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4.暗躍者(後編)

 霊獣との戦闘開始から数分が経っていた。


「虚(ボー)を開(ダー)く鍵(ライン)!」


死角をついた拳撃は分厚い体毛の表皮に阻まれる。


「毛が邪魔で衝撃が分散される…!」

「うちが隙作るんで、一撃ぶち込んでくださいな!」

「了解(オーダー)!」


そう言うな否や吉川先輩が簡易装具をはめ込む。

その拳はマナレンズ無しでも分かるほどマナが集中し、青白く輝く。


「簡易装具起動!食らってけ犬っころ!

拳藤支部長(おじさま)直伝、マナブレイカー!!!」


吉川先輩の拳に閃光が瞬き軌跡を描きながら獣の脚目掛けて叩き込まれる。

霊獣が轟音と砂煙をあげながら後方に弾き飛ぶ。


「崩れた!今っす!」


全身に巡るマナを全て右手に集中させる。

義手装具(うで)がバチバチと火花を散らし、強烈な熱を帯びるのを感じる。

限界まで溜めたマナと、身体のねじりをバネに変えて敵の眼前に飛び込んだ。


「これで…落ちろっっ!!」


 赤熱と白光を迸らせたその拳は分厚い体毛を焦がしながら頭蓋を砕き、アスファルトの地面をへこませた。

 唸り声を上げる間もなく肢体を地面にめり込ませ、ビクリと筋肉を只管させた後ドロリとした黒泥へと姿を変えた。

 黒泥が焼け焦げた異臭が鼻を貫き、息が詰まる。


「無事っすか界さん!」

「…問題ありません…それよりも先輩を追いましょう」


 酸欠からか視界がぼやけるが、足はまだ動く。

ならば任務続行可能だ。少し呼吸を整え、路地に駆け込む


「っ…!?」


 そこに居たのは血溜まりの中力無く倒れ込む時摩先輩だった。


――――――――――――


 数時間前に遡る。

 栃木県F区の駅前の小さなカフェの一席。


「…ちょっと遅くない?」


 予定時刻は既に30分前に過ぎている。

 自分も20分ほど遅れてきたがさすがに遅すぎる。


(早めに終わらせて掌ちゃん達の方合流したいんだけどなぁ…)


 ピコンと言う音と共に画面に映るのは新着メッセージ。


『今すぐ逃げろ』


 言の葉を発するよりも先に感じたのは熱と衝撃。

 瓦礫と砂煙の中姿を見せるのは怪しげな仮面の二人。


「お仕事終了〜ねぇ、帰りなんか食っていかない?奢ってよ」

「…対象の死体を確認するまでが任務だ」  


 紫の仮面の男は軽薄に告げるが赤の仮面の男は真面目に答える。


「面倒くさいけど…、あんま時間もないしねぇ。

よぅし、ぱぱっといこうか」


 肩を落としながらも背の低い方が一歩足を前に踏み出すその刹那、背後から強烈な殺意と共に銀腕が繰り出された。


「がら空きだぜお二人さん!!」


(とりあえず触れさえすればこっちのもん…!)


 だが紫の仮面の男はこちらを見もせずに拳を受け流し、そのまま地面に叩きつける。


「がっ!?」

「残念がら空きじゃないんだなーこれが!」


 なんて反射神経、いやそれとも気づかれていたのか?


「てか触らせねぇよ。お前は特には面倒くさいからな」


 仮面の男二人の声色は変わらない。

 戦闘で負けることを一切考慮していないこの余裕、

それに先程の異常な反応速度、マナレンズで覗くがマナを纏っていること以外の情報がエラー表示で読み取れない。


「んじゃ、今度はちゃあんと殺しときますか」


 紫の仮面の男がとどめを刺さんと手をかざす。 


(こいつまじで何者だ…?でもまぁもういいかな?)


 そもそも僕の役割は彼女が来るまでの時間稼ぎでしかないのだから。


「壱番(デストロイア)!!」

「…あ?」


 轟音と共に鋼の巨拳が地面ごと仮面の男を抉る。


「遅いよ…鋼ちゃん」


 危機一髪とはこのことかと痛みを誤魔化し何とか立ち上がり、救世主に礼を言う。

 あと数秒来るのが遅かったら間違いなく僕は無残な死体に成り下がっていただろう。


「ちっ、避けやがったな雑魚共。ったく…さっきからマナばらまいて威力下げたりとか、めんどくせぇ妨害ばっかしやがって」


 なるほど、襲撃を受けたときからがなんとなく予想はしていたがやはり俺達の情報が漏れていると見て間違いないだろう。


(機密組織としてどうなのよそれは…)


 赤の仮面の男は慌てた様子一つ見せず静かに倒れた方を起こす。


「もう少し時間が稼げると思っていたんだがな。こんなにも早く追いつかれるとは…逆上 鋼少し侮っていたか」

「あ゛〜いってぇ死ぬかと思った」


 まともに当たってないにしても、あの鉄拳を食らって痛いで済ますとは。 

 下手な虚人以上の尋常ならざる耐久力(タフネス)。

想定以上の難敵と見える。


「ここで仕留めんぞ剥也」

「まぁ…そうよね」


(俺が触って動き止めてから鋼ちゃんの火力でなんとかってとこか。今すぐにでも退きたいんだけどねぇ…)


 恐怖以上の緊張で義手装具を握り締める。滲まない筈の手汗を感じる程だ。

 仮面の男達のマナは未だに揺らぎは見られない。


「やる気か。いいねぇそう来なくっちゃ」


 紫の仮面の男の右手がバチバチと火花を散らす。

 腕装甲(ガントレット)をつけているのだろうかマナが集中しているのが見てとれる。


「待て…時間だ。退くぞ」


 一触即発の臨戦態勢を破り、赤の仮面の男が左手を前に出し紫の仮面の男を制止する。


(ここで退く?鋼ちゃんを警戒してか?こっちの体力的にもありがたいことではあるけど…)


「時間じゃしょうがないか、土産は置いてってやるよ」


 紫の仮面の男はあっさりと臨戦態勢を解き、懐から藍色の液体の入った小瓶を取り出すと地面に叩きつけた。

 その瞬間、背中に冷たい悪寒が走る。

 周囲のマナ濃度の急速な上昇、黒泥から出でるは白い毛皮に覆われた巨躯。


「霊獣だと!」

「次会う時があるかは知らんが、また会おう」

「待ちやがれ仮面野郎!!」


 去り行く仮面の男達を追いたいが、霊獣(こいつ)がそうはさせてくれまい。

 だが、僕も限界。ここは鋼ちゃんに任せるしかなさそうだ。


「鋼ちゃん頼んでも…」


 言いかけたところで爆発と轟音が鳴り響き白い巨獣は黒泥諸共弾け飛んでいた。


「おう。なんか言ったか」

「あー…えっと、疲れたから背負って」


何が起きているかは分からないが、確実に何かが、暗躍している何者かが居る。


「それにしても、組織の奴ら何隠してんだ…」

「そうよね、絶対こっちの情報バレてたし」

「んなことじゃねぇよ」

「え?」


 鋼の放ったその言葉を僕はすぐに理解する事が出来なかった。


「あいつらの腕。腕装甲(ガントレット)なんかじゃねぇ、あれは義手装具だぜ」

用語解説⑤


・量産型簡易装具

HOLLOW潜入班の基本装備。

義手ではなく、籠手のような装備。

出力面では義手装具に遠く及ばないが、適性などを関係なしに誰でも使用可能。

装着者の腕先にマナを纏わせる。

Cランク以下の虚人、霊獣にダメージを与えられる


・マナブレイカー

拳に一定以上のマナを溜め込み殴りつける技。

対象のランク関係なしに大きくノックバックさせる事ができる。

簡易装具の特性上Cランク以上の対象にダメージをあまり与えられない

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