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06_放蕩娘の帰郷(前編)

「ただいま帰りましたわ。

お父様はまだこちらに居りますかしら?」

「──っ?!

ティアナお嬢様、スノウノお嬢様!!

お戻りになられたのですね!」


立派なお屋敷の正面玄関に案内されたオレらの元に、屋敷から初老の男性がやって来たっす。

その男性を見るなりティアナさんが声を掛けたっす。


ここはコラペ王国エシャロット領の領都。

そして目の前に見えているお屋敷はティアナさんとスノウノさんの実家っす。

オレらは「魔王領」から半月とちょっとでここまでやって来ていたっす。


「ええ、お久しぶりねベル。」

「ベル、久しぶりニャ。」

見た感じ、男性は執事さんなんすかね?

ティアナさんとスノウノさんが気軽に応えてるっす。


ただ、ベルさんの方は感激して震えてるっすね。

「おお……、ポワロ様もヘカテー様もリーキ様も、皆心配されておりました……。」

「ならば早く案内してちょうだいな。

こちらは、用事を済ませたらさっさと次に向かいたいのです。」

「えっ?!

あ、はい、少々お待ちを!」


いよいよ、ティアナさんのご両親と対面っすか……。

な、なんか、緊張してきたっす!


ぎゅっ……


へ?

見るとティアナさんが手を握ってきてたっす。


「大丈夫、貴方はわたくしが選んだヒトなのだから、普段通りにしていたら良いのです。

お父様と話をつけるのはわたくしがやりますから、心配しないで。」


ティアナさんの優しい言葉が沁みるっす。

よしっ!覚悟決めるっすか!


**********


ベルさんに通された部屋で皆で待っていると、怒りを滲ませた表情の男性が現れたっす。


「これまで何処をほっつき歩いていたのだ、この放蕩娘!!」

「あら、久々に娘と会うなり随分な言い様ですわね、お父様。」


年の頃は四十代半ば、ザーレンさんよりも年上に見えるその男性は、よく見るとティアナさんの面影がある美形中年だったっす。

……と、いうことはこのヒトがここの領主様っすね、迂闊なことは言わないでおくっす。


「当然だろう!

可愛い娘が一年以上も行方知れずとなっていたのだ、心配するのがまともな親であろうが!」

「その点は仰る通りです。

ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。」


親心を素直に語る子爵様に、ティアナさんも素直に頭を下げたっす。

このやり取りだけでも、二人の間に信頼関係が築かれているのが分かったっすね。


「う、うむ。

まぁ、こうして無事に帰って来たのだ、それはもう良い。

さて、これまで何をしておったのだ?

そして急に戻って来た理由は何だ?

聞かせて欲しい。」

領主様、ポワロ様はティアナさんに矢継ぎ早に質問を浴びせたっす。

それほど心配してたって事なんすかね。


「はい。

この一年、わたくしは冒険者として旅をして来ました。

その末に、故郷であるコラペ王国にとって有益な情報を掴みましたので、それをお知らせする為に戻ったのです。」

「冒険者……、後ろの者達がその仲間か?」

「はい。

皆、それぞれ優秀な自慢の仲間達です。」


そう言うと、ティアナさんは半身だけ下がる仕草で、オレらを紹介してくれたっす。


「そうか……。

娘が世話になった、礼を言わせてくれ。

……そして、コラペ王国にとって有益な情報だと?」


ポワロ様は、オレらに礼を言ったかと思うと、すぐさま別の話題に食い付いたっす。


「はい。

お父様はこの後、今年のコラペ王国建国記念式典に出席するため、王都ゴスンへ行かれるのですよね?

その際に書状をお届けいただきたいのです。

こちらがその書状です。」

「ふむ……?

いや待て、アプリコット公爵様だと?!

あの方へお前が何の話があると言うのだ?!」


ティアナさんが差し出した書状の宛先を見たポワロ様は、そこに公爵様のお名前があって驚いたみたいっす。


「あ、いえ、差出人の名はクロー様とセレナ様になっています。

そのお二人は公爵様と直接の面識がお有りなので、お受け取りいただける筈です。」

「め、面識……だと?!

……いや、ちょっと待て、セレナとはまさか──」


ここで更にポワロ様は、セレナさんの名前に言及したっす。


「お気付きなられましたか?

昨年の式典で天使様と飛び立った聖女様のお名前ですわ。

……こちらがその聖女セレナ様です。」

そう言いながらティアナさんはセレナさんを手で指したっす。

それに合わせてセレナさんもペコリとお辞儀をして応えたっす。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!?!

テ、ティアナ、その方を巡ってあの式典の後、教会本部がどれだけ紛糾したか知っているのか?!

何故、彼女の行方を知らせなかったのだ!」

「いえ、わたくしは昨年の秋から冬に掛けて、カダー王国のローエンタール子爵様の元に居りました。

その後、今年の春からは帝国を回っておりました。

その為、セレナ様がゾマ・ヴォルフント教会にとってどの様な扱いになったのかは知りませんでしたわ。」


「カダー?!帝国?!

お前はどれ程駆け回っておったのだ?」

「いえそこは、仲間に付いて行ってた成り行きで……。

あ、一応わたくしがこれまで何をしていたか、何を伝えに戻ってきたのかについて、書状とは別にお父様宛に書面にしたためてきましたので、後でお読みくださいませ。」


そう言うと、ティアナさんはもう一つ手紙をポワロ様に手渡したっす。


「ん?……ああ、分かった。」

ポワロ様はぶっきらぼうに受け取ったっすけど、ちょっとだけ嬉しそうにしたっす。

娘からの手紙をもらった嬉しさが隠しきれなかったんすね。


「あと、書状はシオン様とエオス様宛にもしたためましたので、こちらもついでにお渡し下さいまし。」

「んん?

シオン様とは誰だ?

どこかの貴族のご息女にそんな名の者が居たか?

エオス様というのも聞いた覚えはあるが、はて?」

追加の書状の宛先に、ポワロ様は首をひねったっす。


「ああ、シオン様とは「神託の巫女」様のご本名ですわ。

教会本部関係者くらいしか知らないとご本人が仰っていたので、お父様がご存知ないのも無理はありませんね。

エオス様は、教会本部の司祭長様になります。」


「待て待て待て待て待て待てっ!

どういう事だ?!

何故お前が巫女様と面識があるように語るのだ?」

「はい。

昨年の式典の時期に、一週間ほど行動を共にしておりましたから。

正直、そこに差出人として名のあるクロー様、セレナ様よりも親しくなったと思っておりますわ。」

「が……、な……。」


あ……、驚きの連続で、とうとう何処からツッコんで良いやら分からなくなってきた様子っすね。

流石に父親なんだから、もう少し手加減してあげても良い気がするんすけどね、ティアナさんは。


そんなことを思っていたら、突然、部屋の扉が開いて女性が入って来たっす。


「スノウノ!

わたくしの可愛いスノウノが帰って来ているというのは本当ですか?!」


「うげっ?!」

ガタッ!


女性のセリフに、スノウノさんは中腰になって席を立ったっす。

どうやら、すぐに逃げられる体勢のようっすね。

でも、「うげっ」とは、咄嗟に出たにしては随分嫌そうな響きを含んだ声っすね?


女性はポワロ様と同年代に見える、こちらも美形な方っす。

この人もティアナさんと似た部分を何かしら感じるっすね。

でも女性の方は、化粧やら宝飾品を身に着けている分、ティアナさんより派手に見えるっすね。


「スノウノ!そこに居たのね!

心配していたのよ。

クレソンの「白日騎士団長」からは、スノウノが大怪我をしたという話も聞いたし、このままもう会えないかと思ってました。

さあ!

いつもの様に、わたくしの胸に飛び込んでいらっしゃい!」


「…………。」


女性が両手を広げてアピールしているのに対して、スノウノさんはジト目のまま距離を取るようにしているっす。


「あら?

どうしたのスノウノ?

まさかわたくしの事を忘れてしまった訳ではないですわよね?」

「……いえ、覚えておりますニャ。

覚えているからこそ、こうして距離を取ってますニャ。」


スノウノさんは細心の注意を払って女性との距離を保とうとしているっす。


「な、何故?!

何をためらうことがあるのです?」

「……お母様、スノウノはヒトから一方的に、過度なスキンシップを求められるのを好みません。

昔からそうやって避けられ続けていたではないですか。」


見かねたティアナさんが声を掛けたっすけど、やっぱりこのヒトがティアナさんのお母さんで間違いないようっすね。


「あら、ティアナさん。

帰っていたのですね。

元気そうで何よりです。

ただ、避けられていたとは心外ですわね。

スノウノが私のことを嫌う筈などありませんわ。」

「……はい。

まぁ嫌っていないと思いますが……、辟易してはいるかと。」


「ふむ……、つまり、久々で照れているのですね?

ふふ、相変わらず愛らしいですわ。」

「……ティアナ様の話をどう聞いたらそうなりますニャ?!」


思わずスノウノさんがツッコむっす。

ティアナさんのお母さん、なかなかポジティブなヒトみたいっすね。


……あ、セレナさんも気になったみたいで、ティアナさんに聞いてるっす。

「……前からこうなのですか?」

「はい……。

お母様はスノウノのこととなると他者の話など耳に入らないほど猪突猛進になりまして。

スノウノも、あれでお父様、お母様には恩を感じて、とても大切に思っているものですから、邪険にも出来ずにあんな感じで……。」


そう言ってティアナさんは小さく溜め息をついたっす。

その視線の先では、ジリジリとティアナさんのお母さんがにじり寄ってはスノウノさんが同じだけ逃げるという、静かな追いかけっこが続いてるっす。


それを見かねて声を掛けたのは、衝撃から復活したポワロ様だったっす。


「ヘカテーよ、止めぬか。

客人も居る中でみっともない。

ティアナもスノウノも帰って来たのだ、機会なんていくらでもあるだろう。

それにしても良いタイミングであった。

このまま王都へ向かえば、社交場はいくらでもある。

そろそろ嫁ぎ先も決めてもらわねばならんからな。」


「……あら?

何を仰っていますの?

わたくしは今日だけ要件を伝えに戻っただけですわ。

それに、嫁ぎ先ならばもう自分で見付けておりますので。」

「…………は?

いやいやいやいや、何を言う。

……冒険者から足を洗い、この家に戻って来たのではないと言うのか?」


ポワロ様が慌てて訂正する言葉を、ティアナさんは真っ直ぐ否定したっす。


「はい。

エシャロット子爵家に戻るつもりは毛頭ございませんわ。

そして、伴侶の候補についてはもう見付けております。

こちらの冒険者仲間の青年、リックですわ。」


「ぬわぁぬぅいぃぃぃぃぃぃっっ?!?!」


そして、ボワロ様のこの日一番の怒声が屋敷に響き渡ったっす。

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