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5.対立と共生

 金属製のダイヤルを親指で弾き小さな火を口元の煙草越しにを吸い込むと仄かな熱と少しの焦げ臭さを帯びたほろ苦い煙が肺を満たすのを知覚する。

少しの息苦しさを味わった後、脱力と共に優しく息を吐き出す。

 

(あの時、僕が追いかけていたらどうなっていた?)


 霊獣を倒し、路地で倒れていた時摩先輩を基地の医務室へ運んだのがつい1時間程前になる。

 小さな個室に充満した煙を眺めながら先程までの明確な命の危険が少しばかり遠のいた事に安心感を覚えている自身にふと問いかけていた。


(僕が代わりに追跡に回っていたなら、対象の執行は…出来ていたろうか)


 熟考するまでもない。

 否だ。

 戦闘スタイルや経験値、推定危険度の分かっている霊獣と未知数で正体不明の敵…。どれをとってもあの状況なら先輩が行くべきだった。それは間違いではない。

 そもそもとして、時摩先輩ですら対処できない相手に僕が挑んだところで殺せるとは思えない。


「ふぅ…」


(自分なら何か出来たはず…か…)


「ははっ、笑えない程傲慢だな。僕は」

「そうか?」


 穏やかな声がした。

 扉のあいた音に気付かなかったが、見上げると拳藤支部長が居た。

 スーツのポケットから煙草を取り出し一口吸う。


「思うんだがな…。責任を感じることと、夢想に浸るのは別なんじゃねぇかな」


 僕はすぐに言葉を返すことはできなかった。


「現場は常に一瞬の判断の連続だ。少なくとも、能力的にもお前は優秀だよ。

緊急性の高い霊獣の対処をお前に任せた…というか託した掌の判断を俺は間違ってないと思うぞ」

「……そう、ですね」

 「まぁなんだ。たられば言ってもしょうがないってことだわな」


 がははと豪快に笑いながら火の消えた煙草を角柱型の灰皿に放り込んだ。

 そろそろ出るかと喫煙所の戸に手をかけたところで、廊下の角から吉川が慌てた様子で駆けてきた。


拳藤支部長おじさま!界さん!掌パイ起きたっす!!」


 聴き終わるか否かのタイミングで僕の両脚は医務室へと続く廊下を走り出していた。


――――――――――――


「……」


 少し、靄のかかった視界越しに見えるのは白い天井。


「…ぐっ」


 朦朧とした意識が脇腹の激痛と共に覚醒する。

 あぁそうだ。確か俺は霊獣を呼び出したフードの男を追いかけてそのあと…もう一人の…。


「仮面の男…」

「あっ…!」


 ガチャンと大きな音がした。目を向けると赤毛の背の低い少女が目を見開いて持っていた花瓶を落としていた。


「…莉々華(りりか)さん」

「あ、おっ、おはようございます…?」


 何故疑問形なのかはわからないが、ともあれここが関東基地医務室なのは言うまでもない。


「俺…いや、事件はどうなってますか」

「対象は行方をくらましたままだそうです。それよりどこか身体痛むところありませんか?半日程寝てたんですよ」


 金縛りの不意打ちを食らったとは言え自分の不甲斐なさを痛感する。

 

(情けないな…機正階級が聞いて呆れる)


「界と吉川は無事ですか」


 返事を聞く前に扉越しにドタドタと走る音が聞こえた。


「先輩起きたって!…あっ」


 ぜぇぜぇと息を切らせ界が駆け込んでくる。

 相当急いで来たのだろう。髪が汗に濡れて肌にぺたりとくっついている。


「そのっ、失礼しました…医務室で大声を出して」

「よう、無事だったか。霊獣対処は…いや、お前も無事で何よりだ」

「吉川さんが隙を作って下さったので…それより、先輩は何があったんですか」

「あぁ…実はな……」


――――――――――――


 少しため息をついた後時摩先輩は語り始めた。


「あぁ、首筋を後ろからがしっとな…。しっかり爪も食い込ませやがって、くそっ」

「時摩先輩それってその…皮膚片とか…」

「あぁ、一応寝てる間に吉川が解析に回してくれてる。結果が分かり次第データベースで照会するはずだ。まぁ今はそれよりも…」

「仮面の男…ですよね。そいつらが霊獣を呼び出したあと、先輩を刺したと」

「奴らはHOLLOWについて何か知っているようだった…今になって思えば俺はまんまと誘い込まれたってことだろうな」


 成程、情報が漏れている。

 あの場において先輩のみを孤立させて仕留めようとしたということか。


「してやられたねぇ…お互いさ」


 カーテン越しに軽薄でありながらもどこか疲れた声が聞こえた。


「染島さん!?」

「やっほーボコボコに負けた挙句『あ、掌ちゃんいる!』って思ったけど莉々華ちゃんとか繋木ちゃんとかが入ってきて話しかけるタイミングを完全に見失った剥也ちゃんだよ」


 顔に貼られたガーゼや肩にかけられた包帯が痛々しくひらひらと振る手はいつもよりも力無く見えた。


「ど、どうされたんです?そんなにボロボロになって…」


 染島さんはへらへらと痛みを堪えながらも精一杯軽薄そうに笑う。


「いやぁ鋼ちゃんと栃木に任務行ってたんだけどさ。

馬鹿強い仮面の二人組にボッコボコにされちゃってこの様ですよ」


 仮面を被った奴らが向こうにも…つまり相手は複数犯、もしくは何らかの組織。

 明らかにこちらの動きを理解した上で殺しに来ている…HOLLOWに対する挑戦状のようなもの。


(HOLLOWを狙う虚人…調べる必要がある)


 三人に軽く挨拶を済ませると僕はその足で資料室へと向かった。


「失礼します…」


 資料室のドアを開けるとそこには先客が居た。

まず目に入ったのは鮮血のようなスカーレットのポニーテールと両耳たぶに付けられた黒のリングピアス、そして鋭利なナイフのように鋭いその目つきだった。


「ん、誰だお前?見ない顔だな」

「ご挨拶が遅れました。先日関東基地に配属になりました界 繋木機官です」

「あー、拳藤の爺さんが言ってたな、ってことはあれか?掌ぶっ刺したっていう金縛りの虚人の資料か?」

「あ、はい。何かあればいいんですけど…」


 資料室には過去起きた全ての境界事案の資料を執行難度と能力系統ごとにまとめてある。


(対象へ触れることによる金縛り、能力的に執行難度自体はそこまで高くないはず…。DかCあたりの妨害系で探してみるか)


 見上げるとそこには背丈以上に高い灰色の棚と書類の山。

 執行難度Dだけでも恐らくは1000件をゆうに超えるだろう。


「改めて、すっごい量だな…。とりあえず一番端から見てみるか…」


 少し古ぼけた資料を一つ二つと手に取ると目を通し始めた。


「…1995年半径5メートルにある対象の動きを遅くする…違うな。おっ、これは…2001年血を舐めた際に対象の動きを止める…あでも先輩は身体に触れられて金縛りにあったって…」


 数十件の資料に目を通したところでふと商店街での聞き込みの際の店主の言葉を思い出した。


(…事件前後は停電が起きてた…防犯カメラの映像もその時間帯だけない…)


 犯人が犯行前に商店街一帯のブレーカーを落とした?

 いや、だとしたら痕跡くらい残るはずだ。

 しかし電気系統やカメラはいじられた形跡は一切なかった。そもそも各店舗全ての電気系統を同時に止めるなどできないだろう。

 だとしたら何らかの能力…。


(金縛り…じゃないのか?)


 触れることによる一時的な有機物無機物の行動制限、金縛り…。


「いや『封印』か?」


 僕は一つの可能性を思い至り、足早に資料室を後にした。


――――――――――――


「熱心だよねぇ繋木ちゃん。そんなに掌ちゃんやられたのが効いてんのかね?」


 界が部屋を去った後、俺はベッド横のカーテン越しに会話をしながら退屈をどうにか埋め合わせていた。


「どうだか…まだ知り合って日も浅いからな。だが、あいつは虚人に対して攻撃的すぎる」

「そりゃそうでしょ。捜査官なんだし」

「だが、少なくとも日本支部は()()だろ」

「…そうねぇ」


 HOLLOWは支部ごとにある程度特色というか派閥というものがある。 

 人命優先の守護派。

 虚人殲滅を目的とした排斥派。

 そして虚人との共存を目的とした共生派。

 大きく分けるとこの三角関係となっている。そして、俺達日本支部は共生派だ。


「なーんで日本支部うち来ちゃったんかな。

殺したいなら中国支部とか行けば良かったのにさ」

「さぁな。喋れないんじゃないか?中国語」

「いや、身も蓋も無さすぎでしょ」


 そんな他愛もない話をしていると医務室のドアがコンコンとノックされ、こちらが返事をする前に勢いよく吉川綾音が入って来た。


「うっす時摩先輩。対象の身元わかったっすよ」

「すまんな吉川…データベースで照会できたとなるとやはり登録済みの虚人だったわけか」


 だが、吉川は少し困ったような顔をして首をふるふる横に振った。


「それが、違うんすよ」

「ん?…どう言うことだ?」


 吉川は少し躊躇った後、数枚の資料を渡して言った。


「こいつ前歴あったっす」

「前歴?」


 資料書かれたその名前を見て思い出した。

 4年前の栃木で起きた一家殺害事件。そしてその犯人、名前は鍵崎 悟(けんざき さとる)


「うっわ、これ知ってるわ。争った形跡とか一切なく母親と子供二人が首無し死体になってた怪死事件でしょ?当時めちゃめちゃニュースでやってたもん」

「当時この母親の飛鳥あすか 美香みかさんへのストーキングをしてた悟が捕まって起訴されたんすけど…」

「ストーキング自体は認めたが殺人については否認。決定的な証拠がなく無罪になった…か」


 金縛りの能力的にも争った形跡や証拠などを残さずに殺すことも可能だろう。

 恐らく能力の発動条件は対象へ直接触れること。被害者の首がないのは指紋等の証拠を消すためと考えれば辻褄は合う。


「だがまぁ、こいつが人を殺した証拠はなくともこいつが虚人で今回の件の犯人であることは間違いなさそうだな」

「そうねー。商店街のカメラ映像とかあったらよかったのにねぇ」


確か、商店街の店員が事件当時に停電が起きたと言っていた。犯人が犯行前に電気系統を弄ってカメラを止めた?しかし警察の調べでは商店街の電気系統に断線や故障は見られなかったはず…。

 それにしても商店街全てのカメラを同時に、しかも一時的に止めることなど可能なのか?


「んー協力者がいたのかも。ほらあの仮面の男とかさ」

「まぁ…なくはないが」

「それと、商店街の電力系統、電線とかっすね。マナの痕跡が見られたっす」


 電力系統にマナ…物理的ではなく能力で電線から電気を止めたとしたら…? 

 俺達はそもそも相手の能力を勘違いしていたということになる。


「金縛りじゃなくて封印系ってこと?」

「…ちょっと待て、この話俺等以外にしたか?」

「え?そうっすねここ来る前に界さんとすれ違ったんで言ったっすね。あと、なんかボソってやっぱり紫色だって言ってたっすね」


(紫色…まさか「マナ過剰適応症」…!?)


 マナには適応率というものがある。

 その適応率が一定値に達することができなければ、義手装具やマナレンズなどマナを使用する装備を使用できない。

 だが稀に適応率が()()()()()が居る。

 それがマナ過剰適応症者だ。

 例えば義手装具の能力発動の際の出力が異様に高く暴発しやすくなったり、義手装具の絶縁手袋を着けてもマナが漏れ出してしまったり、マナレンズを使用した際にマナが色付きで見えたりする。


「不味い…あいつは先日の襲撃で対象を視認してる。

色付きで見えるなら現場から対象を追うことなんて容易だぞ」

「おいおいおい突っ走っちゃうよーあの子!どうすんのよ正式に虚人認定も出てないのにさぁ」

「いやそれよりも、殺人の可能性があるなんて情報聞いてるなら…多分殺すぞあいつ」


 背筋にツーっと冷たい汗が伝うのを感じる。


「とりあえず綾音は作戦室に連絡入れてくれ。義手装具から現在地を割り出せる筈だ。俺達はとにかく現場だ、行くぞ剥也!」

「あーもうーまだ身体痛いんですけどー!?」


 まだ痛む身体を叱咤しベッドから飛び出すと横にかけてあったスーツに袖を通しながら病室を飛び出した。


――――――――――――


 空はどんよりと曇に包まれていた。

 少し冷えた空気漂うビル街のその屋上に男はいた。

 毛玉まみれの薄汚れた黒いパーカーのフードを被った痩せ型の男。


(紫色…確定だな)


 尾行はしていたが場所から察するにバレていたということか。


「お前良く尾行できたな。目立たないように逃げてたんだが」


 粘ついた声でこちらに呼びかけてくる。耳に張り付いてくるような不快感だ。


「鍵崎 悟…だな」


 ゆっくりとこちらに振り返りフードを取る。資料通りのコケた頬とぎょろりとした目。妙に吊り上がった口角。


「おぉー名前まで知っててその目つき、事件資料とか見た感じか?あーーそっか!じゃあさじゃあさ!遺体の写真見た?見たよなァ!いいカラダしてんだよ!ケヒヒヒッ」


 握り締めた拳が震え、滲むはずのない汗すら感じた。


「…なんで殺した」 

「殺したくはなかったんだよぅ…引きこもりだった俺はあの人に救われたんだ。親からも周りの全員からも蔑まれてきた俺を見てやさしぃーく微笑んでくれたんだ。こう…にこってさ…!」


 ゾクッと背筋に悪寒が走る。

 目の焦点もあっておらずに横に裂かれたかのような瞼、吊り上がった口角をさらに吊り上げた。

 その自分の顔を骨ばった人差し指で指さす。

 形容しがたいその顔を人は笑顔とは呼ばない。だが、その自称笑顔はふっと消え去った。


「俺たちは惹かれ合ってたんだよ…わかる?運命だよ運命!でもな、あいつ俺を騙してたんだ」


 血走らせた眼球が今にも飛び出しそうになりながら対象はしゃがれた声をまき散らす。


がきだよ!!

あいつがき拵えてやがったんだよ!俺以外の!!俺を差別してきた男とぉ!!!騙してたんだ…あぁそうさきっと笑ってやがったんだ!こんなんあんまりだよ…俺が可哀想すぎる…殺されるべ……」


 対象が最後まで言葉を紡ぐことはない。

 黒鉄の拳が音を置き去りにしながら対象の頬にめり込む。

 先程から絶えず渦巻く筆舌しがたい悪寒。これは時摩先輩を刺したことへの憎悪か?それとも罪なき遺族を嘲笑うこいつへの嫌悪感からか?いや違うもっと分かりやすいものだ。

 単純にこのバケモノが本能的に只々不快で、おぞましくて、気持ち悪いのだ。


(あぁ成程。やはり虚人(こいつら)根本からして人じゃないのか)


 間髪入れず顔面を殴り続ける。

 殴る度にバキッメキッという音が響く。多分顎と奥歯が数本折れたのだろう。赤黒い血がこべりつくのをものともせずに僕は拳を止めなかった。

 虚人がなぜ生きてはならないのか、存在するべきでないとされているのか。

 簡単な話だ。

『こんな生き物が居たら都合が悪い』からだ。

 人が本能的に害虫害獣を見て嫌悪し殺そうとするように本能が叫ぶのを感じる。


(こいつを殺そう。今すぐに殺そう)


 本能の言葉に従い息も忘れ拳を振り上げた時、奇声を上げながら対象がこちらに飛びかかった。


「ブァァァア!!!!!」

「…っ!」


 咄嗟に身体をよじるが両腕を掴まれてしまった。そのまま僕を突き飛ばすと対象の血塗れた口元がにやりと歪み、勝ち誇ったように叫んだ。

 

「触った!触ったぞ!!!いきなりぶん殴りやがってよぉ痛てぇじゃねぇか。さぁて、このまま首を落としてやるからなぁ」


 腰に着けたナイフを抜き放ち、こちらににじり寄る。このままでは間違いなく首を落とされるだろう。

 だがしかしそれは対象が触れたのが()()()()()()()()()()だ。

 ボグッと鈍い音とともに振り抜かれたかいなは対象の下顎を弾き飛ばした。

 

「ふぐぅっ!?なん…でっ!」

「どうやら義手装具は身体判定ではないらしいな?」


 義手装具の機能であるマナの流れや腕の感覚なども停止している。

 だが、義手装具はあくまでも義手。身体への封印扱いには当たらないらしい。


(情報が漏れている以上正直賭けではあったがな)


 義手装具の筋力補助も無い為か腕が重い。

 例えるならばピンと横に立てた指先だけで2リットルのペットボトルを振り回しているようなものだ。

 身体の捻りと遠心力でまるでハンマーのようにただの鉄塊と化した己が腕を振り下ろす。

 先程までの威力はないが、度重なる打撃で傷ついた対象には充分だ。


「があっ…!」


 ゴンと鈍い音共に血と歯が数本飛び散り対象がよろめきながら屋上の端へと追い詰められてゆく。


「落ちろ!!!」

「…っ、やめっ!!」


 脳震盪からかふらりと天端を踏み外し落下する寸前、反射的に意識を取り戻したのか対象はなんとかその端を掴んでいた。


「…はぁはぁ、悪運は…いいようだな」


 対象は宙ぶらりのまま目に涙を浮かべている。


「だ、だの゛…む!!…だずげで!」


 折れた歯が喉に突き刺さり出血しているためだろう。声は先程以上にしゃがれており何を言っているのかギリギリ分かる程度だ。


「能力を解除しろ…そうすれば助けてやる。しないならこのまま顔面を蹴り飛ばす。幾ら虚人と言っても今のお前なら落下の衝撃で死ぬだけだ」


 対象の顔がさらに青白く血の気を失っていくのがわかる。


「…めろ…繋木…!」


 声が聞こえる。


(時摩先輩か…?歩けるようになったのか。そうかなら…良かった…)


「ア゛ァ…!だずげ…!!」

「煩いな…解除しないってことで…いいよな?」

「まっで!!!グモ!グモ!!!」


 背後から全速力で駆け寄る足音が聞こえる。だが、僕はゆっくりと足を持ち上げた。


「やめろぉぉぉぉ!!!!」

「ふぎぃぃぃ!!いぃあぁぁぁあ!!!!!!!」


 対象は最早言葉にならない奇声を上げながら指を離した。

 再度掴もうと伸ばした手は無残にも空を切り、そのまま地面へと落下…しなかった。

 虚空に空いた穴より封印の解かれた僕の手が対象を空中で腕をつかんだからだ。


「繋木!!」

「殺してないですよ…」


 引き上げた対象は気絶しており、無力化出来ていた。


「処理班を呼んでください。それとこいつの治療を」

「待て…お前何したか分かってんのか?」


 襟を掴まれ身体が少し浮く。

 その目には焦りや困惑など色々なものが混じっているように見える。


「虚人執行をしました。捜査官として当然の義務です」

「お前殺すつもりだっただろ…」

「あいつも人を殺してます」

「だとっ…しても!」


 言葉が見つからないのだろう。時摩先輩は震える手を離した。

 僕はそのままボロボロの身体を庇いながら基地へと帰還した。


――――――――――――


 関東基地の地下の独房。

 両腕を絶縁手袋で拘束され壁にもたれかかった男、もとい鍵崎 悟に目をやる。

 そうして鉄の扉越しに僕は口を開いた。


「よう。無事だったらしいな」

「おまえ…なんで殺さなかったんだ?」

「お前に聞きたいことがあったからな」


 ぎきぃと扉を開けてゆっくりと目線を合わせる。


「『()()()()()』について知ってること全部話せ」




用語解説⑥

・マナ過剰適応症


マナの適応率の高すぎる際に発症する病。

マナを用いた道具(義手装具やマナレンズ等)の過剰な出力による暴発のしやすさや常にマナが漏れ出してしまったり、対象のマナが色付きで見えたり等

重度の場合は脳内の言葉が聞こえてきたり、マナの溜まりすぎによる身体の爆発等の危険性がある。


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