45:打ち上げと勧誘
「それでは、ヒュドラ討伐を祝して――」
グラスを掲げたウィスタリアさんに倣い、オレたちもグラスを突き出す。
「「「「かんぱーい!」」」」
グラスを軽く打ち付け、それからドリンクを口に運ぶ。
オレが頼んだのは炭酸水だ。しゅわしゅわとした気泡がのどで弾けて気持ちいいし、優しい甘みが疲れた体に染みてゆく。その上いくら飲んでもゼロカロリーだ。ゲームだからな。
「しかし本当に絶妙なタイミングで出てきましたね、ウィスタリアさん」
「私は魔法使いだからね。現れるときは早すぎも遅すぎもしないのさ」
「なんですか、それ」
格好いいけど脈絡ないセリフだなあと思ったら、シスターが口を開く。
「ロードオブザリングのセリフですね。ガンダルフが登場したときの」
「おや嬉しい。通じるとは思わなかったよ」
ウィスタリアさんが笑った。
どうやら今の決めゼリフには元ネタがあったらしい。あの映画はオレも昔見たけど内容はあんまり覚えてないんだよなあ。好きな人はセリフまで覚えているものなのか。
オレが覚えてるセリフと言ったらラストあたりの「だが今日ではない」くらいだな。あれだけはめちゃめちゃにアツかったので覚えている。
「原作は読んでるかい?」
「いえ。私は映画だけのミーハーでして」
「それは残念。読んでたら語りたいことがあったのにな」
そう言ってグラスの残りを一気に飲み切るウィスタリアさん。
そんな彼女の様子を見ていたシスターがぽつりとつぶやく。
「なんだか印象が違いますね」
「印象?」
「ええ」
「確かにそうでござるな」
オレが首をかしげると、シスターと山風がそろってうなずいた。
「私の知るウィスタリアは、もっとこう――」
「奥ゆかしい文学少女だったって? まあ、そうなんだけどね。いろいろあって心機一転して製品版デビューしたんだよ」
「そんな、高校デビューみたいな……」
というか、その話が本当ならだいぶ思い切ったキャラチェンジだ。
ほとんど真逆じゃないか。オレの知っているウィスタリアさんは自信満々なドSの露出お姉さんなんだから。
「まあ今は過去のことより未来の話をしようよ。建設的にさ」
「と、言いますと?」
「二人がよければ、うちのクランに入ってもらえないかなってコト」
ウィスタリアさんがウィンドウをいじり、ドリンクのお代わりを注文する。
ほどなく出現したグラスを、彼女はまた盛大にあおった。
「――で、どうだい?」
「そうですね――」
シスターは思案顔で、なぜかオレの顔を凝視する。
話している相手はウィスタリアさんなのに、なぜオレを?
「個人的には入りたい気持ちはあります。ありますが――即決はできかねます」
「……だよねえ。常連客がいるもんねえ、キミには」
「はい。私がクランに入ると、他のクランの人とはパーティを組めなくなりますから」
ははあ、なるほど。
なんで無所属のヒーラーなんてやってるんだろうと思ったが、実際には逆で、クランに属していない方がいろんな人とパーティを組めるわけか。他のクランとも組めるし、無所属同士でも組める。一番自由な立場なんだな。
「最低限、方々に話をつけるまでは決められませんね」
「残念だけど了解だ。山風くんの方はどうだい?」
「拙者の方に問題はござらぬが――本当にいいのでござるか?」
「いいって、何が?」
「いや、その、拙者シスターと違って腕も知識もないでござるし、ベータ版でもほとんど言葉を交わしたこともなかったでござるし」
忍者の頭巾を引っ張って目元を隠す山風。
「何より拙者のような者が身内クランに混ざっては、気を遣うのでは――」
「何言ってるんだよ、山風」
オレは思わず口をはさんだ。はさまずにはいられなかった。
「オレたちはもうフレンドだろ。お前が言ったんじゃないか」
「は、ハスキー殿――」
「もちろん私も喜んで迎えるよ。性格のいいプレイヤーというのは、それだけで貴重だからね」
「で、ござるか……それならば、うむ」
目元を隠したまま、目線を下げたまま、山風はうなずいた。
「――よろしく頼むでござる、お二方」
それは、ただの二人組だったオレたち『ミスランディア』が、ようやくクランらしくなった瞬間だった。
「ちなみに私も話がつけば入りますから、席は空けておいてくださいね」
「いや、なんでオレを凝視しながら言うんですか、シスターさん」




