのは良いものの、コイツをどうするべきか。私の時代ならカルキノスはご馳走だったし、硬い甲羅は武器防具なんかの素材になった。現代(いま)もそれは変わらないのだろうか? )


 倒れたカルキノスをどうするべきかと考え込む。

 だが、そのタイミングで。

 ルリアにとって、ある不幸が訪れた。


「ん、なんだ……この音は」


 ピキピキ、パキッ。

 何かが砕けるような金属音。

 音を追うと、それは握り締めていた鉄剣から聴こえている事に気づく。  


「なんだ、この剣から金属音が鳴って……」


 鉄剣を持ち上げ、刃の部分に顔を近づけた時。

 バキンッ!

 と、軽快な音と共に、あろうことか、鉄剣は真ん中からポッキリと折れてしまった。


「あ……っ! な、なにいぃ~~っ!!? 」


 どうやら、カルキノスの硬い甲羅を斬るには、鉄剣では限界突破(キャパシティオーバー)だったらしい。

 それでもなんとか切断出来たのは、ルリアの技術があってこそで。


「ま、不味い。これはひじょ~に不味いぞ……」


 カルキノスを討伐したという嬉しさが一変。

 大事な鉄剣を折ってしまったという罪悪感に胸がいっぱいになってしまったのだった。


「カルキノスも、鉄剣も、どう……しよう……」


 ………

 …


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