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14:ゴーレム





「――ゴーレムは本来、カバラの秘術で生み出される泥の人造生命体だ。ただし創作においてはほとんどの場合カバラは関係なく、また素材も石だったり鉄だったりミスリルだったり死体だったりする」

「実際、アレは岩っぽいですね」

「うん。ストーンゴーレムだね」


 そんな話をしながら、ウィスタリアさんは先程手に入れた杖を構える。

 俺もゴーレムから目を離さずに刀を抜いた。

 それに反応してか、ゴーレムが動き出す。

 ひどくゆっくりと、こちらに向かってくる。


「泥ならともかく、鉱物系のゴーレムには斬撃が通りにくいよ。私がやろう」

「――ウィスタリアさん。ゴーレムの額の最初の文字を削ると倒せるって話、このゲームでも有効ですか?」


 ゴーレムの額の文字には意味があって、emeth(真理)と書かれているそうだ。その最初の一文字を削るとmeth(死)になってゴーレムは土塊に戻るらしい。


「よく知ってるね」

「漫画で読んだんですよ」

「なるほどね。ちなみに有効だよ。ゴーレムの額を見てごらん」


 言われて目を細め、遠くにあるゴーレムの額を凝視する。

 ああ、うん。見たことのない文字だが、確かに何か書かれている。


「でも、石に刻まれた文字を削り取るには石を斬れなきゃ無理だよ」


 なるほど、ダメージが物理演算に準拠している以上、そうなるか。

 けれど、それなら別に問題はない。


「ウィスタリアさんがモンスターの専門家であるように、オレは剣の専門家なんですよ」


 柳生新陰流の流祖石舟斎は、刀で大岩を叩き割ったという。

 それでなくとも地蔵や石灯籠を斬った逸話は数限りない。かつての剣士はそれを当たり前にやっていた。『斬岩剣』や『斬鉄剣』は今では創作のような扱いになってしまったが、かつてはごく当たり前に存在したのだ。

 では、なぜそれができなくなってしまったのか。


 一つは、認識の変化だ。

 刀で石は斬れない。刀で鉄は斬れない。そういう常識が浸透してしまった。結果、現代の剣士は石や鉄を斬ろうとしても体が反動を恐れ、力が抜けて刃筋が立たなくなる。


 もう一つは刀の出来だ。

 かつて刀は戦場で最も使われる兵器だった。

 故にその製法は各所で秘伝とされ、敵より良いものを造らねばと研鑽されてきた。

 しかし、時代が進むにつれ少しずつ刀の重要性は下がっていき、結果各地で細々と伝えられていた秘伝の技術はその多くが失伝してしまった。


 『斬鉄剣』とは元来、『鉄を斬る技術』と『鉄を斬れる業物』が合わさって初めて成しうるものであり、だがそのどちらもがいつの間にか失われてしまったのだ。


 けれど――


「絶対に折れないこの刀で、それを振るうのがオレなら――岩くらいは斬れますよ」


 あのゴーレムが砂岩や泥岩のような柔らかい材質なら問題なく斬れるし、石英のような硬い材質なら斬撃で割れる。

 現実でやったときには刀を一本ダメにしてしまったが、耐久力無限のこの初期武器ならその心配もないのだ。


「わかった。そこまで自信があるなら任せよう。サポートは任せたまえ」

「お願いします」

「『ダメージプラスⅡ』」


 ウィスタリアさんが魔法を唱えると、構えていた刀が白く光った。

 支援魔法か。ありがたい。

 ゴーレムは今も緩慢に近づいてきている。

 ズシン、ズシン、と足音を響かせながら迫ってきている。


 オレは一歩前に踏み出し――


「おっとそうだ。言い忘れていたことがあった」

「なんですか?」

「削るべき文字だがね、()()()だ。カバラで使われるヘブライ語は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ついでのように言われた言葉に、一瞬思考が停止した。


「いやそれを最初に言ってください……!」


 最重要情報じゃないか。

 危ない。超危ない。それを聞いていなければ一番左の文字を削るところだった。

 オレが読んだ漫画ではアルファベットで書かれていたから一番左のeを削っていたのだ。


「もうないですか、言い忘れていたこと」

「まあ、強いて言えば一つ」


 あるんかい。


「じゃあ接敵する前にお願いします……!」


 ゴーレムが近い。

 既に指呼の間。刀の間合い、一足一刀の距離まであとわずか。

 岩で造られた体躯の上に浮かぶ体力ゲージをにらみながら、ウィスタリアさんの言葉を待つ。彼女が口を開く。


「ここのゴーレムは門番でね。こいつさえ倒せたら、ここのボス――バルトアンデルスはすぐそこだ」

「……それは朗報ですね。気合が入りました」



 ゴーレムが拳を振りかぶる。

 オレは刀を構えて腰を沈める。



 戦闘が始まった。




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