File 5 : 竹下翔太 6
それから2日。
久我山の元に、美波が消えたと所轄署から連絡が入った。
「奥山美波の姿が消えました」
「な、なんだと?」
「美波は護衛と2人でコンビニに行ったのですが、護衛が男2人に襲われて、美波だけ連れ去られました」
「しっかり警護しろと言っただろ!」
久我山が激怒して、所轄署に向かおうとした時、久我山のPCモニタに映像が映り始めた。
「ちょっと、何すんの!」
「やめなさいってば!」
「私をどこに連れてくつもりなのよ!」
美波の声だった。
モニターに映っているのは2人の男で、車移動している様に見えた。
…美波が竹下が置き忘れたメガネをかけている?
久我山は事態を察して、鈴木にすぐ来る様にと連絡した。
「美波さんが連れ去られた。
美波さんは鈴木のメガネを咄嗟にかけて、こちらに情報を流してくれている。PC持ってすぐ来てくれ。
救い出すぞ!」
美波は男達に暴力を振るわれてはいない様で少し安心したが、相手がいつキレてしまうか分からない。
久我山はハラハラとしながらモニタを見つめた。
「どこに行くのか、だって?大人しくしてればすぐ着くよ」
「おろしなさいよ!」
「うるさい!大人しくしてろ!」
久我山は美波がかけているメガネに向けて話しかけた。鈴木のメガネは音漏れしないから、犯人達には聞こえない…はずだ。
「美波さん、今、助けに行きますから、無謀な事はしないでください。なるべく大人しくしていて下さい。いいですね?」
車のエンジンを掛けるのも、もどかしい。
久我山は鈴木を連れて研究所を出たが、美波の乗る車も移動中で居場所は確定できない。
気持ちは焦る。
「警視正。とりあえず東方向です」
久我山は所轄署に無線で、現場に急行せよと指示を出した。
「今、A159道に出ました。まだ、東に向かっています。
詳細な位置は…車が止まるまで…」
「A159道、矢田交差点、左折」
「車が止まりました。美波さんの映像も外に出ている様子が映っていますので、位置が確定です」
鈴木が確定した拉致監禁の場所は、ぼろアパートだった。覆面パトが音もなく続々と到着し、人気のないそのアパートの周りを固めた。
美波の声は相変わらずメガネを通して聞こえてくる。
「知らないって言ってるでしょ!」
「だからさ、お兄さんから預かった物を誰に渡したのかを言ってくれたら痛いことはしないさ」
「何の事言ってんの?知らないってば!」
「あの刑事の彼氏に渡したのかな?でも、彼氏、爆弾で大怪我しただろ?」
「彼氏?誰のこと言ってんの?
近くに来ないでよ。
やだ、あんた、タバコ臭いんだから!」
「アニキ、この子、可愛いですね」
「バカ、手を出すなよ。立山さんから手は出すなって言われてんだろうが!」
「た、たてやま?」
「ああ、立山さんは怖い人だよ。
だからさ、誰に渡したのか言いなよ。それとも、まだ持ってるの?お兄さんから渡されたSDカード。
言わないと、ちょっと痛い事になるかな?」
「きゃ〜っ!竹下さん、たすけて!
竹下さん!!」
その時、ドアのチャイムが鳴った。
「すみません、宅配でぇ〜す」
ピンポン、ピンポン、ピンポンピンポン
ドンドン、ドンドン
ピポピポピポピポ
ドンドンドン、ピポピポ
「るせぇ!静かに…」
男が鍵を開けた瞬間、久我山がチェーンをボルトクリッパで切り、ドアを蹴破って現れた。
「竹下の代わりに参上!
拉致監禁、暴行で現行犯逮捕だ。
抵抗するならSATも呼んでやるけど、どうする?」
美波を拉致監禁した男2人は呆然と久我山を見て、部屋の中で突っ立っていた。
所轄の刑事達に取り押さえられた男達は、大人しく連行されていった。
美波はその男たちを睨みつけていたが、久我山に肩をポンとされると急に震え出し、涙目になった。
「竹下さんが…忘れていったから…。
元気になったら、か、返そうって。
メガネ、昼間は持ってたの。
使い方、習ったから…」
美波はポロポロと泣き出した。
「ご、ごめんなさい。
か、勝手に使って…」
「無事でよかった。ほんとによかったです。
怖い目に遭わせてしまい申し訳ありませんでした。とりあえず、行きましょう」
久我山は、美波の背中をそっとトントンとして、所轄署の刑事に言った。
「後で奥山美波さんを署に連れて行きますので、ほんの少しだけ寄り道をさせて下さい」
車に向かって歩きながら、久我山は美波に話しかけた。
「美波さん。竹下に会いに行きましょう。
意識が戻ったそうですよ。先ほど連絡がありました」
それを聞いた美波の顔が一瞬パッと輝いたが、すぐに曇った。竹下の入院する病院に着いても、美波は一言も話さず歯を食いしばるように緊張し、手を握りしめていた。
こんこんと病室のドアを久我山がノックして開けると窓際にベッドがあり、竹下が痣だらけの顔で横たわっているのが見えた。
「…竹下さん…」
美波が竹下に駆け寄り、声を掛けた。
すると、竹下が眼を開けた。
「…み…なみ…ちゃん」
奥山美波は竹下の顔を見て号泣した。
竹下は手を伸ばして美波の頬に触れた。
久我山はそっと病室を離れた。




