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5.

辺りは、もう日も暮れて、空一面にきらきらと、星達がひしめき合うように輝いていた。

 遠くで、犬や狼の遠吠えが聞こえる。

 向こうの世界では、田舎に行かないとめったに見られない星空だった。

 あの廃屋のような占いの館をでて、裏の丘のほうを登ると、下の寂れた様子などなく、草花が咲いた草原が存在していた。風がゆっくりと、レオの栗毛色の髪を揺らす。

「光!」

 レオは光を見つけて、丘を登っていく。

 光はこちらを向いて、やっぱり困ったように苦笑いをしていた。

「光、隣りいいか?」

 レオが遠慮がちに聞いてきた。

「かまわないよ、レオ」

 光は柔らかく朗笑した。そんな姿を見つめながら、先程の事を思い出す。

「なあ、俺は、回りくどいのが嫌いだから、聞くけど、光は、どう思っているんだ?王位を継ぐことを・・・」

 こんな不躾(ぶしつけ)な質問、レオには関係ないと言われたらそうなのだけど。

 光は一旦、レオを見て、また視線を星空へと向けた。

「俺は・・・」

 光は、言葉を詰まらせ、何かを思い出しているようだった。

 その様子をただ、レオは黙ってみていた。

 光は、十年前のことを思い出していた。城が炎に包まれ、王が、自分の父親が殺され、自分と一緒に逃げていた母親は、光を巫女神殿に連れて逃げた後、光を逃すため囮になってそのまま、行方が分からなくなったのだった。光はそのまま、巫女のアーリアと向こうの世界へと逃れたのだった。あの時は、光は幼く、守られることしかできなかったのだった。誰もが自分を逃すために、多大な犠牲を払った。それもこれも、王位継承者だからもあったが、何もできない自分にやけがさし、自責の念を感じずにはいられなかった。

 自分が王位を継ぐことで国の、世界の均衡が保たれることも知っていたし、分かっていた。この十年間それだけを考えて、答えなき答えを考えてぐるぐるとループしていた。

 分かっているし、知ってもいる。それが一番いいということを。けれど、そう、けれど覚悟ができないでいたのだった。決意という全てを背負うという覚悟が・・・。

「・・・俺はどうしたらいいのか分かっているんだ。この十年間ずっとずっと考えない日のないほど、考えてきて・・・けれど・・・けれどっ」

 声がかすれる。まるで光の今の心境のように、今の空に浮かぶ夜空のように沈んだ瞳が、レオを悲愴に見つめる。

 レオが、そっと、光の肩を優しく包むように抱きしめた。

 戸惑っているのだろう。分かっていることも、課せられているものも、やらなくてはならないことも全て、分かっているけれど、自分と同じ十六歳のまだ大人にもなれていない子供が、大きなそう、大きなものを背負う覚悟ができていないのだ。手の中に人の命がかかっているのだから・・・。自分の判断が、直で命に関わってくることに、決意と覚悟ができていないのだ。

 もし、自分だったら、どうしていただろうか・・・。そう、感じずにはいられなかった。

 けれど、

「俺は、光じゃないし、光も俺じゃないから、光の事は一から十まで分かるわけじゃないし、光がいやなら、王様なんてならなくいいなんて無責任な事も言えない。けど、俺は、思うんだ。俺が結構な、巻き込まれ体質だけどさあ、色々今までに数え切れないほど色々あったけどさあ、自分がその時生きるために一生懸命考えて行動してきた結果だと思うんだ!だから、後悔はしていないんだ!前も言ったかもしれないけどさあ、そのおかげで俺は男らしく自分の信念の元に向かってると思うんだ!光も、光もさあ、」

 レオは、光のきれいな青い碧い大空のような瞳を見つめながら、

「後悔だけはしないようにな!」

 優しく、慈しむように朗笑する。

 多分、俺の言った事は何も役に立っていないだろうと思いながらも、レオはただ、光が少しでも、心の奥底の荷が薄れてくれればいいと思いながら。けれど、そう簡単なものではないと深慮していた。

「レオ、俺、まだ覚悟とか決意とか全然だけど・・・!けど、そうだね、後悔はしないようにする・・・!レオ、ありがとう」

 光は、レオに思いっきり抱きつきながら呟いた。レオは思いっきり抱きつかれた事で、バランスを崩し、光を抱きしめたまま仰向けに倒れた。

「いや、お礼を言われるような事、これぽっちも言ってないんだがなあ・・・」

と、星空を見つめながら呟いた。

 光は、レオの左肩に顔をうずめながら、微かに肩を震わせて、泣いていた。

「・・・」

 レオはそっと、光の、夜闇でもきらきらと星のように輝いている金髪をゆっくりと指で梳くように撫ぜた。

 良くも悪くも、決して後悔のないように・・・。


 しばらくして、光が落ち着いたのかレオの顔の両端に両手を付いて、顔を上げた。

「大丈夫か?」

 レオが心配そうに聞いて、そっと、光の頬の涙の後を拭う。

 光は、一瞬面食らったように驚いたが、落ち着いたのか、先程より、大人っぽく微笑んだ。

 その表情を見たレオは、ほっとした様に嬉笑した。

 それを見た光は一気に顔に熱が集中するのが分かった。

 そして気づく、今の格好を。まるで、光がレオを押し倒したような格好になっている。

「!!」

 レオは、そんな状況など、気づいていない。

 レオの白い艶やかな肌が、夜闇の月や星に照らされて美しく浮かび上がっている。

 風がゆっくりと吹いて、レオの栗毛色の柔らかい髪を揺らし、シャンプーの甘い香りが光の鼻をつき、光の鼓動が脈を打つ。

「光・・・?」

 不思議そうに、レオが光に訪ねる。レオの瞳は星に照らされてきらきらと蒼黒色の瞳が輝いていた。薄く開いたぷっくりとした、チェリー色のかわいらしい唇が光の瞳にひきつけられた。

 無意識に唇を近づけて行った時

「くっしゅん!」

 レオがかわいらしい?くしゃみをしたのだった。それによって我に返った光は、急いでレオの上から退いた。

「あ、っと!!ごっごめん!」

 自分が今しようとした事にきづいて吃驚する。そしてありえない事をしようとしたと、頭の中で反芻しながら、後悔の念でいっぱいになっていたが、当の本人は

「いや、こっちこそすまん!鼻水ついてねー?」 

 といって、鼻をぐすぐすとしている。レオは光が今しようとした事など気づいていない。

 まさか、光がレオにキスをしようとしていた事など。

 そんな様子に、安堵とそして、微かな落胆が光を襲った。

「俺は大丈夫だよ。レオ・・・。それと、ありがとう。こんな時間まで付き合ってくれて・・・」

 苦笑いをしながら笑ったのは、レオには見えなかったようだった。

「気にすんな!」

 そう言って笑うレオに、確かに光の胸には小さな甘い痛みが大きくなっている事に気づいた。

「・・・」

 それは、それは確かに育っていた。甘い甘い切ないくらいの大きな痛みに。

「そうだ!そろそろ帰らないと、ドーラスさん心配するんじゃね?」

「・・・そうだね」

 そう言って、二人は占いの館に向けて歩き出したのだった。


「あら~!もう!どこ言ってたのよ!危ないじゃないのよ!!」

 そう言って、ドーラスが、館の裏口のほうから手を振っている。

「まあ、ここ一帯は一応結界張っているけど、万が一ってことがあるからあんまり、遠くまで行かないのよ!」

 ドーラスが咎めるように言う。光のどこかすっきりした表情を見て内心ほっと安堵していた。

「すみません。ドーラス・・・」

 申し訳なさそうに誤る。

「いいのよ!気にしないで」

 ドーラスは柔和に笑い、一瞬考えた表情をして、光にだけ聞こえる声で、

「ところで、あんな目立つところで、レオを襲うのはどうかと思いますよ。王子」

 ドーラスはにやりと意地悪く笑った。

 その様子に、瞬時に真っ赤に顔を染めた。

 そんな二人の、様子にレオは

「どうしたんだ?二人とも??」

 不思議そうに、尋ねた。

「いや、レオ!なんでもないよ!」

 焦ったように光が言うと

「そうかしら~」

 ドーラスが面白そうにくすくすと笑いながらからかう。

 そんな様子に、レオもまた光が元気になったみたいだと安堵した。

 その一瞬。

 レオのすぐ後ろに、人の気配がした。

『王子一緒に来てもらいますよ』

 そう、耳元で囁かれた。

 レオが後ろを見ようとする。けれど、レオはフードで包み込まれた。

「!」

 光はすぐレオに抱きつくように手を伸ばしたが、レオが足で、光をドーラス側へ思いっきり蹴りやった。

「レオ!!」

 ドーラスが、何か急いで呪文を唱えたが、間に合わずに、レオは連れ去られたのだった。

 光はレオが自分と間違われ、連れて行かれたことが、先程のささやきで、光にも、聞こえていたのだった。そして、わざと、レオが光を自分から引き剥がしたのもあの蹴りで分かった。

「くそ!何故俺の結界が、聞かなかった!!」

 ドーラスが焦ったように、辺りを散策するように呪文を唱えている。

 光は、ぐっと拳に力を入れて握った。

「レオを助けなければ!」

 自分が弱かったし、ふがいなかったばっかりに、十年前色々なものをなくしてしまった。

 けれど、今はあの頃のように幼くもない。助けるための手段も力も今ならある。今度こそは、レオをそして、そうそして、守るべきものを守らなければそう、思ったのだった。

「ドーラス!レオは俺と間違われて連れて行かれた!早急に何とかしなければ、たぶん命が危ない。俺じゃないとわかって、命が助かる可能性は低い。一刻も早く見つけ出さなければならない・・・!」

 光が真剣にドーラスに言う。その表情は先程まで迷っていた表情ではなく、何かを決意したそういう表情だった。

「レオが連れて行かれた場所は分かるか?」

 その表情はどこか人の上に立つものの表情だった。

 その事に、嬉しく思いながらも、ドーラスの巫女臣の力がそうやすやすとそこらの魔術師に破られるはずはなく、そう考えると、巫女神殿に残るの力を使ったとしか思えない。

「そうですねえ、多分、王宮、もしくはそれに隣接するようにある巫女神殿だと思います。」

 思案するように眉宇を顰めた。

「ここからは、どのくらいでつく?」

「そんなにはかかりませんよ。私達の力をあわせて、王都に空間をつなげましょう。それに、この際ですから、城を落としましょうか」

 にっこりと、冷笑を浮かべ、かねてより計画していた事を、実行するべく、ドーラスは光に提案した。

「そうだな、もともとやらなければならなかった事だ、混乱に乗じて、レオを助けやすくもなる。ファラスの事も早々にけりをつけなければならないからな」

 思案したように、光ははっきりと返答した。ファラスを退けさせ、王宮や巫女神殿から早々に、魔神信仰を取り去らなければならない。その言葉には迷いは一切なかった。

「では、他のもの達にも伝令を送っておきましょう。王子がこちらに帰ってきた事で、ラッストラ王都に集まって来ていますので」

「これ以上、国も、民も、そしてレオも被害にあってはならない・・・!」

 これ以上、被害が及ばないように。一つとして取りこぼす事ないように、守らなければならないそう、思った。

 国や世界の綻びを阻止しなければならない。

 レオは強く強く、血が(かよ)わないほどに強く拳を握り締めた。

 先程までのレオの暖かさや柔らかさ、そして、甘い甘い花のような匂いを思い出しながら。強く決意した。そう、後悔のないように・・・。


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