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〔Side.A 一人称〕
2012年は最高の天体観測シーズンらしい。どこかのお偉い教授連中がいうことによると、5月21日の金環日食に続き6月6日には金星日面経過、8月14日には金星食が観測されるとのことである。
そんなことは、僕にはどうでもいい事柄であった。
金環日食で日本中が狂喜乱舞──僕はその日、終了間際にのんびり起床して、金環日食を見損なったのだった。
憂鬱な気持ちを抱えている人間に、のんびりと天体観測などしている余裕はなかった。天が明日、もし落ちてくると考えたとしても、杞憂でもなんでもないのだから。
突然、携帯電話がジリジリと鳴り響いた。昼間にかかってくる電話は碌なものではない。
「あ、恭司くん、久しぶり、覚えていますか? 山田真紀子です。中学のときの同級生の……」
見たことのない番号通知の相手は、僕の初恋の相手──真紀子であった。普段は見ず知らずの番号からかかってきてもまったく相手にしなかった。
だが、その日だけは特別に電話に出た。なにか途轍もないことが起こるであろう前兆を、直感的に感じとっていたからだ。
真紀子の声──僕女の声は本人なのかと疑うぐらいに大人びていた。
こんな感じが僕にはどうも照れくさい。思えば真紀子のことを思いだすたび、頭のなかで真紀子を演じていたのは他ならぬマキちゃんであった。




