アリとキリギリス
「オイ!お前らホントいい加減にしろよ!」
マイロは耐え切れず声を張り上げた。
「この状況わかってんのか!?」
彼は謂わば、キリギリスの中に紛れた一匹の蟻。
目の前では、布一枚ひっかけただけの男女が享楽の宴を興じている。
「~~~っつーか、クソジジィ!」
白い大理石の宮殿。懇ろに絡み合う彼らの奥に堂々とそびえる、その姿。
「てめーの血だぞ!どうしてくれんだ!」
この国が誇る美しい青と白。そのコントラストを、瞳と肌に。
惑わす美しさ。これも、血で繋がる一族の証。
「だから『怠惰と愛欲にまみれた怠け者のエロス一族』なんて汚名を着せられるハメになってんだぞ!?恥ずかしくねーのか、てめーらは!」
どんなに轟かしても、快楽主義者の彼らには届かない。
「ねぇ、うるさいんだけど~~」
「あぁ!?おめーらの方がアンアンうっせーんだよ!」
マイロの地位は一番下。一番の年下で、新参者。彼より下はいない。
そんな自分が間違っているのか。――いや、そんな訳がない。
他所からは『働かない』と不名誉な烙印を押されているが、ぐぅの音も出ない。その通りだ。今までは大目に見ていたが、なぜこんな状況でこんなことができるのか。甚だ理解できない。
(……本当に、こいつらと同じ血が流れてんのか……?)
誰か嘘だと言ってくれ。そう思っても、自分にも宿るその色。そして、流れた月日が何よりの証拠。
マイロの見た目はバリバリの男盛り。しかし、実はその数倍生きている。普通の人間ならとうの昔にこの世とおさらばしている。
「つーか、ハークはどこ行った!」
どれだけ見渡そうとも。どこにもその姿がない。
「仮にも当主ともあろうモンが……っっっ」
握った拳がぷるぷると震える。
「っくくく……御苦労なさってますなぁ、マイロさん」
「!」
その声に。バッと顔を向けた。
そこにいたのは……鳥。
「……レン?」
「ご無沙汰してますぅ。文をお届けに参りましたぁ」
「文……?」
その嘴に。確かに咥えられている。
「うちの姫さんからですぅ」
「……ジルから?」
そっと肩を宿り木に、「ありがとう」と受け取る。
丸められた美しい和紙。広げ、角ばった大きな墨の文字に目を通す。
再び羽ばたいた翼が、その間を刻む。
「……これは……」