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第5話 同じ脅威一覧

整備区画内は、すでに立っていられる温度ではなかった。床下で冷却水が沸騰し、金属板を叩いている。月城玲華は呼吸器を装着し、低く身を屈めた。銀眼が熱源の中から二つの生体信号を捉える。一つは中央バルブの横、もう一つは倒れた作業台の下だ。隔壁時計が網膜の上で減っていく。152秒。「声が聞こえたら金属を叩いて!」右側から三度の打撃音が響いた。月城玲華は蒸気を切り裂いて駆け寄る。作業員一人が、脚の上に落ちた配管の下敷きになっていた。保護服は腰から溶け付いている。「もう一人は?」「ミオカがバルブの方へ……圧力を抜くと言って行きました」月城玲華は配管の下に油圧ジャッキを差し込んだ。ハンドルを二度ポンピングすると、金属が指一本分持ち上がった。117秒。「這い出ろ」作業員が抜け出す際に悲鳴を上げた。月城玲華はその腕を肩に担ぎ、中央バルブへと向かう。熱傷は人の輪郭を保てず、赤い染みとなって揺れた。回線から黒鉄蓮が言った。「救助人員一人確認。残り時間90秒」「ミオカの位置更新」「中央バルブ北二メートル。動きなし」月城玲華はその名を繰り返した。ミオカ。数字ではなく、人を探すためだった。バルブの裏には、小柄な女性が倒れていた。右手は手動圧力レバーを最後まで引いたまま固まっている。彼女が持ちこたえたおかげで、熱暴走の速度は予測より遅かった。月城玲華は指をレバーから引き剥がし、身体を持ち上げた。61秒。二人の重みが片方の肩と背中にのしかかる。銀眼の補正線が傾いた。第九乗換層の隔壁が視界に重なる。あの日も、彼女は最後まで人を探すと言い張った。黒鉄蓮は、一万人以上がいる外側区画の温度を見せた。扉は閉ざされ、九人の名前は報告書から消えた。「月城。45秒」「二人とも確保」「現在速度で出口到達予想、52秒」「わかっている」月城玲華は作業員を引きずって走った。足元の床板が隆起し、右膝を打った。彼女が転倒すると、ミオカの身体が肩から滑り落ちた。30秒。隔壁の向こうに黒鉄蓮のイリジウムの指が見えた。彼は閉鎖命令板の上に手を置いている。しかし、押してはいない。「二人を先に受け取れ」月城玲華が作業員を押し出した。保安隊員たちが彼を引きずり出す。ミオカも扉の隙間を越えた。12秒。月城玲華が最後に身を投げた。背後で爆発した蒸気が背中を突き飛ばす。黒鉄蓮が右手で彼女の腕を掴み引き寄せ、同時に左手で封鎖命令を押した。隔壁が降りてきて、熱い空気を切り裂いた。2秒が残っていた。月城玲華は床に伏せたまま息を荒くした。黒鉄蓮がミオカの首に手を当て、脈拍を確認する。「二人とも生きている」その言葉には安堵も賞賛もなかった。確認された結果があるだけだった。月城玲華が彼を見上げた。「今回は待ったな」「予想損失範囲内だった」「人が助かった後でも、必ずそう言わなければならないのか」黒鉄蓮は答えなかった。閉ざされた隔壁の反対側で熱暴走がぶつかり、巨大な轟音を立てた。彼が設定した封鎖は持ちこたえ、月城玲華が固執した二人も生きていた。どちらか一方だけが正しいとは言えない結果だった。


熱暴走が食い止められると、断電派は側面のエレベーターへ進路を変えた。


非常地図上で七つの武装信号が素早く移動する。彼らがエレベーターを奪えば、寄与台帳のバックアップ室まで一気に上がれる。桐生は負傷者の搬送を残る隊員二人へ任せ、盾を構えた。


「エレベーター前の交差点で阻止します」


玲華が先頭に立った。


「致死弾は、相手が先に致命傷を与えた場合だけ」


桐生の顎が固くなった。


「すでに保安隊へ発砲しています」


「今は私たちの間に民間人がいる」


黒鉄が短く言った。


「現場指揮に従う」


交差点へ着いた時、断電派は十一人の住民をエレベーター内へ押し込んでいた。拉致には見えなかった。住民は自分で荷物を持って動き、仮面をつけた構成員が外周を守っている。


玲華は銃口を下げたまま叫んだ。


「エレベーターは止まっている。入れば閉じ込められる」


断電派の一人が手動制御ボックスを叩いた。


「俺たちが動かす」


「制動機が死んでる。ケーブルが一本切れただけで下層まで落ちる」


住民の間に動揺が走った。それを抑えようとした別の構成員が玲華へ発砲する。弾丸が壁を叩いた。


桐生の盾列が前進した。玲華は盾の上へ手をついて跳び、最初の攻撃者の射線へ入り込んだ。拳銃を握る手首を押して銃口を天井へ向け、肘を折り畳む。骨が折れる寸前で力を止め、足首を払った。構成員が床へ倒れた。


二人目がナイフを手に突進した。玲華は横へ避けなかった。背後に民間人がいた。シナプスグローブで峰を包み、電流を流すと相手の指が開いた。ナイフを奪って遠くへ蹴り飛ばし、肩で相手を壁へ押さえつけた。


「武器を捨てて。エレベーターは安全じゃない」


「あんたたちの手に残るよりましだ」


「その判断を、あの人たちへ直接聞いた?」


構成員の目が揺れた。


黒鉄は交差点の反対側へ回り、手動制御ボックスを開いた。イリジウムの指が、切断された制動回路を固定する。


「補助制動なら10分間だけ生かせる」


玲華が彼を見た。


「エレベーターを使うつもり?」


「住民をここに残せば交戦圏内だ。下の安全層まで降ろす」


「断電派がまた奪うかもしれない」


「だから私が制御ボックスを押さえている」


黒鉄は断電派にも保安隊にも、エレベーターの鍵を渡さなかった。住民の一人が震える声で尋ねた。


「下へ行ったら、移送されずに済むんですか?」


黒鉄は偽りの約束をしなかった。


「移送命令は再検討する。今ここで保証できるのは、この交差点では死なせないということだけだ」


玲華が住民たちの顔を見渡した。


「降りる人は乗って。残る人は右の避難扉へ。誰も無理に乗せない」


住民はそれぞれ動き始めた。断電派の二人が武器を下ろし、担架をエレベーターへ載せる。三人目は後退しながら煙幕弾を取り出した。


玲華がその手首を撃った。鎮圧弾が、起爆前に装置を落とさせる。


「救護を続けたいなら、人のそばから爆発物をどけて」


エレベーターの扉が閉じた。黒鉄が手動レバーを下ろすと、ケーブルが重い音を立てて動き出した。断電派の二人は住民と共に下へ降り、残った武装者は保安隊に包囲された。


その瞬間、天井の防御砲から伸びる赤い照準線が、交差点全体を横切り始めた。


正規の身元確認なしに目覚めた自動防御網は、銃を持つ者と担架の患者を同じ脅威一覧へ加えた。


天井の防御砲は三基あった。


赤い照準線は、まず桐生の盾へ集まった。保安隊の武器信号が最も強かったからだ。次の一本は床に落ちた断電派の小銃をなぞり、最後の一本はエレベーター扉の前に立つ少女の胸で止まった。少女の首には、不法改造された呼吸補助器が掛かっていた。


「全員、伏せろ!」


玲華が叫んだ。


第一射が炸裂した。桐生の盾の表面が白くひび割れる。自動砲は反撃ではなく、標的の電子信号に反応していた。断電派の構成員が少女を抱き込み、床へ身を投げた。弾丸は男の肩を貫き、背後のエレベーター扉へ突き刺さった。


黒鉄が制御ボックスから顔を上げた。


「防御砲の電源は独立回路だ」


「管理者命令は?」


「主系統が死んでいる。受信しない」


第二射の準備音が響いた。


玲華は少女をかばった男へ駆け寄った。肩から血が噴き出している。それでも腕は少女を放さなかった。


「その子を私に渡して」


「保安隊へ返すわけには……」


「今は防御砲を止めるのが先だ」


男は玲華の顔を見上げた。銀眼ではなく右目を一瞬確かめ、それから少女を押し出した。玲華は少女を柱の陰へ送ると、天井を見た。


三基の砲塔へ通じる電力管は互いに分離されていた。物理的にすべてを切断する時間はない。だが照準センサーは、中央の天井板一枚で同期している。


「桐生、右の砲塔へ盾を向けろ。黒鉄、左のセンサーへ二発」


「中央は?」


「私が行く」


桐生がひび割れた盾を掲げて走った。二基の砲塔の照準線が彼を追う。黒鉄がセンサー外装を正確に撃ち抜き、左の砲塔を揺らした。


玲華は柱を蹴り、天井の配管へ跳び上がった。シナプスグローブが金属へ吸いつく。身体をぶら下げたまま中央板まで進むと、一基の砲塔が遅れて銃口を向けた。


銀眼が回転速度と射撃時点を計算する。


0.8秒。


玲華は天井板の隙間へナイフを突き立てた。砲撃が放たれる直前に手を離す。弾丸が彼女のいた場所を削り、落下する玲華に引かれて天井板も剥がれた。内部の光学同期線が断ち切られる。


三基の砲塔が別々の方向へ痙攣した。


黒鉄が制御ボックスから非常電力を逆流させた。イリジウムの腕に赤い警告灯がともる。電流が金属の腕を抜けて回路へ押し込まれると、砲塔は一基ずつ停止した。


交差点には火薬の匂いだけが残った。


玲華は床へ降り、負傷した断電派構成員のそばに膝をついた。桐生が銃口を向けると、片手で遮った。


「今は患者よ」


「つい先ほどまで、我々を攻撃していました」


「だから逮捕記録も残して。治療の後で」


少女の呼吸補助器から不規則な警告音が鳴った。鷺沢華蓮という名が記された仮診療票が貼られている。公式医療網には登録されていない装置だった。


黒鉄は停止した砲塔を見上げた。


「都市防衛網は、保護対象を識別できなかった」


玲華は血に濡れた止血包を断電派構成員の肩へ押し当てた。


「誰が識別基準を決めたのか、そこから確認する必要がある」


この時の玲華は、まだその言葉をシステム全体への疑念とは考えていなかった。故障した装置と、誤った現場分類の問題だと思っていた。


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