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交差する軌道

アルデバラン宙域、第四デブリ帯の縁。

機能停止した観測衛星と散ったコロニーの外骨格、その隙間に紛れるように、テスト用ブロックが静止している。


ファントム・アポカリプス零番機、起動。

滑らかに伸びたシルエットは、構造的には問題がない。情報次元への同調率も安定している。


「高位確率域に跳べ」

俺は指示を出す。

「目標は、さっきの機体が用いた軌道特性の再現。近似で構わない」


パイロットの反応は速い。訓練どおり。機体が微細な光の尾を引き、跳躍の準備に入ったその時。

背後の観測卓から声が上がる。


「ゼファー司令、念のため確認を。高位確率域への遷移時、その余波が“あの艦隊”側に伝わる可能性があります」


あの艦隊――

例の、さっき“機体”を出撃させた統合側の戦力だ。


「直接飛ぶわけじゃない」

俺は視線をスクリーンに向けたまま答える。

「だが、あちらに“視る”者がいれば、遷移の波形を拾われることはある」


情報の干渉とは、必ずしも物理的な接近を要しない。

確率の深度を掘り下げれば、境界は脆くなる。向こう側にも、こちらの影は届く。


「それも含めて、観測だ」


アポカリプスが微振動を残して跳躍した。

宙域に黒赤の揺らぎが残る。存在確率の一部が霧散し、空間の構造が一瞬、遅延する。

跳躍は成功。だが、余波は確かに出た。


「残響波形を保存しろ」

淡々と指示を飛ばす。


「観測されたかどうかは重要じゃない。観測された時、向こうがどう反応するかが問題だ」


俺は椅子に深く腰を沈めた。

アポカリプス零番機の挙動は、まだ粗い。だが、確率の縁に触れた時の安定性は悪くなかった。


「次は、粒子収束試験に移る。予定通り、演算シークエンスαを適用」


補佐官が頷き、演算コマンドを流し始める。


“存在の外側”を測るには、こちらも輪郭を削るしかない。

崩れた軌道、重ね合わされた可能性、意味をなさない因果。

そこにある“自由”だけが、俺たちの武器だ。


「神に祈る気はない。秩序の背後に何があるか、それだけが知りたい」


画面には赤い残像が滲み、情報ノイズの帯がわずかに踊っていた。

そのノイズの向こう――“向こうの艦隊”が、ほんのわずかに揺れた気配があった。


──届いたな。

だが、気づくかどうかは別だ。


跳ね返りがあるなら、それはそれでいい。

こちらも確率を削り取る用意はある。

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