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13:生まれた時代





 眼の前には行き止まりの壁があり、そこには赤と青と緑の三つの色違いブロックが埋まっている。


「むむむ……」


 赤か、青か、それとも緑か。

 あるいは三つ全部押し込んでしまうという選択肢もないではない。秘技グーチョキパーみたいなものだ。ただしその場合当然リスクも三倍になる。

 何しろここまでタライを落とされたり床が抜けたりモンスターが湧いたりさんざんな目にあってきた。できるだけハズレは引きたくない。


「……よし」


 意を決して赤いブロックを押し込む。

 ガコンとブロックが反対側に抜けて壁のレンガが組み変わっていく。

 行き止まりの先に道が現れ、思わず安堵の息が漏れる。


「ウィスタリアさん」

「なんだいハスキーくん」

「どのブロックがアタリかハズレか知ってるんですよね。教えて下さいよ」

「ダメだよ。ゲーマーとして、ご新規さんの楽しみを奪うようなことはできない」


 嘘だ。彼女はそんな純真な目をしていない。

 アレはたちの悪いゲーマー特有の目。

 自分がかかったトラップに誰かがひっかかることを期待している目だ。

 オレは再度息を吐き、改めて道を進む。


 今度は赤と紫。

 経験的に赤は正解率が高いことがわかってきた。だからまず試すなら赤がいいのだろう。が、紫色のブロックは今までなかったものだ。相当数のギミックを越えてきたのにだ。

 レアイベかもしれないと思った瞬間、リスクを忘れて体が動いた。

 紫ブロックを押し込む。壁が組み変わる。

 そうして今回出てきたのは道ではなく小部屋で、その中心には宝箱が鎮座していた。


「お、アタリだね」

「開けますよ」

「どうぞ」


 促されるままに宝箱のフタを開く。

 宝箱から煙が広がり、それが晴れるとそこには杖が浮いていた。

 黒く艷やかな岩石を削って作ったような杖だった。当たり前だが長さ的に宝箱には到底入りそうにない。まあそこはゲームだからな。気にしてもしょうがない。

 宙に浮かぶその杖を試しに持ってみると、詳細なデータが表示される。

 ふむふむ。


「『黒曜の杖』――レア度はBランク、効果は地属性魔法にダメージボーナスだそうです」

「はいっ!」


 聞いた瞬間元気に手を挙げるウィスタリアさん。


「はい、ウィスタリアくん」

「それ欲しいです、先生!」

「いきなりキャラ変激しすぎませんか」

「なんだい乗ってあげたのに。やっぱりハスキーくんは教え子よりお姉さんのほうが萌えるってタイプ?」

「ノーコメントで。杖はまあ、オレは絶対使わないんでいいですよ」

「そうなの? 魔法使いも楽しいよ」

「大変そうじゃないですか?」

「まあね。魔法はスキルツリーが複雑だし、スキルもアーツもかなり効率よく取らないと同レベルの近接にダメージ負けするからね」


 MPって枷があるのにだよ、とウィスタリアさんはぼやく。

 そりゃあ面倒くさい。オレはやりたいとは思わないな。

 そう思って黒曜の杖を渡すと、ウィスタリアさんは嬉しそうに受け取った。


「それでもやりたいもんですか、魔法職って」

「そりゃそうだよ。刀は現実でだって振れるけど、魔法は無理だろう?」

「……刀だって、現実じゃまともに振れませんよ」

「む。言われてみればそうか。現実で刀を自由にブンブン振ってたら危ない人だもんね。なるほど、リアルスキルのあるハスキーくんがゲームでも刀を使っているのはそれか」

「ええ。オレはきっと生まれる時代を間違えたんです」


 鎌倉時代なら、室町時代なら、戦国時代なら。

 それでなくとも江戸時代なら。

 今よりももっと自由に剣を振れて、誰かと刃を交えることもできただろうに。

 オレという人間は生まれる時代を間違えてしまったのだ。

 ずっとそう思ってきた。


「いいや、私はそうは思わないな」

「え?」

「今生まれたからこそ、こうしてVRゲームで自由に剣を振るえているじゃないか」

「……それは、確かに」


 言われてみれば、それも一つの解ではあるか。

 ほんの少しでも前の時代に生まれていたら、こうしてフルダイブVRで剣を振るうことなんてできなかった。今の時代に生まれたからこそ、剣を振れているという面も確かにある。


「ところでハスキーくん。そろそろまた毒になる頃合いだよ」

「うわ、もうですか」


 ウィスタリアさんがどこかから取り出した瓶を受け取り、解毒ポーションを飲む。

 ここに来るまでにいったい何本消費しただろうか。気にする様子もなく分けてくれるのでまだ潤沢にあるのだろうけれど。


「ああ、それで一つ思い出しました。アイテムをインベントリに収納するのってどうやるんですか?」

「お、新規らしい質問いいねえ」


 先輩ぶりたいのか、ウィスタリアさんは嬉しそうだ。


「このゲーム、最初はアイテム用インベントリが使えないんだよ。アライバルウェッジだけが収納されていて、出し入れできるのもそれだけだ。インベントリを使うにはSAポイントを消費してスキル『アイテムストレージ』を取得しないといけない」

「はえー……」


 彼女曰く

 『アイテムストレージ Lv.1』で大きめの旅行カバンくらいの収容量、

 『アイテムストレージ Lv.2』で幌馬車の荷台ぐらいの収容量らしい。

 そして最大のLv.5になると大きな倉庫並みの収容量になるとか。


「Lv1でも持っておくと便利なのは確かだけど、SAポイントは有限だからね。パーティ内で担当を決めてやりくりすることも多い」

「なるほど……」


 となると、そのへんもヒバと遊ぶとき話し合ったほうがいいかもしれない。

 生産職はストレージ必須だろうし。

 そんなことを考えながらオレは残った赤のブロックを押し込む。


 壁が崩れ、道が生まれる。

 ここまでも進むたびに道幅は広くなってきていたが、この先はさらに広くなっている。体育館並みの幅がある空間が先の方まで続いている。


 そしてその先に、黒光りする巨大な影が見えた。


「おっと、そうか。もうここまで来たか」

「ウィスタリアさん、あれって――もしかして」

「うん。ゴーレムだね」



 凄まじい威圧感を放つ岩の巨人が、道に立ちはだかっていた。



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