29:ジュピトリス入場
「あっはっは! それは災難だったねえ」
街に行ったら囲まれて、逃げた先ではPKに絡まれた。
そんな経緯を説明したところ、ウィスタリアさんは爆笑した。
「まあでも仕方ないよ。悪目立ちしちゃってるからね、私たち。特にハスキーくん」
「オレがですか?」
「おや。その反応、公式ツブヤイター見てないね」
「まだフォローもしてません。ちゃんとやるかどうかもわからなかったし」
「そっかそっか。後で見てみるといいよ」
「はあ」
にまにまと悪い顔をしているウィスタリアさん。
「で、問題の解決法だよね」
「ですよ。同じことが起きるかもってなると気軽に街行けないですし」
「現状我々が攻略最前線だからねえ。ハスキーくんの戦闘力が欲しい人もいるだろうけど、ほとんどはジュピトリスのアライバルオーブにタダ乗りしたいって人たちだろうね」
「あー……」
白蛇の森を抜けて、カトブレパスの群れを抜けて、千変する毒気の迷宮を抜けて、砂漠地帯を抜けた先が、今いるアライバルオーブだ。
改めて考えるとかなり面倒なルートではある。それが、オレたちとパーティを組めばタダで使用できる。労力なく攻略最前線に飛んでその先に進めるわけだ。
「で、その対処法だけど、すごく単純で簡単なヤツが一つあるよ。ただし……」
「ただし?」
「それについては後で話そう。今日一番の目的はこっちだしね」
そう言って彼女は杖を街の門に向ける。
まあ……ウィスタリアさんがそう言うなら、それでもいいか。
「わかりました」
「うむうむ。じゃあ、行こうか」
先導するウィスタリアさんに続いて城壁に近づいていく。
城門脇には詰め所というか窓口というか、そんな感じの場所があって、武装した兵士が立っていた。一人は窓口の中、もう一人は外だ。暑さを考慮してなのか防具は革装備で露出部分も多い。
と言ってもこのゲーム、防具を装備さえしてれば露出部分も防御力で守られるからな。腹筋丸出しでも問題ないんだろう。
近づいていくうち、外にいた方の兵士がこちらに気づいて声をかけてくる。
「入場希望ですか?」
「うん。私とこの子の二人だよ」
「では身分証を確認しますので、こちらに当ててください」
「はいはい」
ウィスタリアさんが窓口に置かれた白銀のプレートにギルドカードを当てる。
それに倣ってオレも同じようにカードを当てた。
カードが光り、窓口内部にいた方の兵士がうなずく。
「確認できました。ウィスタリアさんとハスキーさんですね――んん? って、もしや聖獣を撃破したパーティの方ではないですか!?」
「そうだよ」
ウィスタリアさんが肯定すると、兵士の二人は揃ってこちらに敬礼した。
「街を解放していただきありがとうございます! おかげで我々も仕事に復帰できました!」
「その件について領主様がお礼をしたいとのことで、お二人が通ることがあれば館にお招きするようにと仰せつかっております。ご案内してもよろしいですか?」
「うん。よろしく」
「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」
外に立っていた方の兵士が案内を始め、オレたちはそれについて街に入る。
なるほど。これがウィスタリアさんが言ってたイベントか。謁見イベント的なヤツね。しかしこのゲーム、NPCの反応がリアルだから偉い人に会うの怖いな。全部ウィスタリアさんに任せてもいいのかな。
……いや、待った。
「あの、ウィスタリアさん」
小声で話しかける。
「どうかしたかい?」
ウィスタリアさんが振り返り、小声で返してくる。
「これから偉い人に会うんですよね?」
「そうだよ」
「――水着でいいんですか?」
街の外の砂漠で待ち合わせした関係上、オレたちは今、水着を装備している。
だが、水着姿で偉い人に会っていいものだろうか。
「そうだねえ。街中は暑いけど酷暑判定じゃないから、普通の装備でも大丈夫だけど」
「よかった。それなら着替えますか」
「暑いから私は水着でいいや」
「え」
「大丈夫大丈夫。そんなことで彼女は怒らないよ」
いやいやいや。そうはいうけどさ。
「……オレは着替えますね」
「そう? 暑いと思うよ?」
「多少暑いくらいなら耐えます」
装備を変更して新装備の小袖と袴に瞬時に着替える。
「うっ――」
途端襲ってくる熱気。
確かに暑い。真夏の炎天下で長袖のセーターを着ているみたいだ。だが、それでも海パン一丁で謁見イベントに挑むよりはマシだ。
……いや、別にウィスタリアさんを非難するわけではないのだけど。
「ウィスタリアさんは本当に水着のまま行くんですか?」
「問題ないよ。街の人だって半分くらいは水着だろう?」
言われて見回すと、確かに住人の半分くらいは半裸の革装備で、もう半分は水着のようだった。涼しい普段着――甚平とか浴衣的な感覚なのだろうか。
「まあ、ウィスタリアさんがそれでいいなら、いいですけど」
「いいんだよ。涼しいし。それに、リアルじゃビキニを着て街中を歩くなんてできないしねえ」
「……ちょっと待ってください。その言い方だと現実じゃできない露出行為を楽しんでるみたいに聞こえますが」
「そこはノーコメントで」
「いやそこでノーコメントは実質肯定では!?」
思わず声がでかくなり、先導していた兵士の人が不思議そうな顔で振り返る。
「何かありましたか?」
「い、いえ。何も」
「長く歩かせてしまって申し訳ありません。まもなく領主様の館ですので」
「くふふん。そっか、そろそろか」
ウィスタリアさんは笑いながら眼鏡の位置を指で直す。
それで視線を前に戻すと、確かに前方に大きな館がドドンと建っている。
イベントはまもなく次の段階へと移るようだった。




