第十三話 山猫
本日2話目です。
若干雑かもしれませんので、あとで修正する可能性大です。
第十三話です。
よろしくお願いします。
森の中を進む2人の男たち。木々の間から太陽の光が差し込んでくる。鳥の鳴き声も耳に入ってくるとてもいい気候だ。
そんな中彼らは細心の注意を払いながら道なき道を進んでいる。
ざわつくような感覚のおかげで『獣』がいるであろう大体の方角は分かるが、その距離や姿形はまったくわからないのだ。
特に会話をするでもなくただひたすらに歩き続ける2人。元々無口なラーイルはともかく、客観的に見て口数が多い方と言えるルインすら無言でどんな異変も見落とさないよう動いている。
「ルイン、見てくれ」
2時間ほど歩いた先で、ラーイルがあるものを見付け、屈みながらルインに声を掛けた。
ルインは近付いて、屈んでいるラーイルの肩越しに覗いてみた。
「これは……鹿か?」
それはぐちゃぐちゃになった肉塊だったが、折れた角が落ちていたので辛うじて鹿だと判断できた。
「恐らく『獣』に喰われたんだろう。近いぞ」
「しかしこりゃ変だろう。角を見てみろ」
そう言ってルインが持ち上げた折れた角だが、よく見ると折れたというよりも、鋭利な刃物でスッパリと断ち切られたようになっている。
「こいつはアレだな。今回の『獣』はものを切断する何らかの手段を持っていると考えた方がいいな」
「そうだな。それが能力なのか自前の爪や牙によるものなのか判別するまで迂闊に近づかないようにするべきだ」
ルインは角を置き、2人とも再び歩き出した。
更に歩くこと1時間。陽はもうすぐ傾き始める頃合いだ。
2人は先ほどよりも更に山の深くまで歩いてきた。辺りに生える木は大木とも言える大きさで、葉も非常に多いため陽の光も届かないほどだ。背丈も高く、人が十数人で手をつないでも足りないほどの太さの木の幹だ。木々の間隔が広がったことで先ほどよりは見通しが効くが、そのおかげで気付いた。他の動物がまったくいない。
木々の葉が風でこすれる音しか聞こえてこない。ここまで人里離れていて他の生物がいないのはさすがにおかしい。
さらに2人はあることに気付いていた。
「おい、近くにいやがるぜ」
「ああ。ここまで近付けば嫌でもわかる」
そう。『獣』の気配が近いのだ。ともすれば突然目の前に現れてもおかしくはないほどに。
ルインはメイスを抜いた。ラーイルもいつでも戦えるよう腰の左に提げている剣の鞘に手を置いている。
2人は進むのをやめ、辺りを見回し始めた。敵はどんな姿をしているのか分からないため瞬きすら出来ずに目を凝らす。
3分ほどその状態が続いた。ルインは何かを感じ取ったかのようにハッとした表情になり、上を見上げた。
ルインが見たもの。それは高い木に生えている1本の太い枝の上で、今にもこちらに飛び掛かろうとしている大きな山猫のような『獣』だった。
「離脱だ! 急げ!」
ルインの放ったその一言に従いラーイルはすぐさまその場から飛び退く。ルインも横に大きく飛ぶことでその場からの離脱に成功する。
そして彼らがいた場所に轟音と共に着地した『獣』は、高所から飛び降りたにもかかわらずその勢いのままルインの元へ向かってきた。
「はぇえなおい!」
ルインは立ち上がりすぐに『獣』の攻撃を回避しようと動くが、『獣』の方が早い。
その爪がルインに届くかと思われたが、1本の剣がルインと『獣』の間に突き刺さった。ラーイルが『獣』の追撃を防ぐために投擲したものだ。
特に投擲の訓練などをしていないラーイルだったが、運よく上手く投げることに成功した。
突然飛来した剣に『獣』は進行方向を逸らしたため、ルインの脇を素通りする形となった。
その間にラーイルは地面に刺さった剣の元に向かい、それを抜いた。
「わりぃ。助かったぜ」
「気にするな。それより奴が動くぞ」
ラーイルが見つめている先には、油断なくこちらを窺う『獣』がいる。その姿は隙あらばこちらに飛び掛かろうとしているのがありありとわかる。金色の眼球に深紅の瞳が2人を見詰めて離さない。
ルインもメイスを握り直して『獣』と対峙し、じっくりと観察する。
自分たちを襲ってきた『獣』は、深緑色の体毛に覆われた大きな山猫のような姿をしている。その体には黒い禍々しい紋様が見える。体長は3メートルはあり、獅子や虎などよりもよっぽど大きい。さらに細長い尾が2本生えているのが確認できた。
しかしどんな『獣』が相手だろうが、やることは変わらない。
「久々の『獣』だ。気合入れていくぞ」
そうしていざ動こうとした2人だが、嫌な感覚が襲う。
それは足元からだった。彼らの立つ地面から不気味な気配がする。
『獣』はこちらを睨んだまま微動だにしないが、ルインは持ち前の勘で回避行動をとるべきだと判断した。
「また離脱だ! 何かくるぞ!」
素早く動いた2人だったが、それより早く地面から何かが突き出てきた。
その物体に持ち上げられるようにして飛ばされた2人のうちルインは受け身を取りすぐに立ち上がったが、ラーイルはそのまま倒れ込み、無防備な姿を晒す。
「ラーイル! 早く立て!」
叫ぶルインの声にラーイルも立ち上がろうとしているが、動きが鈍い。よく見ると脚から出血が見える。それもどうやら切り傷だ。どうやって切られたのか具体的にはわからないが、確実に原因は足元から突然現れた物体によるもの。
だがそれを悠長に確認しているとラーイルが『獣』にやられる。ルインは急ぎ『獣』に攻撃を仕掛けようとする。
案の定『獣』はラーイルに襲い掛かろうとしていたので、止めにかかる。
「来いよクソ猫ぉ!」
対する『獣』も、声を上げながらこちらに向かってくるルインを先に対処しようと身体の向きを変えた。
そしてルインから向かって斜め右方向に1回跳んだ後こちらに向かって走ってきた。
ルインは止まらずに走り続ける。
『獣』はルインに飛び掛かり、右前足の爪で彼を刻もうとする。
「うらぁっ!」
だが、ルインは驚異的な反射神経で右手に持ったメイスを『獣』の右足に合わせて横凪ぎに振るった。
自分の力に加えて、ルインに殴られたせいで右足が大きく振るわれた『獣』はバランスを崩した。それを逃さずルインは背後から追撃を喰らわす。
上段からメイスを『獣』の右後ろ脚の突き出ている部分、人間でいえば膝の裏の骨に叩き込む。丁度骨に直撃したようで、ボキッ!という鈍い音と共に『獣』が叫び声を挙げた。
この機会を逃さないとばかりにそのまま後ろ脚の付け根にメイスを打ち込んだ。
再びの鈍い音と共に手応えを感じたが、さらに殴ろうとした次の瞬間には振り向いた『獣』から左足の爪が襲ってきた。
ルインはそれを距離を取ることで回避する。
しかしそれは『獣』にも態勢を整えさせることになる。
「ラーイル! わかったか!?」
『獣』から目を離さずルインが叫んだ。
「問題ない! あとは撤収だ!」
「いけるのか!?」
「もう大丈夫だ!」
ルインはその返事を聞くと目は離さないまま後退し始めた。
ラーイルはルインの近くまで行くと一緒に後退し始めた。可能な限り集団で動くことで襲われる危険性を減らすためだ。
『獣』はさっきの一撃が余程効いたのか、唸り声を上げるのみで襲おうとしない。
「あいつの能力は?」
後退しながらルインがたずねる。
「巨大な薔薇を発生させる能力だ。あれはもはや樹だな」
「薔薇か。お前が怪我したのも棘が原因か?」
「ああ。棘というよりは刃物のようになっているな。触れると刻まれるぞ」
情報交換をする2人。
それを見詰めている『獣』だが、2人は先ほど感じた嫌な感覚に再び襲われた。それも複数。彼らと『獣』を取り囲むように円状に。
「こいつ……俺たちを逃がさねぇつもりかよ」
ルインがそう吐き捨てたと同時に彼らの周囲に薔薇の樹が発生した。周りの大木をなぎ倒しながら発生する薔薇の樹。普通のものより高い強度であることがうかがえる。
彼らを囲むようにそびえ立つその様はまるで薔薇の檻だ。
「……ふん、やるしかないな」
「そうみてぇだな」
2人は撤退することをやめた。
ラーイルは剣を両手で持ち胸の前に掲げて祈る仕草を見せ、ルインはメイスを肩に担ぐようにしながら笑った。
「さぁて、久々の『獣』狩りだぜ!」
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