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第22話 偉人の週間

創設者記念週間は、停電のため二日遅れて始まった。午前6時、セル東京のすべての公共画面が同じ青へ変わった。整えられた記録映像の中から、常盤誠司の顔が市民を見つめた。


「人間もまた、復元されるべき生物種です」


低く穏やかな声が、昇降場、工場、配給所へ同時に響いた。映像の常盤は防護服姿で、最初の避難列車の出発を確認している。後方では地表初期化警報が明滅していたが、彼はカメラを見ず、乗客の数を自分で数えていた。


玲華は子供の頃から、その場面を何十回も見てきた。最後の列車を先に送り、現場へ残った総設計者。人間を階層ではなく、生物種全体として呼んだ人物。第9乗換層事故の後も、玲華は常盤の原則が誤っていたのではなく、それを運用する者たちが名前を消したのだと信じていた。


画面の下では、下層復旧労働者が記念の横断幕を取りつけていた。一晩中、冷却管を修理した手で青い布を広げる。「復元暦八十七年、帰還へ向かう一歩」。文字が天井へ掛かるたび、作業時間は行事準備時間に変更された。寄与点数は復旧交代より低かった。


「あの人たちから休ませて」


玲華は行事監督官へ言った。


「委員会指定行事です。参加しなければ、記念週間の配給加算を受けられません」


「参加じゃなくて、動員でしょ」


監督官は規則を表示した。市民統合のための公共寄与。停電被害からの回復を知らせるために必要な行事だという説明がついている。


玲華は横断幕を支える労働者の一人が、手を震わせているのを見た。高橋と同じ震えだった。すぐ作業を止め、医療班を呼ぶ。監督官が日程の遅れに抗議すると、行事要員全員を交代調査の対象へ入れた。


常盤の映像は流れ続けた。


「復元とは、一世代の犠牲ではありません。次の世代が選べる世界を残すことです」


玲華はその言葉が好きだった。選べる世界。だが画面の下にいる人々は、記念行事へ参加するかどうかさえ選べない。


行事監督官が、空いた横断幕の位置を指した。


「時間内に設置できなければ、区画評価が下がります」


玲華は梯子を掴み、自分で上がった。横断幕を掛けることが正しいからではない。震える手に、これ以上その仕事をさせないための選択だった。青い布が広がると、常盤の顔が半分隠れた。


都市は偉人を称えることで、再び正常に見え始めた。


設置が終わると、労働者は常盤の演説を聞く暇もなく、次の復旧区へ移った。一人が安全帽の青いリボンを外し、ポケットへ入れた。記念品として残すのか、作業の邪魔だから片づけたのか、玲華にはわからない。


玲華は残る設置要員にも終了時刻を確認させた。記念日程のせいで再び延長されないよう、現場記録へ自らロックをかける。


正常という表面の下で、復旧交代の時計は動き続けていた。


地球復元記念館は、上層中央軸にあった。停電被害をほとんど受けなかった白い廊下と一定の温度が、下層の濡れた空気を通ってきた玲華には異質に感じられた。


入口最初の展示物は、核弾頭熱初期化計画の縮小模型だった。汚染地表に沿って赤い点が順番に灯り、大気温度と微生物生存圏の上昇グラフが壁一面へ広がる。破壊のために作られた兵器が、地球復元最初の道具になったという説明が続いた。


案内音声は、当時の選択を隠していない。旧都市の撤去、放射線遮蔽区の設定、地表生態系の大規模初期化。常盤はすべての計画を統合し、垂直方舟の建設を承認した。


次の展示室にはセルの断面模型があった。狭い遮蔽面積の内側へ、農業、産業、居住、発電を積み上げた構造。「地表復元期間中、人類を保存するための臨時垂直居住圏」。学校で学んだ説明と同じだった。


「臨時が八十七年、か」


坂本は展示模型の下を覗き込みながら言った。監査用の正式入館証ではなく、整備業者の標識をつけて入っている。


「地表復元は、世代単位の計画だった」


「終了条件がどこにあるか探してみろよ」


玲華は展示説明へ目を走らせた。復元段階は、第1段階の熱初期化、第2段階の土壌と水系再建、第3段階の種の復帰、第4段階の人類帰還へ分かれている。現在の進捗表示は、第3段階六十八パーセント。人類帰還の開始条件は、「生物圏の安定化確認後」とだけ記されていた。


最後にはセル大阪の建設映像が流れていた。東京より先に完成した先行都市。復元技術と都市間の生態協力を検証した成功例。画面では作業服姿の人々が管制室から手を振っている。名前は表示されない。


「大阪は今も正常に運営されてますよね?」


玲華が尋ねた。


記念館職員は明るく答えた。


「もちろんです。遮蔽上の問題から都市間の人的移動は中断されていますが、環境復元局とは定期交信を続けています。今回の停電でも、最初に回復を願う報告を送ってくれました」


坂本が玲華を横目で見た。二人とも二・七という数字を思い出したが、口にはしない。


玲華は大阪管制室の写真が撮影された年を確認した。復元暦十八年。それ以降の写真は、自動化設備と外部復元区だけだった。


「最近の職員記録は?」


「都市間の個人情報保護協定により、公開していません」


玲華は、最近の職員写真がない理由と交信担当者名簿を正式照会へ加えた。職員は、都市間遮蔽協定の強化後、視覚資料を交換していないと説明した。感染と位置情報の流出を防ぐ規則だった。展示室に古い写真しか残っていない理由としては十分だ。


展示職員は、照会申請に必要な項目を一つも落とさず案内した。少なくとも公開手続きの範囲では、意図的に妨げる態度は見えない。


答えは自然だった。他のセルの市民も同じように保護されるべきだ。玲華は職員へ正式な機関照会手続きを求めた。人間が暮らす大阪なら、原本を持つ担当者もいるはずだった。


記念館の次の展示室には、小学生が集まっていた。子供たちは床へ投影された旧地表地図を踏み、自分が帰りたい地域を選んでいる。海を見たことのない子が海岸表示の上で両腕を広げ、森を見たことのない子が復元された木の高さを訊いた。


案内員は慣れた質問に笑顔で答えた。


「皆さんが大人になる頃には、第3段階の復元がもっと進んでいるはずです」


「じゃあ、外へ出られますか?」


一人の問いに、案内員の笑顔がほんの少し固くなった。


「人類の帰還は、生物圏安定化委員会が決定します。今は方舟の中で地球を待つことも、大切な復元活動です」


「おばあちゃんも、子供の頃にそう聞いたって」


子供たちは笑ったが、大人は笑わなかった。玲華は壁へ並べられた世代別の教科書を見た。復元暦二十年の本には「次世代の帰還」、五十年の本には「間近な帰還」、現在の本には「条件達成後の帰還」と書かれている。


坂本がページをめくろうとすると、保存警告が鳴った。彼は両手を上げ、離れた。


「文がだんだん、長持ちするほうへ変わってるな」


玲華は子供たちのそばへ座り、地表地図を見た。緑で示された復元区は、年ごとに広がっている。復元そのものが止まったわけではない。土壌微生物と水系が戻り、一部の動物種は保護区で繁殖している。帰還が遅れるのにも、理由があるのかもしれない。


「どうして都市は縦に作ったんですか?」


別の子供が訊いた。


案内員は、遮蔽屋根の面積を最小限に抑え、限られた地熱と空気を効率よく分けるためだと説明した。誰も不思議には思わない。玲華にとっても垂直都市は疑問ではなく、生まれた世界の形だった。


一人の子が常盤の模型の前へ、小さな紙の花を置いた。宗教的な祭壇ではない。学校の課題として、尊敬する歴史上の人物へ感謝の文を書く場所だった。


「私たちを救ってくれて、ありがとうございます」


玲華はその一文を読み、長い間立っていた。常盤が人類を救ったのは事実だ。セルがなければ、この子供たちも生まれなかった。その事実と、下層で消える名前が、なぜ同じ体系の中にあるのか。まだ説明できない。


外へ出ると、隼人からメッセージが届いていた。結衣が目覚め、今日は指の感覚が少し戻ったという知らせだった。


玲華は紙の花よりも、その短い文を長く見つめた。帰還がいつになるかわからない世界でも、今日戻った一つの感覚は確かなものだった。


子供たちが去った後、地表地図には小さな足跡が残った。実際の土や海を覚えている者はいない。それでも帰りたいという感情は鮮明だった。記憶ではなく教育によって受け継いだ郷愁も、本人にとっては本物だ。


玲華は地表地図の復元数値も一緒に保存した。帰還の約束が先送りされた事実と、生態系が現実に回復している事実。そのどちらも捨てないためだった。


返信へ「確認した」と書き、隼人の名を監査名簿で緑へ変えた。


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