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【26話】クオリクト

 殴られた頬を触り熱に触れため息をつく。

 いくらなんでも意識が戻るのが早くねェか、死なねェ程度に加減していたとはいえかなり強く絞めたはずなのにな、と考えていると容赦なく次は左頬が殴られる。

 反撃でもかましてやろうかと剣に手を伸ばす。

「テメェ、急にイキリやがってそんなに俺とヤリてェならノってやるよ」

 良い事があったらそのまま続いてくれよ、何故悪い事が必ず交差してくるんだよ、本当にイライラする面白くねェんだよ。

 うるせェ声が頭痛のように響く。

『いいから謝れよお前が出来ないなら俺が謝る、だから変われ』

 変われだと? 笑わせやがるそんなくだらん理由の為に変わる訳無いだろう、と言っても毛頭変わる気など全くない訳だがな。

 くだらない考えを嘲笑う。

「謝って何になる? もうおせェんだよ、とっくにこの女の心は壊れてんだよ、だってお前がこうした」

 寄生虫がキレているのか、自分まで正義(笑)の怒りが湧き上がってくる感覚を覚える。

『ふざけるなお前がやったんだろうが』

 こいつは何をそんなにキレているんだか、意味も分からずただただ呆れた。

 だがさっきからおかしくないか、蛆虫の痛みが感情がオレにも共有されている、全てを押し付けているはずなのに何故? まさか蛆虫も使えるというのか? 気持ち悪い、まさに宿主の模倣をする寄生虫だな本当に。

 ひとまずオレは寄生虫を黙らせる為に再び首に手をかけようとした瞬間、手が震え力が入らない事態に陥る。

 何だコレはと考える暇もなく次には全身の力が抜け前方にうつ伏せへと倒れ、腹から親しみを覚える体液が溢れ出す。

 こいつマジかよ自分で腹刺しやがった、ありえねェって、痛みは無いはずなのに意識だけが遠くなっていく。

『変わ……れ……』

 相変わらず寄生虫らしい発言をし続ける、本当に気持ち悪いこんな奴にまた体を乗っ取られるなんて、クソが……次に目を覚ました時はすぐにお前を……。

 意識は容赦なくぶった切られる、初めから意を持たないただのデータの集合体でしかないように。

――真っ暗な場所から白い部屋へと切り替わる、戻れたのか? 胸に手を当てゆっくりと深呼吸をする。

 そうして目の前の女に目をやるとぼんやりと寝転がったまま天井を見ていた、下着や肌が見えていても一切隠す素振りもなかった為、慌てて目線をそらしながら声をかける。

「あの、大丈夫?」

 俺の声に反応したのか、女は起き上がりじっと俺の顔を見つめてくる、何でだろう妙な異質さを感じるのは。

 顔は赤く、目は見開いていて、口元には笑みを浮かべている。

「俺に何か言いたい事……」

 遮るように顔が近づき、右頬を猫のように舐められ二つのビリついた刺激を覚える。

 なっ、今、女に声をかけられるを超えて舐められた? 普通ならこの後に素晴らしい事が待ち受けている展開のはずだが、俺は悪寒が止まらなかった。

 顔も可愛いし女の方からこんなに積極的に来てくれるなんて都合が良くて嬉しいはずなのに、拭えない違和感が蓄積されていく。

「ご命令は?」

 女は笑顔だ。

「は? 命令って何の話……」

 未だ冴えない頭を必死に動かす、そもそもこの女も誰の事か分からないというのに、何故だろうこの違和感と苦しさは一体。

 強烈な心臓の圧迫感ともはや苦痛に感じる高揚感を感じ意識を叩き起されたと思ったら、手が急に無理やり動いて誰かにビンタをしたような形になりすぐに理解した、リクトがやらかしたと。

 だから必死に入れ替わろうとしてそれで……今に至る訳でひとまず謝らないといけない、でも何を理由にどう謝ればいいんだ。

 こんな状況でも変わらない笑顔で迫ってくる。

「どんな命令でも申し付けください! 私は貴方様だけの奴隷ですから」

 ゆっくりとだが確実に女は距離を詰めてきた。

 違う……エーリヤはこんな事しない……エーリヤ? それがこの女の名前? ダメだ頭に霧がかかっているかのような感覚になる。

 思い出せない、思い出さないといけないのに、必死に頭を絞っている間に気がつけばエーリヤの体がかなり密着していることに気がつく。

 しばらく思考が止まり胸の苦しさを覚える、距離が近いあまりにも、逃げ出そうとすると察せられたのかエーリヤは腕を掴み無理やり俺を押し倒す。

 もしかしなくても、状況が非常に悪いので必死に逃げようと腕や体を動かしたが、エーリヤは腕を押さえつけ柔らかい体を押し付け、完全に俺の抵抗は無に帰させられた。

 エーリヤは俺の耳元まで顔を近づけ甘く囁く。

「どんな命令でもいいんですよ、私の全身上から下まで全てクオ様だけのモノですから、あと少しなのです、あと一手間で私は完全に貴方に壊される一歩手前、早く私に触れて壊してください、貴方の手でソトもナカもグチャグチャに……犯して……」

 ゾクゾクとした感覚が、腰から中心に全身へと伝わって行く。

 きっと素直に受け入れて流れに任せられたらここまで苦しくなかったのかもしれない、それでも俺は受け入れられなかった。

 手を伸ばしそっとエーリヤの腫れた頬に触れる、未だに火傷しそうなくらいに熱を帯びていた。

「エーリヤ? 違う、そんな事望んでいないんだ俺は君に謝らないと」

 目線が合わない、どうしても逸らしてしまう、声も手も震えてしまって上手く言葉が紡げない。

 そんな俺の手をエーリヤは握り、指を絡ませ

「違いますよ、クオ様は私を否定して私の存在意義を提示していただいただけ、私の価値を確定させてくれただけ」

 そのまま手を下へと持っていき、胸を触らせる。

「さぁ言ってください」

 女の顔はやけに色っぽく見えた。

 さっきから心臓がエンジンのように激しく動き音を出し続けている、このまま心音と鼓動に押し潰されて死ねるのならまだ幸せかもしれない。

 それなのに俺は気づけばエーリヤを押し倒していた、耳の中、全身全てから心音が聞こえる、心音のせいでエーリヤが何を言っているか分からなかったが、恍惚とした表情をしていたので大体は察せられた。

 襲う? 俺が? 初対面……のはずの女を襲うのか、鼓動は収まるどころかむしろ激しさを増していく、いくら経験が無いからって都合がいいからってそんな事俺に出来る訳がない……それこそ俺が化け物でもない限り。

 結局何も出来ずにしばらく上から可愛い顔を眺めた後、何も言わずにすることも無く俺は逃げた。

 逃げてしまった責任から全てから、戻らないと、まだ間に合うはずだ、意識しなければいいだけ、この心臓の痛みを我慢すればいいだけ……なのに、俺は謝る事も出来ずにエーリヤに背を向けてしまった。

 扉を開け廊下に出ると、果てしなく続くような長さを感じた、そして床には肩を押さえうずくまる少女がいた。

 意識を失っているのだろうかこんな所に放置する訳にもいかない、せめて近くの部屋……さっきの部屋しかないか。

 ともかく運ばないと、そう思い手を伸ばそうとしたが、何故か目の前の少女の髪を掴む映像が流れ、足が止まり口元を押さえる。

 違う俺じゃない俺は知らないやってない、罪悪感を感じつつもその場から、また別の責任から逃げ出してしまった。

 なんなんだよ本当に俺じゃない俺は知らない、全部リクトがやった事なのになんでこんなに罪悪感に押し潰されなきゃならないんだ、出会ってきた全員の事知らないのに俺が何したって言うんだよ。

 走り疲れその場でうずくまる、次の行動なんて考えられなかった。

「俺は悪くない……知らねぇよ何もやっていないのに」

 言葉として吐き出す程に弱気になる。

『そうだよなァ、他責したいよなオレは悪くないって』

 遅かった、意識した瞬間にはもう剣が握られていた。

 ハッとして、手を離そうとしたが、その剣は固く握られており逃れられなかった。

 思いっきり振り下ろされた刃はふくらはぎに突き刺さり、そのまま上へと太ももに深く奥へと突き進んで行く。

 痛い、足に力が入らない、それはさながらお前を逃がさないというリクトの意思表示だったのかもしれない。

 耐えきれず泣き叫ぶ。

「いっ……痛い痛い痛い、なんっ……なんでこんな目に、俺は何もしてないのに、痛い誰か助けて……」

 自身の涙よりも流れ出る血の方が多く流れ続けた。

 そのまま剣は足から引き抜かれ、次は首へと移動する。

 冷たい金属と生暖かい血がベッタリと首に張り付く。

「死ぬ死ぬ死ぬ、はっ、あ、あ、やだ、し、死にたくない」

 俺の声は届かない、刃はゆっくりと柔らかい肉の部分を切り裂いていきある程度進み止まる。

 痛いのは当然だが、死への恐怖が強すぎて、息を吸う事に必死になる。

『うるせェよ、お前よりもっと醜く泣き叫んでもオレは何度も首斬られて殺されてんだから』

 リクトの声が頭に響く、そうして、剣を握る力は、より強く、握ら、れて、俺、は。

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