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ネガティブ・シンカー~アンチ・ポジティブのススメ~  作者: はいぼーる
第一章 草薫る始まりの丘は ~アシェム継承戦争編~
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第一章プロローグ ネガティブ・シンカーとは何か

「ネガティブはポジティブの反対の感情よ」

 ウルの言葉が俺の頭の上で響いている。

 ウル・ラバウは利発で活発、その上、誰もが認める美貌と豊かな魔法力を兼ね備えている。誰もがうらやむ美少女と言えるだろう。そんな彼女は今、俺の護衛官兼秘書として戦場に赴いている。

 その俺といえば、戦場で寝転がって空を眺めていた。

「しかし、単にマイナスの思考ということではないわ」

 くらくらと回る頭の中にウルの威勢のいい声が聞こえる。倒れて夕闇に染まる空を見上げている俺は力なく大地に仰臥し、ただその声を聞いているだけだった。

 要するに、俺は倒れている。

 戦場で倒れているなんて何とも無様だろう。こんなんで戦争に勝てるとでも思ったのだろうか。あぁ、ただ恥ずかしい。こんな無茶苦茶な戦争の渦中にいることが恥ずかしい。いや、でも、俺は言うことを聞いていただけだし、むしろ巻き込まれた側だからな。うん、こんな言い訳を考えている俺、情けない。

 こんな自分を貶めることばかり考えているからだろうか、それとも先程後頭部を打ったからか、はたまたその前にヴィローズの葉なる俺もよく分からないが、あまり思い出したくないものをがぶ飲みした影響が出たのか、胃の中の物が全て逆流するような不快感が俺を襲っている。

 つまり、気持ち悪い。

「ネガティブは大いなるポジティブの可能性を秘めた感情なの」

 俺がこんなにも自分を貶めるような発想しかできないのには訳がある。それは俺が根っからのネガティブ・シンカー、つまり、否定的な考え方の持ち主であるからだ。まぁ、このネガティブな考え方がこの世界では価値を持っているそうだが、今はこんなピンチの場面ですら、自らを追い込む自分に心底呆れている。

 頭を打ち、草原の大地に寝転がっている上に、こんな最悪の発想をしている俺とは対照的にウルは興奮を抑えきれない。言葉の端々に高まる感情が溢れていて、俺への期待に満ちている。さすがはポジティブ・シンカー、俺にはマネのできない芸当だ。

 ……なんか、悲しい。

「高く跳びあがるには、深くしゃがみ込まないといけないでしょ、あれと一緒よ。私たちとは違い、普段からネガティブな発想しかしていない悟がヴィローズの葉の効用によって急速にポジティブになったらどうなるか」

 ヴィローズの葉というのは何とも恐ろしい代物である。その使用前と使用後を比べると人間はこうも変わるのかということを突きつけられる。そのヴィローズの葉を俺はこのウルにがぶ飲みさせられた。それも通常の摂取量の四倍って……護衛官が護衛対象を殺していいんだろうか。

 最悪の気分である俺の心配事とは正反対に、ウルは意気揚々と話をしていた。みなぎる自信と溢れんばかりの期待が俺に突き刺さる。

「それは、爆発的なポジティブへの変換、つまり、ポジティブ・ブレイクを引き起こすのよ」

 高ぶった感情を溢れさせんばかりの大きな声が俺の耳元で響く。太陽はもう沈んでいるはずなのに、なんだか眩しい。人間、発想が百八十度違うとこんなにも違うのか。あぁ、俺はなんて不幸なんだ……。

 と、その時だった。

 俺は体中が熱くなり、一瞬にして今までの倦怠感や不快感が消え去るのを感じた。体幹だけでなく、指先など末端部に至るまで熱を発している。

「来たわ!」

 全身から発せられる熱はただ俺の体温を上げているのではない。全身に力が、いままでに感じたことのない力がみなぎっていることの証である。胸の鼓動が速くなり、気持ちの高まりが手に取るように分かる。

「ポジティブ・ブレイク、爆発的な魔法力の解放よ!」


 これは覚醒だ。


 ネガティブ・シンカー、それはネガティブな考えの持ち主。生まれてこの方、ネガティブな生き方してこなかった俺が今、高まる気持ちとみなぎる力よって生まれ変わろうとしている。


 あの陰鬱な日々から――。


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