あの子のシフトに休みが無い
地図の上に配置された駒が狭い王都を囲んで並んでいる
「……また撤退か」
シキカンが額に手を当ててのけぞる
「疲れた兵士も居ないしやけに強い」
「どうして魔王軍が急に変わったんだ 補給や交代まで完璧じゃないか」
出席者から次々と声があがる
「これ いつもの王都軍の動きに似てるわ」
地図を見た副官リンパが呟く
「この補給と休息の取り方 支援部隊の動き方 身体に染みついてる」
どこか懐かしさすら感じさせるそれに、周囲の者たちも黙り込む
やがてリンパが、一枚の資料を取り出して続けた
「エクセル=シフト 元・雑務課 魔人との接敵で行方不明」
その名を聞いた瞬間、シキカンの表情がわずかに曇る
(シキカンは何か知ってるわね)
――
本部雑務課
壁にはスケジュール表が手書きでびっしり
その中心には若い少年エクセル=シフト
「森近くの補給はタイミングが難しいので、予備の馬車を手配しておきます」
「ズレた分の馬車は城門警備と兼用する事で人員を回します」
「夕方には討伐隊が帰って来るため、食堂のシフトを夜重視に」
「いや なにその脳内カレンダー……こわ……」
冷やかしに来たリンパが、さすがに口を挟む
声に驚き、エクセルが机から顔を上げる
「リンパ先輩居たんですか 独り言聞かれると恥ずかしいんですけど」
急に【子供っぽい】表情になり、もじもじと照れる
リンパ(うん……たまらん)
「それより働き詰めじゃない 最近休み取ってる?」
「昨日リンパ先輩にマッサージしてもらって2時間寝ました」
「それは休みとは言わん!!」
「……なんで、こんなに頑張るの?」
エクセルは一瞬手を止めた
しかし、またシフト表を組みながら答える
「――誰かが、誰かの休みを守らないといけないからです」
人生2周目のような、子供らしからぬ顔をして言う
――
「居なくなってから調べてみたら あの子の担当したシフトだけは【死者を出さなかった】」
「そんな奴が……なぜ、魔王軍に」
リンパは息をつき、報告書を閉じる
「孤児の時に王都軍に入ってから――自分の休みだけはゼロだったわ」
部屋が静かになった
MP回復のため1日働いたら2日休みが常識だ
毎日働くなんて1ヶ月と心が持たない
「とりあえず今日は解散だ」
重い空気で会議が終わる
誰もが想像すらしたことのない労働に、言葉を失っていた
リンパだけが窓の外――魔王城の方角に目を向ける
「ねぇ、エクセル 今は……ちゃんと休んでる?」




