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最終話:そして、世界で一番美しい君と、嘘偽りのない永遠を

 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 本話でいよいよ最終話となります。


 涼子との決着から季節は巡り、季節は初夏――。

不器用ながらも誠実に歩んできた悟と、夜の世界で気高く咲いた暁子が選んだ未来。


 二人の結末を、どうか最後まで見届けてください!



Tohnaの他の完結済み作品はこちら。

良かったら読んでみてください。


「プロレス・ガール」


新女子プロレス団体立ち上げに絡む女子レスラーの群像劇。

https://ncode.syosetu.com/n7293hw/

#narou #narouN7293HW


「シンジケート」欧州サッカーの闇と光を描くクライムサスペンス。

https://ncode.syosetu.com/n4673gl/

#narou #narouN4673GL



 涼子との決着から、さらに季節が巡った。


 窓の外には、突き抜けるような青空と、眩しい初夏の太陽が輝いている。


 ジューンブライド――僕と暁子さんの結婚式は、緑豊かな庭園が広がる、ささやかだけれど温かい式場で行われていた。


「いやあ、パイセン! マジで新郎の格好、似合ってんじゃん!」


「先輩、本当に男前っすよ。ボク、ちょっと感動して泣きそうっす……」


 披露宴会場の控室で、会社の仲間たちが僕を囲んでいた。相変わらずテンションの高い立花美瑠と、すでにハンカチで目頭を押さえている結衣香。


 さらに、阪下さんも、

「お前みたいな不器用な奴が、あんな綺麗な嫁さんをもらうなんて、俺はまだ世の中のバグだと思ってるからな」


 と憎まれ口を叩きながらも、その目はすっかり潤んでおり、嬉しそうに僕の肩を組んできた。

 

 結構、阪下さんってフレンドリーなんだな。


 ふと視線をやると、少し離れたところで水野が、結衣香にさりげなくシャンパングラスを手渡し、何やら楽しげに耳打ちをしている。


 結衣香は頬を赤く染め、上目遣いで彼に微笑み返していた。


 ……いつの間にあんなにいい雰囲気になったのかと驚いたが、今日くらいは野暮なツッコミは控えておこう。


 なんて考えてたら視線に気が付かれて結衣香が笑いながら声をかけてきた。


「先輩、どうしたんですか?ちゃんとりおんちゃんの方を見てないと!」


 僕は視線に気が付かれたのを誤魔化すのに苦笑するしかなかった。


 結衣香とは色々あったけど、こんな風に笑い合える関係になれて本当に良かったと思う。



 真島課長は、我が子を送り出す父親のような顔で、僕の背中をぽんぽんと叩いた。


「悟、本当によく頑張ったな。仕事も、プライベートも、お前が誠実に積み上げてきた結果が今日だ。……吉永常務も、あんなに嬉しそうな顔をしてるぞ」


 いや、結婚式くらいは褒めてくれるんだろうけど……きっとまたどこかで落とすつもりに違いない。


 課長の視線の先には、岩田電産の吉永部長、もとい。常務の姿があった。


 あの冬の役員会での大騒動を経て、春の人事で晴れて『常務』へと昇格した吉永新常務は、今日ばかりは重役の厳しい顔を崩し、ただの優しい伯父として僕の両親と和やかにグラスを合わせている。


 そのすぐ隣には、暁子さんのご両親が立っていた。


 当初は生活のためであって自らが望んだわけではなかったとしても、結果として夜の世界で頂点に立つという過酷な道を選んだ娘。


 どれだけ本人が誇りを持っていても、親としてはずっと心配で、胸を痛める夜もあったはずだ。


 無口で厳格そうなお父さんは、今日という日を迎えた安堵からか、すでに目を真っ赤に腫らして何度も何度もハンカチで顔を覆っている。


 そしてお母さんは、僕の両親の手を両手で包み込むように握りしめ、「あの子のすべてを受け入れてくれて、本当に、本当にありがとうございます……」と、涙声で深く頭を下げていた。


 そのご両親の深い愛情と安堵の姿を見て、僕も胸の奥が熱く込み上げるのを止められなかった。


「皆様、そろそろ新婦様のご準備が整いました」


 スタッフの声に導かれ、僕はチャペルの扉の前へと向かう。


 やがて、厳かなパイプオルガンの音が響き渡り、ゆっくりと大きな扉が開いた。


「……っ」


 思わず、息を呑んだ。


 そこに立っていたのは、純白のウエディングドレスに身を包んだ暁子さんだった。


 透き通るような白い肌、気品に満ちた佇まい。ベールの向こうにある彼女の瞳は、まるで世界中の光を集めたかのように輝いている。


 新宿の夜を魅了したトップキャバ嬢『りおん』の圧倒的な華やかさと、僕だけに見せてくれる清楚で優しい『暁子』の姿が、今、最高の美しさとなって僕の目の前にあった。


 お父さんのエスコートでゆっくりと進んでくる暁子さん。


 お父さんは、僕に娘の手を託す瞬間、言葉にならない声で「……頼むぞ」とだけ小さく呟き、力強く頷いてみせた。


 暁子さんは僕の隣に並ぶと、はにかむように微笑み、そっと僕の腕に手を添えた。


「お待たせしました、悟さん」


「……すごく、綺麗だ、暁子さん」


 一歩、一歩、祭壇へ向かって進んでいく。

 ゲスト席からは、温かい拍手と歓声が僕たちを包み込んだ。


 ふと視線をやると、尾上家の親族席に、ビシッと着慣れない礼服を着こなした兄さんの姿があった。兄さんは僕と目が合うと、嬉しそうに、そして誇らしげにニッと笑って親指を立ててみせた。


 しかしあの時は焦ったよな。


 まさか兄弟で同じ人を好きになるなんて。


 兄さんのすぐ隣には、格式高い式場の雰囲気に合わせつつも、圧倒的なスタイルと華やかさを放つパーティードレス姿の女性——姉小路雪子が座っている。


 そう。兄さんには姉小路がいる。


 姉小路にとっても兄さんは良いパートナーだと僕は太鼓判が押せる。


『ちょっとあんた、背筋伸ばしなさいよ。せっかくの礼服が台無しじゃない』


『うるせえな、ユキちゃんこそ派手すぎて目立ってんだよ。……ほら、ちゃんと二人を見なって』


 相変わらず小声で憎まれ口を叩き合っている二人だが、その空気感は誰が見ても「特別なパートナー」のそれだった。


 さらに一般席の後方には、『堕天使』の葉山店長の姿があった。黒服ではなくパリッとした礼服を着こなした店長は、まるで手塩にかけた愛娘を見送るような、優しく誇らしげな眼差しを暁子さんに向けている。


 その両脇では、沙織さんやあすかさんが上品なパーティードレス姿で並び、


「りおんちゃん、綺麗……っ」

「やだ、もう開始五分でメイク落ちちゃう……!」


 と、すでにボロボロと大泣きしながら、力いっぱいの拍手を送ってくれていた。


 大人に裏切られ、傷つき、一時は人間不信になってバラバラになりかけた僕たち家族。


 夜の街で誇りを持って戦い抜いてきた暁子さん。


 現場での誠実さを信じて走り続けてきた、僕。


 僕たちの周りには、いつの間にか、こんなにもたくさんの優しくて、最高に頼もしい仲間たちが集まってくれていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 式は滞りなく終わった。


 人前で暁子さんとキスをしたのは恥ずかしくも嬉しい気持ちになった。


 キスが終わっても、僕たちはしばらくお互いを見つめ合っていたんだ。


「お、おほん。そろそろそれくらいに……」


 神父さんに(たしな)められる始末。


 場所は変わって披露宴。


 お互いの友達からたくさんの祝福のスピーチをもらった。


 今回の仲人は田淵部長にお願いしたのは間違いではなかった。


 さすが部長。


 そして僕のメインゲストとしてスピーチをしてくれたのは、やはりこの人以外は考えられない。


「えー、高い所から僭越ながら、悟くんの直属の上司であります、私、真島 陽太朗が一言ご挨拶を申し上げます。まず、暁子さんとの馴れ初めですが」


 唖然とした。


 何を言うつもりなんだこの人!


 彼女がキャバクラで働いていた事は出席者は殆ど知っているとはいえ……『自分のお気に入りだったの悟にとられました』くらい言いかねないぞ、この人なら。


 僕が必死な形相で真島課長を睨んでいると、ウインクで返された!


 この人は、絶対に何かやる。


 やばいぞ?絶体絶命じゃないか!


 課長は声のボリュームを少し絞って言った。


「我々の最重要取引先である、岩田電産の吉永常務の姪子さんでいらっしゃる暁子さんが、この悟くんから進学のアドバイスをした事がきっかけだと聞いています。そうだよな、悟?」


 そう来たか。


 僕は高速で首を縦に何度も振った。


「でも、悟はあろうことか、暁子さんが五年後に岩田電産に入社して再会するまで忘れてたんだよな? 何か申し開きは?」

 

 参列客がどっと笑った。


 穴があったら入りたい。『ございません』、というのがようやっとだった。


「最後になりますが、この二人が歩んできたここ一年少しの間は、決して平坦な道ではありませんでした。しかし、その凸凹の道を二人で踏み固めていまではしっかりと手を携えて歩いている、私にはそう見えます」


 そう締め括った課長のことを、僕は尊敬していると再確認できたんだ。


ケーキ入刀も終わり、いよいよ新郎挨拶の時間がやってきた。


 僕はマイクの前に立ち、会場にいる大切な人たちを見渡した。


「本日は、僕たちのために集まっていただき、本当にありがとうございます」


 僕は、隣に立つ暁子さんの手をギュッと握りしめた。


「僕は、決して器用な人間ではありません。仕事でも、プライベートでも、たくさん壁にぶつかりました。ですが、ここにいる皆様が、僕たちを信じ、支えてくださったおかげで、今日という日を迎えることができました」


 パチパチと、温かい拍手が静かに広がる。


「僕の妻となる暁子さんは、どんな時も嘘をつかず、自分の仕事と人生に誇りを持つ、世界で一番優しくて強い女性です。……僕はこれからの一生をかけて、彼女を、世界で一番幸せにすることを、ここに誓います」


 僕がきっぱりと言い切ると、暁子さんの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の嬉し涙がこぼれ落ちた。


 会場全体から、今日一番の、地鳴りのような拍手と歓声が沸き起こる。


 結衣香や美瑠、そしてあすかさんたちは泣き、真島課長と吉永常務は深く頷いている。


 兄さんも、男泣きを隠すように上を向いていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 披露宴が終わり、夕暮れ時のガーデン。


 ゲストを見送った後、僕と暁子さんは、二人きりで心地よい初夏の夜風に吹かれていた。


「お疲れ様、暁子さん。……本当に、最高の結婚式だったね」


「はい……。私、生まれてきて一番幸せな一日でした、悟さん」


 暁子さんはドレスの裾を少し持ち上げ、僕の胸にそっと頭を預けてきた。


 遠くからは、三次会へ向かう水野と結衣香の楽しそうな声や、葉山店長に労われている沙織さんたちの声が微かに聞こえてくる。


「ねえ、悟さん」


 暁子さんが顔を上げ、悪戯っぽく、けれど深い愛を湛えた瞳で僕を見つめた。


「私……これからは『りおん』じゃなくて、ずっとあなたの『暁子』として、お家でお出迎えしますね」


「うん。……でも、僕は『りおん』としての君のことも、ずっと尊敬してるし、大好きだったよ」


 僕がそう言うと、暁子さんは少し驚いたように目を見張った後、これ以上ないほど幸せそうに、ふわりと微笑んだ。


 誠実に生きてきたことは、絶対に裏切らない。


 どんな嵐が吹こうとも、手を繋ぎ、嘘偽りのない心で向き合い続ければ、未来は必ず輝き出す。


 新宿のネオンよりも、どんな夜の街の煌めきよりも美しい、僕たちの新しい人生の幕開け。


「あ、そういえば、どこに僕たちは向かってるの? 三次会の場所、水野の野郎、俺に教えてくれてないんだよ。暁子さん、どこか知ってる?」


 暁子さんは少しもじもじしながら、上目遣いで僕を見た。


「あの、私たった今、悟さんにウソをつきました」


「え?」


「今日だけ、もう一度だけ『りおん』に戻ります!」


「あの、三次会はまさか……」


「そのまさかですよ!」


(―― 完 ――)

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


 これにて、悟と暁子りおんの物語はひとまず完結となります。


 不器用だけれど決して嘘をつかず、誠実さを武器に走り続けてきた悟。


 そして、過酷な夜の世界で誇りを持ち、トップにまで上り詰めた強くて優しい暁子。


 全く違う世界にいた二人が、時にはすれ違い、傷つきながらも、手を取り合って今日という日を迎えることができたのは、彼らを支えてくれた仲間たちのおかげです。


(真島課長のスピーチはヒヤヒヤしましたが、彼なりの最大の祝福でしたね。笑)


 そして最後の最後で、まさかの『りおん』復活宣言!


 三次会の会場で悟がどんな目に遭うのか……それは皆様のご想像にお任せします。


 きっと、水野や葉山店長たちも交えて、最高に賑やかで幸せな夜になったはずです。


 結衣香や兄さんカップルなど、周囲のメンバーたちも、それぞれ力強く自分の道を歩んでいくことでしょう。


 ここまで二人の道のりを応援し、見守ってくださった読者の皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。皆様の応援が、本作を最後まで書き上げる原動力になりました。


 もしよろしければ、最後にお気に入り登録やご感想などをいただけますと、大変励みになります。


 重ねてになりますが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


 また別の物語で皆様とお会いできる日を楽しみにしています。




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